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カメムシの匂いの不思議【05-05】 警報フェロモン効果

(前項を先にお読みください)

一般的に集合性をもつ種において、その集合の構成メンバーの一部が、
外敵に対して臭気成分放出した直後に、
その臭気を近くにいる同種の他個体が感知して、
その場を速やかに離れることができれば、
その臭気成分は「警報フェロモン」とみなされる。

多くのカメムシ類は、同種の他個体が放出した臭気成分の臭気を感知することにより、
その現場から落下したり、遠ざかるような行動をとることが観察されている。
(⇒⇒ ただし、警報フェロモンの場合は、種特異性はないことが推定される)
 

つまり、直接捕食者に襲われた個体は助かることはないが、
近くにいる仲間(多くの場合は兄弟姉妹等の近親者であることが多い)に危険を知らせ、
現場から速やかに逃亡させることができる。

警報フェロモンは、近くに同種の他個体が存在しているからこそ、
有効に危険を知らせる手段となる。



したがって、臭気成分を、警報フェロモンとして使用している種は、
例外なくある程度の集合性が認められるはずである。

カメムシ類の集合は、
(1)ふ化直後から吸汁開始時期まで卵塊上でおこる若齢幼虫のかなり密な集合、
(2)摂食・静止時におこる幼虫時期の集合、
(3)寄主植物の一部分に成虫・幼虫が混在するルーズな集合、
(4)交尾のための成虫のルーズな集合、
(5)越冬場所での集合等、
いろいろなタイプのものが知られており、
いずれの場合も警報フェロモンが有効に働く状況にある。

ただし、(3)と(4)では、カメムシが保護色の場合、
警報フェロモン活性は、ほとんど観察されない。

たとえば、まるでクズの新芽のように見えるマルカメムシ幼虫は、
葉や茎の分岐部分に集合していることが多いが、
地面に落下したり、その場から離れるような行動は認められない。

これは、隠蔽的擬態(あるいは保護色)をするカメムシが、
捕食者と出会った場合には、
臭気成分のビックリ効果がより出やすいからなのだろうか。


一方、不味成分を体内に持っている警戒色の被食者は、
鳥には喰われないが、別のある捕食者には平気で喰われてしまうこともある。

その目立つ色彩が逆に捕食者の発見の手助けとなる可能性があるが、
この時に放出される臭気成分が警報フェロモン活性を持っていれば、
同種の他個体に対しては、効果的に働くことになる。

したがって、警戒色=不味成分というタイプの昆虫にとっては、
「集合すること」と「防御物質が警報フェロモン活性を持つ」ことは、
同時に成り立つことが必要であり、それが生存にとって重要な戦略となる。


また、樹上性のカメムシは、警報フェロモンに対する行動が特異であり、
例えばチャバネアオカメムシ1令幼虫には、樹上からの落下行動は見られず、
バラバラに、葉の裏に回り込むだけである。
落下する距離が長いと、その場所に再度集合しにくいためかもしれない。



さらに興味深いことは、臭気成分は、集団でが警報フェロモンで落下したり、
分散してしまったりした個体を、もう一度集団化させる役割をも果たしている。

カメムシ類の臭気成分は、
(E)-2-hexenalや(E)-2-decenal等の直鎖アルデヒド類とその類縁化合物であり、
さらにn-tridacane等の無臭の飽和炭化水素類を含んでいる。

(E)-2-hexenalは青葉アルデヒドとも呼ばれ、
植物の青臭い匂いの成分にもなっているかなり揮発性の高い物質である。
n-tridacaneは、溶媒的な役割を果たし、アルデヒド類の揮発を調整する。

アルデヒド類は、大量に放出された場合には、
仲間をその場から分散させる警報フェロモンとしての役割を持ち、
これが微量の場合には、あるいは、時間が経過して、匂いが少なくなったら、
再び集団化させる集合フェロモンとして機能する。

カメムシは、集合と分散にそれぞれ別の物質をフェロモンとして、
使用していない。これは、無駄を省くという面があるのと同時に、
何らかの事故で両方放出してしまった場合の混乱を避けているのかもしれない。

 

以上のように、カメムシの放出する臭気成分の役割として、

 (1)アリに対しては「防御物質(接触毒)」として有効に作用し、
 (2)その他の捕食者に対しては、捕獲行動を一瞬の間躊躇させる「ビックリ効果」を持ち、
 (3)近くにいる同種の他個体を分散させる「警報フェロモン」として機能し、
 (4)微量の場合には、幼虫の集団化を促す「集合フェロモン」の役割を果たす

ことがわかった。

カメムシの臭気成分が、捕食者と被食者の様々な出会いの場面で、
いくつかの役割を同時に果たしているということは、大変興味深いことである。

当然のことであるが、最初からこのような多面性が備わっていたとは考えにくい。

おそらく、最初は、捕食者に対する直接的な防御手段として、進化してきたものが、
幼虫期の集団生活の発達に伴い、ビックリ効果や警報フェロモンとしての役割を果たし、
さらに、一度バラバラになった個体を、ある程度時間が経過してから、
もう一度集団化させる集合フェロモンとしての二次的な役割を、
持つようになったものと推察される。

現在では、臭気成分は警報フェロモンとしての有効性がかなり高くなり、
不味成分を持つ警戒色のカメムシ、たとえばナガメやアカスジカメムシは、
集団生活する幼虫期には、臭気成分を放出するが、
単独生活になる成虫期には、ほとんど臭気を放出しない。

これは、ある程度、理にかなったことであるように思える。
 

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【2010/11/11 06:56 】 | カメムシの匂い | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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