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さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。 従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。
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(前項を先にお読みください)
前項までで、カメムシの臭気成分は、
それが接触毒として直接大きな影響を与えることが可能な小型の捕食者に対して、
最も効果的な防御手段であり、その放出行動及び実際の防御効果からみて、
アリ類の攻撃に対して進化してきたものであることがわかった。
しかしこのことは、カメムシの臭気成分がアリ以外の捕食者に対して、
全く無効であることを意味するわけではない。
実際に、捕食者と被食者の出会いの場面においては、
何回かに1回でも、逃げることができるような防御手段であっても、
それは、ある程度有効であると言えるのかもしれない。
自然界では、どんなに天敵(捕食者)に対する防御手段を発達させても、
その効果が完全であることはあり得ない。
捕食者の方も、対抗手段を進化させるからである。
防御物質と言われるものが、それを放出する個体の生存に対して、
どの程度の有利性をもたらすかについては、
行動観察だけではなく統計処理も含めた数学的な検証が必要である。
一般に被食者が行う防御手段の有効性を評価するには、
次のような状況を考慮しなければならない。
(1)捕食者の好き嫌い、
(2)捕食者の捕獲技術の巧拙(攻撃の成功率)、
(3)捕食者の空腹度、
(4)捕食者の過去の経験(学習の有無)、
(5)捕食者と被食者の体サイズの妥当性、
(6)被食者の逃げ場所の有無、
(7)被食者が行う防御行動の正確さ(臭気成分放出の頻度および命中率)、
(8)被食者の体内に蓄積された不味成分等
これらの要因が複雑に絡み合って、野外での実際の防御効果が評価される。
約50個体のハエトリグモの捕食実験の例を示そう。
透明容器で単独飼育中のハエトリグモに、
14種類のカメムシをそれぞれ一日に一回与えて、
一連の捕獲行動及びそれに対するカメムシの防御行動を詳しく観察した。
観察容器内でのハエトリグモの最初の攻撃【First Attack】の成功率は、
保護色(緑色~褐色)のカメムシ(幼虫)に対して約30~60%程度であり、
予想以上に捕獲行動が失敗に終わることが確認された。
さらに詳しくその原因を分析すると、
ハエトリグモのカメムシに対する最初の攻撃行動は、
以下のような4つの段階で終了することが明らかになった。
① 捕獲直後の拒絶: 保護色のカメムシ
② 捕獲数秒後の拒絶: 多くが警戒色のカメムシ
③ 捕獲後一部試食: マダラナガカメムシの一部
④ 捕獲後すべて捕食: 保護色のカメムシ
ただし、①の場合には、容器内では捕食者の最初の攻撃が失敗しても、
続いて第2、第3の攻撃が可能であり、
結果的にカメムシはハエトリグモに食われてしまった。
野外ではハエトリグモが最初の攻撃に失敗した直後に、
カメムシはその場から離れることができるので、
通常は2回目の攻撃が起こらないものと思われる。
このことは、カメムシの臭気成分が、ハエトリグモやカマキリのような、
獲物を前脚で捕獲した後に、体の一部分に噛みつくようなタイプの捕食者に対して、
一瞬の間捕獲行動を躊躇させる(ビックリさせる)効果を持つことを予想させる。
逃げ場所が豊富な野外では、①のような臭気成分のビックリ効果によって、
その個体の食われる確率を、少しでも減らすことができるはずである。
また、②および③のような状況が観察された場合には、
不味成分によるものと推定されたが、今回の実験では、
ほとんどの場合が、警戒色をもつカメムシであった。
以上のように、保護色のカメムシが放出する臭気成分は、
ハエトリグモの攻撃を一瞬の間躊躇させることにより、
その成功率を半分程度に抑えられることが確認された。
実際に野外でも、保護色で臭気成分を放出する方が、
相手をビックリさせるには、効果的である可能性が高いはずである。
これは、静止状態では保護色の蛾が、突然、目玉模様を提示して、
捕食者をビックリさせる効果と似ているのかもしれない。
このような機能を持つ臭気成分は、アリ以外の捕食者に対しても、
防御物質としてある程度機能していることが推察される。