目玉模様の進化【2】
昨日の【1】から先にお読みください。
昨年12月24日に紹介したアケビコノハ成虫の場合も、
クスサンとよく似た行動が観察される。
下の写真のように、アケビコノハの成虫は、通常の静止状態のときは、
典型的な隠蔽的擬態である「枯れ葉模様の前翅」が見える。
ところが、外敵に襲われたり、危険を感じたりして、
飛び立つ寸前に、前翅を広げると、
普段は見えない鮮やかなオレンジ色の後翅の表面が表れ、
そこにある(やや不完全な目玉模様)を、外敵に見せつけることになる。
でも、そのときの写真をよく見ると、
突然前翅を広げて、目玉模様を見せたというよりも、
ただ単にその場から逃げようとして、(翅を広げて)、
飛び立っただけである。
アケビコノハの場合も、クスサンと同様に、
逃げようとして飛び立つ寸前には、
後翅にある鮮やかな模様が、嫌でも見えてしまうのである。
捕食者に限らず、多くの生物は、
突然目の前に鮮やかな色をしたものが飛び出すと、
かなり驚くことは、半世紀も前に、
ブレスト博士の有名な実験で証明されている。
博士は、被食者のそばに、突然色々な模様が表れるような装置を作り、
とても目玉には見えないような「四角」や「十字形」の模様でも、
捕食者(鳥)の攻撃を避ける頻度は、模様がない場合に比べて、
十分に下がることを確かめた。
つまり、目玉模様でなくても、何らかの模様が突然目の前に出てくると、
ほんの一瞬でも捕食行動を躊躇させることができるのである。
このように、捕食者が、『えっ!? 何これ?』と、
攻撃するのを一瞬ためらうことで、
被食者は、そのすきに、現場から逃げ出すことができるのは、
以前述べた、「カメムシの匂いのビックリ効果」と全く同じである。
しかし、残念ながら、目玉模様もカメムシの匂いも、
両方とも、それだけでは、絶対的な防御効果はない。
鳥は、同じようなイメージの餌を食べ続ける傾向があり、
目玉模様をもった『他に防御手段を持たない味の良い幼虫』が、
目玉模様に恐怖心のない(ヘビやフクロウなどに遭遇したことのない)鳥に、
一度食べられてしまうと、【目玉模様の幼虫 = 餌】という関係が成立して、
逆に「よく目立つ目玉模様は、おいしい餌」として認識されてしまう。
だから、他に防御手段を持たない(味の悪くない)蛾が行う
『突然翅を広げて、後翅にある目玉模様を見せる』
という行動が進化する条件は、かなり微妙である。
以前紹介したように、ベイツ型擬態が成り立つ条件のひとつである、
モデルと擬態者の数の問題とも関係するが、
捕食者が最初に食べるのが、「擬態者」か「モデル」かによって、
その後の状況は、異なってくるはずである。
したがって、ベイツ型擬態の場合には、
擬態者の個体数がモデルより、かなり少ないという条件は、必須であった。
さらに、防御手段を持たない擬態者が生き残っていくには、
捕食者がモデル種を攻撃したときに経験した恐怖心(!)を、
いつまでも覚えていることが前提である。
目玉模様の場合も、全く同じことが考えられる。
というか、わずか数年の寿命の小鳥たちが、自然状態で、
フクロウやヘビに襲われて、しかも、(その怖い経験をしただけで)、
生き残っている確率は、どの程度なのだろうか?
これでは、小鳥が生まれて最初に出会うのが、
フクロウかクスサンかによって、
クスサンの運命は、大きく異なってしまうのか・・・
話が、ちょっとややこしくなってきた?!
(つづく)
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http://kamemusi.no-mania.com/Entry/73/