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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

ちょっとだけ不思議な虫たち チャイロスズメバチ

季節外れのブログ内容・・・・

北国では、もう冬になろうとしている気温の低い10月、
いつも立ち寄る「道の駅:矢立峠」のトイレの壁に、
お腹が黒色の見慣れないスズメバチがいた。


チャイロスズメバチという比較的珍しい種類だ。

 

チャイロスズメバチ(スズメバチ科)

2012年10月7日 矢立峠・秋田

ネットで調べると、北海道や本州の山地に生息しているが、
限られた場所でしか見つからないらしい(注)。

そして、このチャイロスズメバチには、
想像を絶するような、かなり不思議な習性があるのだ。


(注)社会寄生というかなり変わった生活史から、
  スズメバチ類が分布する多くの地域で見つかってはいるが、
  当然、絶対的な数が、本家のスズメバチ類より多くなることはない。

 


チャイロスズメバチ(スズメバチ科)

2012年10月7日 矢立峠・秋田

何と、チャイロスズメバチの越冬した女王は、
最初から自分で、巣を造ることはないのだ。

では、どうするのかと言うと、信じられないことだが、
巣作り中のキイロスズメバチやモンスズメバチを見つけると、
そこにいる女王と壮絶な戦いをして、最終的には女王を殺して、
その巣を乗っ取ってしまうのだ。

 

 

チャイロスズメバチ(スズメバチ科)

2012年10月7日 矢立峠・秋田

最初のうちは、乗っ取った巣の元女王の働きバチを使って、
自分の産んだ幼虫の世話をさせながら、卵を産み続けるのだ。

7月以降になると、自身の働きバチも羽化してくるので、
キイロスズメバチの働き蜂と、チャイロスズメバチの働き蜂が、
両方せっせと働くちょっとだけ不思議な巣になってしまう。

やがて、元の宿主の働き蜂が死に絶えてしまうと、結果的に、
その巣を完全に乗っ取ってしまうことになるのだ。
 
さらに、秋になってから、普通に雄バチと越冬女王も出現する。

 

 

チャイロスズメバチ(スズメバチ科)

2012年10月7日 矢立峠・秋田

一体、何故、チャイロスズメバチは、
こんなことをするようになったのだろうか?

多分、初期の段階から巣作りをしないことのメリットは、
営巣場所の選択や、働き蜂を生んで育てる初期負担がなくなることだ。

逆に、近くにいる巣作り中のスズメバチの女王を探し出して、
その女王と戦わなければならないというリスクもある。


それでも、チャイロスズメバチは、このような戦略を採用したのだ。

不思議なのは、最初の段階で、元女王の働きバチを使って、
どうして、自分の子供の世話をさせることができたのだろうか?

考えてみると、ちょっとだけ不思議である。

 

もともと、社会性昆虫のワーカー(働きバチ)は、
自分で産卵能力があるにも関わらず、自分の子供ではなく、
妹の世話をするという性質がある。
(⇒この利他性の進化については、別の機会に紹介したい)

最近の研究結果で、ある程度のことは分かってきている。

社会寄生者が、元女王の産んだ働き蜂から攻撃を受けないために、
自分の体の匂いを、元の種に似せるか、あるいは無臭になるか、
いずれにしても、化学的に欺く手段が必要である。

実際には、チャイロスズメバチが巣を乗っ取るのは、
キイロスズメバチとモンスズメバチの2種だけが知られており、
両種の体表の化学組成が似ていれば、前者の戦略は有効かも知れない。

もし宿主となる2種のスズメバチの炭化水素が似ていなければ、
後者の無臭作戦の方が良いだろう。

最近の分析機器の発達は、目覚ましいものがあり、
体表の炭化水素の組成なんかは、簡単にわかってしまう。

そして、チャイロスズメバチの炭化水素組成は、
それぞれの宿主と似ていないことが明らかとなったのだ。

もちろん、キイロスズメバチとモンスズメバチの成分組成も似ていなかった。


では、炭化水素の量を減らして、無臭になっているのかというと、
実は、そうでもないようで、チャイロスズメバチの体表炭化水素量が、
宿主や他のスズメバチと比べて、少ないということはなかった。

違いがあったのは、メチル側鎖のついた化合物の量で、
他の多くのスズメバチに比べて、チャイロスズメバチでは、
その量が顕著に少なかったのだ。


メチル側鎖のついた炭化水素は、ミツバチやアシナガバチなどで
特に重要な炭化水素であることがわかっているから、
チャイロスズメバチは化学的に「透明」になることで、
宿主に同化している可能性が示唆される。

また、メチル側鎖のついた炭化水素が完全にゼロでない点は興味深い。

チャイロスズメバチ間の認識のためには、
この化合物が必要であるために、
全くゼロにできないのかも知れないのだ。

 

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