擬態者とモデル どこまで似せれば良いの?
獰猛な(?)ハチに擬態することにより、
捕食者をだまして、身を守る虫の種類は、予想外に多い。
ただ、過去にこのブログで、何度も紹介したように、
ハチに似ている程度(擬態の完成度?)は、千差万別である。
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一体どのくらいハチに似せることができれば、
効率的に相手(捕食者)をだませるのだろうか?
まずは、下の写真をご覧ください。
右側が蛾の仲間のセスジスカシバ(擬態者)で、
左がそのモデルとなったキイロスズメバチである。
オリジナルページはこちら
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ほぼ同じ角度で撮った写真を、貼り合わせたので、
よく見かける博物館の標本や、擬態関連の本の写真とは違って、
自然状態で、どの程度似ているかが、はっきり分かると思う。
これならば、人間も含めて、多くの外敵は、
このハチそっくりな蛾を、攻撃することはないだろう・・・・(多分)。
しかし、セスジスカシバは、例外中の例外であり、
むしろ「やりすぎだよ!!」というレベルに達している。
実際には、これほど似ていない組み合わせがほとんどであり、
それでも、十分標識的擬態として機能している・・・・(多分)。
実際には、捕食者の種類や空腹度、過去の経験などの他に
周囲の条件(明るさ)や、モデルと擬態者の個体数の差など、
複雑な要因が絡み合うことになるだろうが・・・・(多分)。
目立たなくするタイプの隠蔽的擬態(Mimesis)の場合には、
あまり木の葉や枝に似てなくても、
基本的には、目立たなくする方に向かっているので、
確率的に、何とか生き残ることが出来そうである。
しかし、目立たせる標識的擬態(Mimicry)の場合には、
中途半端に目立つようになるので、捕食者に発見されやすくなり、
完成度が高くないと、むしろ逆効果になってしまう。
何故、不完全な擬態者でも、生き残っているのだろうか?
考えられる一つの理由は、捕食者にとってみれば、
人間が毒キノコを、見分けるのと同じように(?)、
それを食べるか食べないかは、命がけの選択なので、
ちょっとでも怪しいと思えば、手を出さないのかもしれない。
だから、ハチ擬態者は、ただ何となく漠然と、
ハチ(の仲間)に似せているだけで、十分なのである。
ここで、もう一枚の写真をご覧ください。
以前、隠蔽的擬態の例で、ヨモギの花穂に擬態する
ハイイロセダカモクメという蛾の幼虫を、
ミラクル擬態として紹介した。
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標識的擬態の場合でも、「そこまで似せなくても!」という擬態はある。
これも、ミラクル擬態の範疇に入るだろう。
左側がジョウザンナガハナアブ(擬態者)で、
右がそのモデルとなったキイロスズメバチである。
⇒当初は、キボシアシナガバチとしていましたが、Nabita氏より、
キイロスズメバチであるとご連絡いただきましたので、
種名を訂正しました。
オリジナルページはこちら
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110928/1/
もともと、アブとハチは姿かたちが何となく似ているが、
これほど似ている組み合わせは珍しい。
白状すると、私は、パソコンで写真を仮保存するときに、
このアブを、ハチのホルダーに入れていたのである。
⇒特に言い訳をするわけではないが、
それほど、擬態の完成度が高く、
スズメバチそっくりなのである。
このように、ただ漠然とハチに似ているだけの他のアブと違って、
ジョウザンナガハナアブだけが、キイロスズメバチに、
パーフェクトに擬態しているのである。
もちろん、ジョウザンナガハナアブは、
これですべての外敵から身を守れる訳ではない。
ミラクル擬態の好例、ハイイロセダカモクメ幼虫は、
おそらく完璧に野鳥類の攻撃を避けることが出来るだろうが、
近すぎる捕食者(?)クチブトカメムシに対しては、
なすすべもなく、いとも簡単に、攻撃されてしまったように・・・
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20111018/1/
それでは、ある特定のモデルに標準を合わせ、
完成度の高いミラクル擬態をしなければならなかった理由は、
一体どこにあったのだろうか?
ますます、ちょっとだけ不思議な昆虫の世界である。