ハチに擬態する蛾 ホシホウジャクの不思議
ホシホウジャクという蛾がいる。
市街地でも、よく見かけるスズメガの仲間だ。
昨年12月10日に、「不思議な空中吸蜜」で、
紹介した「ハチのような蛾」である。
ちなみに、ホシホウジャクを漢字で書くと星蜂雀となるらしい。
ハチに似るということは、ベイツ型擬態の典型である。
しかし、それだけではない。
このホシホウジャク君の擬態は、
我々の想像の少し上を行く。
ホシホウジャク(スズメガ科)
2010年11月10日 新木場公園
まるで、ハチのように素早く、
キュイン ⇒ キュイン ⇒ キュイン という感じで、
アベリア(多分?)の花から花へと、蜜を吸い続ける。
ホシホウジャク(スズメガ科)
2010年11月10日 新木場公園
ハチと違うなと感じるのは、
長く丸まった口吻が見えたときである。
ホシホウジャク(スズメガ科)
2010年11月10日 新木場公園
ホシホウジャクは、ハチと違って、
このように花から少し離れた位置で、
飛びながら蜜を吸うことができる。
ホシホウジャク(スズメガ科)
2010年11月14日 中郷SA
この写真は、やや興味深いショットである。
前翅に隠された後翅表面のオレンジ色の模様が見える。
この非常に目立つ模様は、飛び立つ寸前に突然出現するので、
先に目玉模様の進化【1~4】で紹介したように、
外敵の攻撃を、ほんの一瞬ためらわせることができる。
ホシホウジャク(スズメガ科)
2010年11月14日 中郷SA
通常、ホシホウジャクの成虫は、
気の幹などに、翅を閉じて静止している。
このときは、前翅にある目立たない模様のおかげで、
枯れ葉のように見えるはずである。
これは、典型的な隠蔽的擬態のパターンである。
そして、飛び立つ寸前には、
後翅の表面のオレンジ色の鮮やかな模様を見せる。
この突然見せるという行動は、ビックリ効果を持ち、
捕食者の攻撃を、一瞬だけ躊躇させることができる。
実際に、一度だけホシホウジャクが飛び立つ瞬間を見て、
ちょっと驚いたことがある。
枯れ葉がちょっと動いたのかと思ったが、
はっきりオレンジ色が確認できた。
そして、飛び去っていく姿は、ハチのようであった。
このように、ホシホウジャク成虫は、
①気の幹などに静止しているときの枯れ葉のような隠蔽的擬態と、
②飛び立つ寸前のオレンジ色の突然のビックリ効果と、
③蜜を求めて飛びまわっているときのハチのような標識的擬態の
三つの効果を合わせ持つ、なんとも贅沢な、そして複雑な色彩なのである。
ちょっとだけ、不思議なホシホウジャク君に、
さりげなく拍手をお願いします。
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