目玉模様の進化【4】
昨日の【3】を、先にお読みください。
これまでのことを踏まえて、もう一度、目玉模様の進化について考えてみよう。
多くの生物は「見慣れないものを本能的に避ける」傾向がある。
今まで見てきたような同心円状の模様が、彼らの生活圏の中では、
本来は存在しにくいものであったと考えられていた。
しかし、最近の研究の成果として、驚くべきことに、
チョウの翅の目玉模様とハエの脚をつくる遺伝子が、
同じであることが解明されたそうである。
ハエの脚の構造をよく見ると、同心円の真ん中を、
引っ張って持ち上げたような構造になっているらしい。
二次元の同心円が目玉模様、三次元になると脚になるというわけである。
したがって、生物の模様でよく見られる同心円状の模様は、
発生学的に、予想以上に簡単に出来やすいものだったのだろう。
そして、眼に似ている模様が、ある種の蛾の翅に、偶然できたとしよう。
このようなコントラストのはっきりした斑紋は、
スズメバチに見られる「黄色と黒のストライプ」と同様に、
自然状態では、かなり目立つ。
クスサンやアケビコノハの例のように、最初は、飛び立つ寸前に、
普段隠れている鮮やかな模様が、突然見えるだけだった。
この場合は、もちろん捕食者の過去の嫌な経験は無関係であり、
単なる見慣れないものが、突然目の前に現れただけだった。
それを、捕食者の方で、勝手に(?)驚いて、
さらに、そこに見えている、ふたつ並んだ同心円状の模様を、
過去に嫌な経験をしたフクロウの眼と、(勝手に)思い込んだのである。
そして、その目玉模様が、捕食者を躊躇させる効果は予想外に大きく、
さらに、精巧でリアルな目玉模様へと進化していったのだろう。
また、一方では、ジャノメチョウやアオタテハモドキに見られるような
比較的小さな目玉模様を見た小鳥は、
今度は全く別に、相手に致命傷を与えるかのように、
胴体から離れた目玉(模様)に向かって、攻撃を仕掛けるのである。
同じような目玉模様を見て、捕食者の方が、勝手に解釈して、
まったく相反する「恐怖心」か「攻撃性」の
どちらか一方を、解発するのである。
ここで、もう一枚のチョウの写真をご覧ください。
クジャクチョウ(タテハチョウ科)
2010年7月15日 だんぶり池・青森
左右対称の目玉模様を持つクジャクチョウである。
この場合は、捕食者が勝手に解釈すると、一体どう見えるのだろうか?
ジャノメチョウのように、小鳥の攻撃をそこに向けさせるのか?
それにしては、ちょっと胴体に近くないか?
上の写真をよく見ると、フクロウの眼に見えないこともない。
ジャノメチョウやアオタテハモドキの眼状紋と比較して、
明らかに大きく、しかも左右対称に配置されているからだ。
クジャクチョウが、花などの蜜を吸うときに、
他のタテハチョウの仲間とおなじように、ときどき翅を開閉する。
これは明らかに、目玉模様を、チラチラ見せるような行動である。
クジャクチョウ(タテハチョウ科)
2009年8月24日 野付半島・北海道
どうも、この場合は、クスサンのように、目玉模様で、
小鳥を驚かせているとも考えられる。
つまり、クジャクチョウの場合には、
ひとつ(ふたつ?)の目玉模様が、それを見る方の解釈によって、
全く違った効果を持っている可能性がある。
しかし、「可能性がある」とか、何とか言ってるのは、
全く第3者の人間である。
当事者の捕食者(小鳥?)が見ると、
一体どっちに見えるのだろうか?
まさに、これが、城田博士の言うところの
『捕食者の無意味なものに意味を見い出す能力』
によって、目玉模様が進化してきた証しなのかもしれない。
さすがに、「ちょっとだけ不思議な昆虫の世界」である。
ここで、ひとつ訂正があります。
今回、同心円状の目玉模様は、
「発生学的に比較的できやすい」と、
何度も強調してきました。
大変失礼いたしました。
マンガチックなアケビコノハ君を、すっかり忘れていました。
この子の目玉模様は、発生学的に作りやすい「同心円状」ではありません。
この子の名誉のため、もう一度、見てやってください。
アケビコノハ幼虫(ヤガ科)
2010年10月8日 弘前市・青森