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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

カマキリは、本当に大雪を予測するのか?



昔、新潟県地方の言い伝えとして、
『カマキリの卵が高いと、その年は大雪、低いと小雪』
というものがあった。

確か、子供向けの昆虫の本にも、載っていたように思う。

それぞれの地方には、
独特の伝承文化のようなものがあり、

例えば、
白馬岳の雪渓の変化を見て、田植えの時期を決める
ようなことは、

それはそれで、むしろ重要なことだったように思う。

山麓から見た雪渓の形は、
その年の気温を反映するので、
それを目安に農作業を行うことは、
ある程度の裏付けもあったのだろう。




しかしながら、
カマキリの産卵場所と大雪予報の場合には、
ちょっと違う。

2003年に、長い間の研究の成果として、
昆虫学者ではない著者により
『カマキリは大雪を知っていた』という本が出版された。

ご存じの方も多いと思うが、
オオカマキリが高いところに産卵すると、
その年は大雪になり、
低いところに産卵した場合は、
小雪とする「雪予想」が、
科学的に(統計学的に?)証明されたとして、
テレビや新聞、雑誌で大きく報道された。

多分時代背景(超能力ブーム?)もあったと思うが、
メディアに乗ったこの本は、大反響を呼び、
あっという間に、
それが世間の常識になってしまったのだ。



しかし、これは、

絶対にまずいだろう!!!

 

少なくとも、私の住む弘前市郊外では、
毎年雪の中に埋もれような雑草地や休耕田に、
カマキリの卵包は、いくつも発見されるのだ。

もちろん、降雪地帯ではない南国にも、
オオカマキリは分布する。

新潟県のオオカマキリは、別種なのだろうか?



この本の著者は、
「カマキリの卵が雪に埋もれるとどうなるのか?」という、
一番肝心なことを、何故か調べていない。
多分、多少調査したのだろうが、
ネガティブデータは、カットされてしまったのだろう・・・


テレビでも放送されたころ、友人との話の中では、
「別に、オオカマキリの卵を探して、その高さを測定し、
その年の雪の量を予測する人なんているわけがない。
だから、ほっとけばいいのさ!」と言うのが結論だった。


でも、今になって考えれば、
虫のことを良く知らない人や、
これから昆虫学(生物学)を学ぼうとする若い人が、
それが「科学的に証明された事実である」と、
間違った理解をしてしまうことは、
将来の彼らの科学的思考力をも、
誤らせてしまうことになりかねない。

これからの
科学的な考え方の根本にまで
影響する可能性だってあるのだ。

 


当然のこととして、雪に埋もれたカマキリの卵包から、
翌年、何事もなかったように1齢幼虫が孵化してくる。

この事実だけでも、
「カマキリの積雪予測」がおかしいことは明らかである。


しかしながら、
世の中に広まってしまった「常識」を覆すのは、
コペルニクスやダーウィンを待つまでもなく、
容易なことではない・・・・



 

弘前大学名誉教授の安藤喜一博士は、退官後も、
昆虫の耐寒性に関する研究を続けられて、
この問題に真っ向から取り組まれた。

そして、
東海大学出版会2008年発行の『耐性の生物学』で、
自ら行った実験内容を発表された。

この本の表紙はカマキリの拡大写真であり、赤い帯には、
「カマキリの雪予想は間違いである」
とする科学的証拠を提示と書かれている。


興味ある方は、是非、原本を読んでいただきたいが、
以下のような全て数値化された実験・調査結果から、

1)卵包の付着植物(ヨモギやススキなどの草本が多い)
2)卵包の高さ(ほとんどが、積雪時には雪に埋まる高さ)
3)卵包の耐雪性(96%以上の生存率)
4)越冬卵の耐水性(水温が低ければ80%以上の生存率)

オオカマキリが雪予測をすることはない
との結論を得ている。



実は、我が家から歩いて1~2分の距離に、
安藤先生のご自宅があり、
最近、ようやく安藤先生とお会いすることができた。

そのときに、上記の『耐性の生物学』を、
貸していただいたのである。


ご自宅には、
娘さんが造ったとお聞きした焼物製のプレートに、
『安藤昆虫研究室』と表示された飼育・実験室があり、
そこで、カマキリが沢山飼育されていた。


先生は、

「他人の間違いを指摘するのは嫌なものだが、
間違いに気付かず、ここまで常識化してしまったのは、
マスコミの影響が大きい。

何度か、この問題で取材を受けたが、
担当記者は理解してくれても、
一度大きく報道され、しかも定説化してしまったものを、
それは間違いでしたとは、
なかなか記事には出来ないようだ。

オオカマキリの雪予想は、全くサイエンスではない」

と、さりげなく、しかも、きっぱりと、お話された。


お庭には、季節の花々と野菜が、
整然と植えられていた。

 

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