カメムシの匂いの不思議【04-05】: 警戒色と不味成分
(前項を先にお読みください)
普通、警戒色のカメムシ類は臭気成分を放出しないか、
あるいは放出してもごく僅かであり、
多くの場合、体液に食草起源の不味成分を含んでいる。
特にカメムシ類のような植物吸汁性の種では、
植物体の有毒成分をそのまま体内に蓄積している可能性が高い。
最初の実験で述べたように、
飼育中の捕食性の動物類に、さまざまな種類のカメムシを与えた場合、
匂いを大量に放出する保護色のカメムシは平気で食われてしまったが、
あまり匂わない警戒色のカメムシは食われなかった。
さらに、警戒色のカメムシ類は、前述のように、
野鳥類の胃の内容物のリストには発見されないので、
不味成分を体内に蓄積するカメムシは、
野鳥類に食われない可能性が高いのである。
被食者が不味成分を持つことによって、
捕食者の攻撃から逃れようとする場合は、
学習できる捕食者が対象となるので、
ほとんど例外なく被食者の体色は目立ちやすい警戒色になっている。
逆に言えば、鳥類に対して有効でない臭気成分を持つカメムシが、
警戒色をしているはずがないのである。
もっと言えば、保護色のカメムシに擬態してる種もないだろう。
カメムシ類の、不味=警戒色=学習という系は、
まさに捕食者として鳥を対象として進化してきた防御法であるといえる。
一方、学習できない捕食者に対しては、
その都度行う防御行動によるビックリ効果の方が有利である。
捕食者があまり印象に残らない(?)ような目立たない色彩の方が、
びっくりさせる効果は大きくなると考えられるからである。
昆虫図鑑によると、カメムシの70%以上が保護色である。
しかも、そのほとんどが強烈な臭気(臭気成分)を放出する。
警戒色のカメムシは、30%以下であり、
そのほとんどが弱い臭気を放出するか、あるいは全く臭気を放出しない。
もちろん、警戒色を持つカメムシの臭気成分が、
自らの体表に流れ出させる種もおり、
それらは、ある種の捕食者にとっては、
不味成分として作用する可能性はあるが・・・・
鳥類に対して有効な不味成分は、アリに対して無効であるが、
アリに対して有効な防御物質成分は、鳥類に対して無効であることが多い。
それぞれの最重要(になったと思われる)な捕食者に対して、
効力のある防御方法というのは、
他の捕食者に対してはあまり良い方法とはいえなくなるのも、当然かも知れない。
また、寿命が長い種ほど、外敵に対する防御手段をうまく、
発達させている可能性が高い。
例えば、捕食者に対する防御手段を全く持たないカゲロウの成虫は、
短命の代表のように考えられているし、
体内に有毒物質を蓄積して、鳥類に捕食されることのないマダラチョウの成虫の寿命は、
1年近くあることが知られている。
カメムシの場合も、もちろん例外もあるとは思うが、
ひとつの傾向として、警戒色を持ったカメムシは産卵前期間が長く、
逆に保護色を持ったカメムシは短い。
また、警戒色のモデルになっている不味成分を持った種は、
繁殖後期間が明らかに長く、擬態者は逆に短い傾向があるとも言える。