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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

分断色!? 蛾の白線

身近な虫たちの分断色、今回で連続3回目である。
良く見ると、タイトルのマークが、3回とも微妙に異なっている・・・・

分断色は、はっきり言って(!)微妙なのだ。

 


まず、その定義【注】から確認してみよう。

昆虫関係で、普通に用いられている分断色の定義として、
「体の輪郭を横切るように配置された白と黒のようなコントラストの強い模様」
とされることが多く、それらは、昆虫の輪郭の検出を妨げる効果を持つとされる。

ただ、この定義だと、体を横切るコントラストの強い模様があれば、
それだけで、とりあえず分断色となってしまう可能性がある。

そこで、多少(?)マニアックであるが、
これから紹介する10枚の蛾の写真を見ながら、
分断色の定義について考えてみたい。

 

まず、下の写真は、シロスジオオエダシャクというシャクガ科の蛾である。


シロスジオオエダシャク(シャクガ科)

2011年6月29日 白岩森林公園・青森

これは、私自身が撮影時に確認していることであるが、
シロスジオオエダシャクは、私の気配を感じて、飛んで逃げた後、
写真のような非常に効果的な環境に、着陸したのである。
着陸地点を大まかに確認し、そっと近づいたのだが、
この子を再び見つけるのに、おそらく1~2分経過していたと思う。

翅の先端近くにある白色の帯が、効果的に翅を分断している。
さらに、翅が木の枝を包み込むように静止しているので、
蛾の全体像が、非常に確認しにい状態になっている。

したがって、この子の体色は、前回紹介したクルマバッタモドキや、
ショウリョウバッタと同じように、おそらく分断色の範疇に入るだろう。

 


ただし、以下の9種の蛾は、翅にそれらしい模様を持っているが、
分断色であるかどうか、現時点では確認できていない(かもしれない?)。

 


ハコベナミシャク(シャクガ科)

2012年7月21日 志賀坊森林公園・青森

この子は、上のシロスジオオエダシャクと雰囲気が似ている。

別の場所にいたら、分断色が効果的になるかもしれないが、
このような止まり方では、白色で分断されていても、
残りの三角形の褐色部分が、残念ながら蛾そのものである。

一体どうなんだろうか?

 

 

シラフシロオビナミシャク(シャクガ科)

2011年5月31日 だんぶり池・青森

間違いなく、この子は昼間飛ぶ蛾であるが、
この写真では、緑色の葉っぱに止まっているので、
非常に良く目立っている。

飛んでいるときも、白い部分がチラチラして、
ミスジチョウやルリタテハのようなイメージもある。

白線が蛾の輪郭を分断しているようにも見えるが、
はたして、この模様が有効に働くような状況があるのだろうか?

 

 

シロオビヒメエダシャク(シャクガ科)

2010年6月24日 登別温泉・北海道

この子も、それらしい模様であり、昼間活動する。

しかし、この写真を見るかぎり、分断色とは言えないと思う。


私は、少なくとも体が分断されて見えるような環境を好む(?)かどうかを、
分断色の定義に付け加えるべきだと思っている。

はたして、この子は、自分の翅の模様を知っていて、
その分断色が効力を発揮するような背景を、選ぶのだろうか?

 

 

シロオビドクガ(ドクガ科)

2012年8月22日 十石峠・長野

この子の体色は、普通に見ると、翅を明らかに分断しており、
状況によっては、蛾の輪郭を曖昧にする効果があるかもしれない。

ただし、この写真は、夜間の灯火採集のときに、撮ったもので、
当然、この子は夜行性であると思われる。

だから、分断色が効力を発揮するような、
真昼のギラギラした太陽の光と影が交錯する環境(背景)にいることは、
基本的に、ありえないのかもしれない。

 

 

ヒトリガ(ヒトリガ科)

2012年9月7日 志賀坊森林公園・青森

上のシロオビドクガと雰囲気が似ているが、
こちらも夜行性のようである。

この写真は、公園の常夜灯付近で、早朝に撮ったものである。
おそらく、明るくなって、帰り損ねたのだろう。

蛾の輪郭を、明らかに分断しているように見えるのだが・・・

 

 

オオシロオビナミシャク(シャクガ科)

2010年7月2日 摩周湖・北海道

最初に紹介したシロスジオオエダシャクの雰囲気を持つ蛾である。

もしかしたら、別な場所では、分断色の効果が出るのかもしれない。

この子は、ちょっとだけ微妙である。

 

 

セスジナミシャク(シャクガ科)

2010年9月2日 だんぶり池・青森

まあ、この模様では、分断色ではない確率がかなり高いし、
夜行性であると思う。

しかし、この模様にマッチした、背景【環境)があるのかもしれない。

 


キンモンガ(アゲハモドキ科)

2011年8月8日 裏磐梯・福島

この子は、むしろ無毒の警戒色の範疇だろう。

もしかして、同じ科のアゲハモドキのように、
ベイツ型擬態の可能性もあると思うが・・

 

 

ヒロオビトンボエダシャク(シャクガ科)

2012年7月21日 白岩森林公園・青森

最後に紹介するこの子は、全く分からない。

警戒色のようであり、保護色のようでもある。
さらに、分断色の匂いもするし・・・

 

以上、見てきたように、ある虫の模様が分断色かどうかは、
簡単には判別できない場合が多い。

まず、体を横切る目立つ白線があれば、分断色かどうかを疑って、
さらに、どんな場所に静止しているかを確認することが必要なのだ。

もちろん、この場合でも、虫たちが自分の体の模様を十分理解していて、
それに見合う環境を選んでいるのかどうかとは、無関係な話であるが・・・

そうであったとしても、冒頭で紹介した、虫たちの分断色の定義には、
「自らが、適切な環境を選ぶ」という条件を追加すべきであると思う。


この分野の実験的研究は、始まったばかりです。

イギリスの研究者が、2005年に分断色の効果を実証して以来、
日本でも、地元弘前大学の鶴井さんのグループが、
ハラヒシバッタを実験材料として、精力的な研究を行っています。

機会があれば、当ブログでも紹介したいと思います。

 

 

【注】分断色:
動物の眼は、光と影のコントラストの強い部分があると、
そこに焦点が合ってしまい、全体の輪郭がわからなくなってしまう。

分断色の典型として、しばしば例示されるシマウマであるが、
サバンナでえものを探す捕食者の眼には、白い部分と黒い部分とが
別々に強調されて映るので、シマウマ全体の輪郭があいまいとなると言われる。

動物は、一つの輪郭、つまりシルエットで物体や生物を認識しているので、
こうなると、シマウマを一つの生物として認識することがむずかしくなるのだ。

ただ、個人的な感想を書かせてもらえば、
子供のころに、動物園で見たシマウマの輪郭が、どうしても「あいまいに見える」
ということがなかったので、多分(?)シマウマがトラウマになって、
分断色に関しては、本当なのだろうか? と思っていたのである。

 

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