虫たちの防御戦略⑭/⑮ 物理的防御手段
カマキリの前肢、コロギスやスズメパチの大顎など、
自分の獲物を捕らえる攻撃的な手段となるものが、
外敵に対する防御手段にもなる可能性は高い。
一例だけ写真を示そう。
花にいたキイロスズメバチの写真を撮っていたら、
急に自分に向って飛んで来た瞬間!!
秋になると、スズメバチの仲間が人を襲うというニュースが流れる。
もちろん、彼らの外敵(人間)に対する防御行動である。
スズメバチの強靭な大あごは、かなり怖い。
何か、肉をそぎ取られてしまうような恐怖もある。
しかし、獲物を襲うことのない虫たちも、
物理的な防御手段を、独自に発達させている。
最も分かりやすいのが、全身に毛やトゲを持つ虫たちだ。
多くはチョウ目の幼虫で、中には、
こんなやり過ぎとも思えるトゲトゲを持っているものもいる。
多分アカヒゲドクガ幼虫。
なんか、形状の異なる数種の毛が、体中に生えている。
見た目だけで、関わり合いになりたくないイメージである。
良く見ると、両サイドの短い毛は、アリの攻撃を防げそうである。
上に伸びる長い毛は、ムシヒキアブやサシガメの攻撃を、
邪魔することが出来そうである。
ただ、鳥に対する防御効果は、全くなさそうだが・・・・
リンゴドクガ幼虫。
これだけ見事に毛があると、思わず笑ってしまいそうになる。
多分アリ対策用の毛だろうが、寄生蜂にも効果がありそうだ。
あまり良い写真ではないが、サカハチチョウの幼虫。
こちらは、物理的防御法というより、
視覚的防御法(?!)なのかもしれないが・・・・
これは、越冬中のトホシテントウ幼虫。
明らかに「やりすぎ感満載」のトゲトゲがある。
テントウムシの場合は、有毒成分も体内に持っているので、
野鳥類は、食べないようであるが・・・・
樹皮の下にいたウスアカフサヤスデ。
トホシテントウと比べるのもかわいそうだが、
この子は、ちょっとインパクトが少ない。
こんな毛でも、アリのような小さな捕食者には、
おそらく、十分有効なのだろう。
いずれにしても、このような毛束やトゲトゲは、
野鳥類やトカゲ・カエルなどの大型の捕食者に対しては、
見た目ほど効果的ではないのかもしれないが・・・・
次は、物理的防御法として、最もふさわしい(?)タイプである。
ホシナカグロモクメシャチホコ幼虫。
シッポに痛そうな棘がある2本のムチをもっていて、
アリなどの攻撃を受けると、それをふりまわして追い払う。
人が近づいても、結構な勢いで威嚇するので、
大型捕食者も、攻撃をためらうかもしれない。
こちらはモクメシャチホコ幼虫。
この子も、同じようなイメージであるが、
もしかしたら、Ⅲ(4).で取り上げたような、
体の前後を逆に見せかける効果もあるかもしれない。
また、写真はないのだが、学生時代、実験材料として、
マツノキハバチ幼虫の採集のお手伝いをしたことがあるが、
人が近づくと、幼虫が体を急激にU字型にそらせたり、
ブルブル震わせたりして、威嚇してくる。
実際に、鳥をおどかしたり、寄生者をふりおとしたりするらしい。
また、ある種のカツオブシムシの幼虫は、
腹部に顕著な毛のフサを持っていて、外敵におそわれたときに、
それを相手の体に付着させて動けなくする。
これはとくに小さなアリなどの外敵に対しては、
効果的な防御手段となるようだ。
最後に、有名な物理的防御法を紹介しよう。
ニホンミツバチが、オオスズメバチに対して行う蜂球だ。
オオスズメバチはミツバチの巣を襲い、成虫を殺した後で、
幼虫や蛹を自らの巣に運び仔の餌として利用する。
ニホンミツバチは、このようなオオスズメバチの襲撃に対して、
集団でボールのような感じで取り囲み、翅を震わせて熱を発生させ、
中にいるオオスズメバチを蒸し殺すという、
非常にユニークな戦略を進化させてきたのだ。
ちなみに、日本でも良く見かけるセイヨウミツバチは、
そのような行動はとらず、むやみに挑みかかり、
皆殺しの憂き目に会うことが多い。
ヨーロッパには、ミツバチを襲う大型のスズメバチがいないので、
そんな行動は進化してくるはずもないのだ。