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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

病死した虫たち③ 何故人目に付くところで?


前回までに紹介したように、病気で死亡したバッタは、
しばしば、人目に付きやすい場所で発見される。

このような現象は、寄生者である糸状菌の側が、
胞子を風に乗って飛ばすために、何らかの手段で、
宿主であるバッタの行動を制御しているように見える。


ところが、一般的に空気伝搬しないとされる、
ウィルス病や細菌病で死亡した虫たちも、
植物体の上部で死亡する傾向があるようだ。

例えば、ウィルス病に感染したマイマイガ幼虫の死体は、内部が液状化し、
皮膚が破れると、内部に充満したウィルスが落下して、下の葉っぱに付着する。
当然、それをを食べた別の幼虫が、ウイルスに感染するのだ。

だから、ウィルスの側から見れば、
なるべく高い位置で宿主を死亡させる方が、
伝搬(子孫を残す!)のためには、有利になるはずだ。

 


今年になって、アメリカの研究者たちが、
マイマイガの幼虫に寄生するバキュロウィルスが、
たった1個の遺伝子によって、幼虫の行動を変化させることを、
学術雑誌に報告して話題になった。

 

(⇒今回の写真は、本文の内容とは無関係です。)

 

 

マイマイガ幼虫(ドクガ科)

2011年7月21日 大沼公園・北海道

マイマイガは、約10年周期で大発生を繰り返すようだ。

その際には、周辺の樹木の葉を食い尽くしてしまうので、
重要な森林害虫とされている。


だから、このように単独で、食痕のない葉っぱにいるのは、
むしろ珍しいことなのかもしれない。

 

 

 

マイマイガ幼虫(ドクガ科)

2013年5月31日 東海村・茨城

健康なマイマイガの幼虫は、夜に葉っぱを食べるのだが、
明るくなると、木から降りて身を隠すことが知られている。

ところが、バキュロウイルスに感染してしまった幼虫は、
昼間も木から降りずに、最終的には、そこで死亡するのだ。

 

 

 

マイマイガ産卵中(ドクガ科)

2013年8月2日 道の駅喜多の郷・福島

当然のことであるが、このウイルスに感染すると、
幼虫の行動が変化することは、以前から知られていたが、
このたび、遺伝子組み換え技術と、幼虫の行動解析から、
その驚くべきメカニズムが、解明されたのだ。


かなり、簡単に記述すると・・・

まず、マイマイガの幼虫を、数種類のバキュロウイルスに感染させ、
特定の遺伝子【A遺伝子とする】を持ったウィルスに感染した幼虫だけが、
飼育容器の上に登って、その場所で死亡することを確認した。

実験的に【A遺伝子】を取り除いたウィルスに感染させた幼虫には、
飼育容器の上に登る行動が見られなかった。

 

 

 

マイマイガ卵塊(ドクガ科)

2014年6月2日 道の駅喜多の郷・福島

そして、ここからが凄いところであるが、
本来【A遺伝子】を持っていないウィルスに、
実験的に【A遺伝子】を組み込むと、そのウィルスに感染した幼虫は、
高い場所に移動するようになったのだ。

こうして、ウィルスの持つたった一つの【A遺伝子】が、
幼虫の行動変化を引き起こす原因ということが証明されたのだ。


おそらく【A遺伝子】の持つ具体的な機能として、
「宿主のマイマイガ幼虫が、脱皮して蛹になるのを阻害する」
と考えられているようだ【注】


そうすると、実際に起こっていることは、
「ウィルスが幼虫の行動を操作して、植物の上方へ登らせる」
というセンセーショナルなフレーズではなく、ただ単に、
「脱皮ホルモンが出なくなるので、幼虫が蛹になれずウロウロしている」
という状況だけなのかもしれないのだが・・・・

 

いずれにしても、「ちょっとだけ不思議な昆虫の世界」ではある。

 

 

【注】幼虫が脱皮できなくなる直接原因は、
   大別すると、以下の2点が考えられる。

   ①ウィルスの増殖によって、宿主の幼虫の前胸腺が機能しなくなり、
    脱皮ホルモン(エクダイソン)が放出されなくなる。

   ②ウィルスの増殖によって、アラタ体が何らかの影響を受けて、
    蛹化時期にはなくなるはずの幼若ホルモン(JH)が、
    放出され続けて、JHが完全に0になる時期がない。

   上記の研究者たちは、①の原因で、
   幼虫が普通に蛹になることができなくなると考えているようだ。

 

 

 

    

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