サティロス型擬態② 動物の顔に見える蛾
狭義のサティロス型擬態とは、チョウや蛾の翅の一部に、
鳥類の天敵である猛禽類の頭、くちばし、羽毛、
あるいは、羽や尾の輪郭などの模様のことである。
それらの模様は、餌(虫たち)を探す野鳥類の注意を、
ほんの一瞬そらすことができるとので、
前回紹介したヨナグニサン前翅のヘビの模様が、
代表的な例になると思う。
ただ、実際に我々が野外で見かけるのは、
チョウや蛾の姿かたち(全体像)そのものが、
動物の顔に見える例が多い気がする。
これも、人と鳥の視覚認知システムの違いに、
もしかしたら起因するだけのかもしれないが・・・
ウンモンスズメ(スズメガ科)
2012年7月21日 白岩森林公園・青森
この子は、翅や体の一部に動物の模様があるのではなく、
身体全体を使って、演技しながら、動物の顔を表現している。
⇒普段は、このような静止姿勢をとることはないようだ。
多分、警戒しているときだけのポーズなのかもしれない。
冒頭のように、サティロス型擬態の提唱者であるハウス氏は、
昆虫の翅に他の生き物の部位が、
移し入れられているものは、一種の擬態と見ることができ、
それをわたしは「サティロス型擬態」と名付けました
と明確に述べており、前回のヨナグニサンのイメージだったようだ。
しかし、前出の著書の写真には、上の写真と同様の、
ウンモンスズメの写真が使用されている。
だから、身体の一部だろうが、全体だろうが、
本来とは違ったものに似せていれば、おそらく、
サティロス型擬態の範疇に入るのだと思う。
コマバシロコブガ(コブガ科)
2014年6月5日 矢立峠・秋田
この子も、身体全体で動物の顔なのだが、
完成度の高い、リアルな仕上がりである【注】。
⇒個人的には、鼻の部分の出来が、
秀逸であると思う・・・
もちろん、信号受信者の鳥たちにとっては、
翅の一部の模様でも、身体全体の姿でも、
そんなことは、全く関係ない。
どっちにしても、野鳥類の天敵である、
多くの動物の顔が、瞬間的に視界に入るのだ。
ウチキシャチホコ(シャチホコガ科)
2011年8月31日 酸ヶ湯温泉・青森
この子は、写真を撮ったときには、
動物の顔を連想することはなかった。
改めて写真を見ると、怖い顔のように見えた。
⇒これも明らかに、人間と鳥との、
視覚認知システムの違いなのだろう。
野鳥類がこのシャチホコガの姿を、
野外で、瞬間的に見たときには、
どんな動物がイメージされたのだろうか?
・・・という訳で、
鳥類の視覚認知システムの特殊性を知ってからは、
サティロス型擬態とされる虫たちの動物の顔の模様を、
全く意味不明の模様と公言していた一部の人間(!)にも、
十分に納得してもらえるような説明ができると思う。
この他にも、蛾の身体全体が、
動物の顔のように見える写真が沢山あり、
以前このブログでも、まとめて紹介した。
⇒ブログ掲載当時は、鳥類の視覚認知システムを、
私自身が明確に理解していなかった時期でもあり、
サティロス型擬態の概念には、全く触れていない。
それでも、ある程度の説明は可能だった。
以下の記事でご覧ください。
【擬態??②/④ 動物の顔】
↓ ↓ ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20141204/1/
【注】中型以上の多くの蛾の仲間は、
前翅の先端が、多少とも離れて静止するので、
動物の耳のようなイメージになる。
さらに、前翅に左右対称の丸い目のような斑紋があると、
垂直面に逆さに静止している場合に限って(!!)、
犬や猫の顔に見えてしまうことがあるのだ。
⇒ただ、非常に興味深いことなのだが、
逆さ(垂直面に下向き)に静止している蛾の写真を、
上下逆転させて見ると、全然別の動物の顔に見えることもある。
写真のコマバシロコブガの場合は、その典型である。
・・・次回③は、突然見せる目玉模様の例です。
追記(2015年10月13日)
以下の記事が確定しました。
【サティロス型擬態③ 突然見える目玉模様】
↓ ↓ ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20151013/1/