目玉模様の進化【3】
昨日の【2】を、先にお読みください。
主として昼間活動するチョウの場合は、どうだろうか?
まず、タテハチョウやジャノメチョウの仲間にも、
以下の写真に見られるように、いわゆる目玉模様を、
翅の一部に持っている種類がいる。
ヒメウラナミジャノメ(ジャノメチョウ科)
2010年8月11日 田沢湖・秋田
ジャノメチョウの仲間は、やや日陰になった林道に多く、
あまり目立たない色彩が特徴でもある。
しかし、蛾の持つ目玉模様と比較して、決定的な違いがある。
オオヒカゲ(ジャノメチョウ科)
2010年8月8日 長者原SA・宮城
ジャノメチョウ類の持つ目玉模様は、
比較的小さく、翅の淵に沿って2個以上存在し、
いわゆる一対の眼のようには、なっていない場合が多い。
アオタテハモドキ(タテハチョウ科)
1999年6月21日 石垣島・沖縄
これは、沖縄で普通に見られるタテハチョウの仲間であるが、
その目玉模様は、常に見えている状態になっている。
これでは、【1】で述べたように、突然見せつけて、
外敵をビックリさせる効果は、まず期待できないだろう。
タテハモドキ(タテハチョウ科)
1999年6月21日 石垣島・沖縄
ほぼ、同じ場所に生息するタテハチョウの仲間である。
このタテハモドキは、目玉模様の大きさや配置が、
それまでの3種と比較して、やや微妙である。
このように、一見すると眼のように見える模様が、
実際に、捕食者が獲物と見なして攻撃態勢に入ったときに、
フクロウやヘビの眼に見えているかについては、
より詳細な観察が必要である。
ただ、一方で、これらの目玉模様の機能については、
別の見方をすることもできる。
ほとんどのジャノメチョウ類が、
翅の淵に沿って持っている数個の小さな目玉模様は、
小鳥を驚かすことはなく、逆に、小鳥がついばむ行動を、
そこに向けさせる役割を持つと言われている。
静止しているジャノメチョウを見つけた小鳥が、
急所である胴体から離れた翅のヘリにある目玉模様を、
一番最初についばんだとき、
ジャノメチョウは、わずかな翅の損傷を残して、
その場から飛んで逃げることができるのである。
(これ、本当だろうか?)
学生時代、チョウを捕虫網で華麗に採集して、ふと見ると、
翅の周辺部からクサビ型に破損している個体がいる。
チョウを採集したことのある人なら、
誰でも経験しているはずである。
それらの破損は、左右対称に認められることが多く、
ビーク・マーク(beak mark)と呼ばれている。
これが、小鳥が目玉模様に向かって攻撃(ついばむ)する証拠とされている。
しかし、この状況証拠は、翅を閉じて静止しているチョウを、
背後から小鳥が攻撃していることを示しており、
このことに対して、疑問を持つ専門家もいるようである。
いずれにしても、目玉模様に関する議論には、
常に微妙な問題が付きまとう。
昆虫類の持つ眼状紋の進化および実際の防御効果に関しては、
我が家のすぐ近く(車で5分程)にあるのだが、
弘前大学におられる城田安幸博士の研究が有名である。
おそらく、進化を実験室内で再現しようとする日本で最初の取り組みであった。
城田博士は、主にカイコを用いて眼状紋の進化に関する実験的研究を行い、
目玉模様が進化する可能性を、以下のように述べている。
目玉模様のような過度にまで発達した適応色彩の現象は、
それを進化させた捕食者の知覚判断における
『無意味なものに意味を見い出す能力』によって、
説明できる場合が多い。
これは正当な指摘であると思う。
目玉模様とか擬態とかいうと、どうしても、
役者(信号発信者)に目が行きがちであるが、多くの場合、
観客(信号受信者)の方から見た方が、混乱は少ないと思うからである。
実験の手法および考察については、
是非、城田博士の著書【仮面性の進化論:海鳴社】をご覧ください。
捕食者(小鳥)が、予想以上に個性的であることを発見し、
目玉模様のあるカイコを人工的に作り出す試みや、
当時としては斬新なコンピューターシュミレーションの採用等、
とにかく、進化とは何だろうかという問いに答えるため、
非常にユニークな手法で、研究された結果が、分かりやすく解説されています。
(つづく)
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