ミューラー型? ベイツ型? 君の擬態はどっちだ?
何らかの防御手段を持っているもの同士がよく似た形態・色彩になる現象を、
その発見者の名前をとって、ミューラー型擬態と呼ぶ。
有毒昆虫は、独自に別々の警戒色を持っているよりも、
同じような形態・色彩であった方が、捕食者の学習の回数が増えて、
より効率的に、攻撃を避けることができるからである。
捕食者に覚えられる形態・色彩パターンの少ない方が、
被食者にとっては、生き残る上では有利であり、
必然的に、似たような色や形の種類が多くなるのだろう。
これ、本当だろうか?
その理屈から言うと、ミューラー型擬態の輪(?)は、
そんなに多くの種類がある訳ではない・・・はずである。
それでは、日本で見られるミューラー型擬態の例は、
何グループくらいあるのだろうか?
まず真っ先に思いつくのが、
多くのハチの仲間に見られるような「黄色と黒の縞模様」である。
でも、この場合には、近縁種同士が単に良く似ている現象でもあり、
あまり適切な例とは言えないのかもしれない。
良く知られているのは、昨年11月14日に紹介した赤と黒の模様のグループである。
↓ ↓ ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20101114/1/
その他に、真っ赤な胴体と黒い頭のグループや、
その逆のパターンで、黒い胴体に赤い頭のグループなどが思いつくが、
日本国内では、ミューラー型擬態の種類としては、
やはりそんなに多くはないと思う。
とりあえず、手持ちの写真の中で、
同じような形態・色彩を持つグループを見てみよう。
あまり鮮明に撮れているものはないが、以下の6枚の写真をご覧ください。
なんとなく見ていると、
おそらく皆同じ種類に見えなくもない・・・こともないか。
これぞ、ミューラー型擬態の典型的グループのようであるが・・・(?)
カクムネベニボタル(ベニボタル科)
2010年5月23日 梵珠山・青森
早春の明るい開けた林道で、よく見かける。
カメラを近づけても、逃げないことが多いので、
多分「自分は、不味くて食べられないぞ!!」と、
言っているようだ。
ベニボタルの仲間は、甲虫とはいえ、体は比較的軟らかく、
外敵に襲われたときに、体液が外に出やすい。
実際に捕食者が食べなかったとの観察例もある。
ヘリグロベニカミキリ(カミキリムシ科)
2010年6月6日 弘前市・青森
個体数は、そんなに多くないように思う。
幼虫時代には、朽木を食べており、有毒物質を餌から摂取し、
体内に蓄積しているとは思えない。
アカハネムシ(アカハネムシ科)
2010年5月30日 白神山地・青森
胸部の形状で区別しやすいが、
ベニボタルの仲間と間違えやすいほど良く似ている。
おそらく、本種も有毒であるとの知見はない。
ムナビロアカハネムシ(アカハネムシ科)
2010年6月13日 白神山地・青森
前種と同じ仲間ではあるが、あまり個体数は多くないように思う。
ハネビロアカコメツキ?(コメツキムシ科)
2011年5月25日 だんぶり・青森
この子も、どちらかと言うと珍品だろう。
なお、種名不詳の甲虫類は、例によって、
当ブログの唯一のリンク先の記野直人氏にお願いしたが、
種名は確定ではない。
この他に、同じ色彩のベニコメツキの仲間がいるが、
これも有毒種ではない可能性が高い。
ベニヒラタムシ(ヒラタムシ科)
2005年11月12日 長沢ダム・高知
名前から想像できるように、かなり扁平な虫であり。
樹皮の隙間に難なく入り込むことができるが、
ダムの上では、このように、なすすべもない。
おそらく、本種も有毒であるとの知見はない。
以上のように、この中で、間違いなく有毒なのは、
ベニボタルだけである。
したがって、この色彩・形態のグループ(胴赤・胸黒)は、
ミューラー型擬態とは言えないだろう。
個体数のバランスが問題になるだろうが、基本的には、
数種のベニボタル類をモデルとするベイツ型擬態の範疇と思われる。
しかしながら、何らかの理由で、捕食者が本能的に、
赤と黒の昆虫を食わない可能性も十分あるので、
さらなる検証が必要であると思う。
さすが、「ちょっとだけ不思議な昆虫の世界」である。