そこまでやるか? セスジスカシバの擬態!!
スズメバチにベイツ型擬態したスカシバの仲間は、
このブログでは、常連とも言える存在だ。
特にセスジスカシバは、間違いなくミラクル擬態なのだが、
その状況を詳細に確認したとき、驚くべき秘密が隠されていたのだ。
普通に考えれば、遠目の外観が似ているだけで、
捕食者を騙すことが出来るので、ベイツ型擬態は成立するはずだ。
しかし、より詳細に見たセスジスカシバの擬態は、
我々の想像を越えた完成品に近いものだったのだ。
多くのベイツ型擬態の虫たちは、 横から見たときが、
最もモデルのハチに似ていると思う。
⇒このブログの写真でも、
捕食者の目線と同じく(多分?)、
斜め上から見たものが多かった。
・・・前から見ると、どうなんだ??
セスジスカシバ静止中(スカシバガ科)
2013年9月4日 白岩森林公園・青森
上の写真は、正面から見たセスジスカシバの成虫である。
詳細に見ると、触角の基部が実際の頭部であり、
当然、チョウ目特有の小サイズなのだが、
その上にある前胸部分が、スズメバチの顔のように見える。
⇒前翅の付け根部分が黒い球状なので、
その下にある黄色い三角形の部分と同時に見ることになり、
スズメバチの複眼と大あごのように見えるのだ。
・・・実際のハチの頭部と比較してみよう。
キイロスズメバチ静止中(スズメバチ科)
2013年10月31日 浅瀬石ダム・青森
あまり、スズメバチの顔を正面から見ることはないが、
セスジスカシバの胸と、ハチの顔がそっくりである。
⇒もちろん、詳細に細部を比較してしまうと、
違いは明らかにあるのだが、瞬間的に見た雰囲気は、
かなり似ていると言える。
しかし、話は、ここでは終わらない!!!!
飛翔中のセスジスカシバは、さらに秀逸で、
この事実を知ったとき、ちょっとだけ感動した。
セスジスカシバ飛翔中(スカシバガ科)
2013年9月4日 白岩森林公園・青森
飛翔中は、もっともっとハチのように見える。
・・・何故だろうか?
最初の写真で見たように、蛾の頭部は小さいが、
黄色の前脚を、頭部の真下に折りたたむと、
その前脚がスズメバチの大あごのように見えるのだ。
静止時には、スズメバチの顔のように見えた前胸は、
今度は、普通にハチの背中の模様になっている。
触角の基部に見える黒い部分が、
セスジスカシバの実際の頭部である。
・・・飛翔中のハチの頭部と比較してみよう。
キイロスズメバチ飛翔中(スズメバチ科)
2013年9月4日 白岩森林公園・青森
これは、恐怖の一瞬!!
カメラに向かって飛んでくるキイロスズメバチ!!!
ハチの黒く見える複眼と、黄色の大あごの部分を、
セスジスカシバが見事に真似しているのが、お分かりだろう。
と言うことは、セスジスカシバの成虫は、
静止時には前胸部が、
飛翔時には、前脚部分が、
スズメバチの顔のように見えるのだ!!!
最後にもう一度!!!
ハチと蛾 飛翔中
左: キイロスズメバチ(スズメバチ科) だんぶり池・青森(20120608)
右: セスジスカシバ(スカシバガ科) 白岩森林公園・青森(20130904)
この写真だけで、ハチと蛾の識別できますか?
前脚の位置と形状に、ご注目ください。
⇒ちなみに、セスジスカシバが飛翔中にも、
まるでハチが飛び回っているような翅音が聞こえるのだ。
飛翔中の方が、より精密にハチにベイツ型擬態することで、
捕食を免れていると考えると、起立して拍手を送りたくなる。
・・・【蛇 足】・・・
セスジスカシバの幼虫は、長い幼虫期間を、
キイチゴなどの茎の中に潜入して過ごすので、
葉っぱを食べる他のチョウ目の幼虫のように、
野鳥類の餌になってしまう危険性は、ほとんどない。
一方で、セスジスカシバの成虫に出会うのは、
夏の終わり頃の約1ヶ月間に限られる。
個体レベルで考えれば、羽化後の交尾・産卵までの期間は、
長くても、数週間程度だろう。
この短い成虫時代を乗り切る(捕食回避!)ために、
一体何故、上記のようなミラクル擬態が、
出来上がった(進化してきた)のだろうか?
メインの捕食者である野鳥類は、
この時期、基本的に子育てが終わっているはずで、
そんなに淘汰圧が高いとは思えないからだ。
⇒本当に、突然変異と自然淘汰だけで、
ミラクル擬態の進化を説明できるのだろうか?
それとも、何か別の進化要因が存在するのだろうか?
蛇足の蛇足であるが、伝説(?)の「ある話」を思い出した。
⇒茶目っ気のある喜劇俳優チャップリンは、
「チャップリンのそっくさんコンテスト」に正体を隠して出場し、
見事2位になって、人知れず喜んでいたという・・・???