不思議な虫えい② ヨモギハシロケタマフシ
このブログで、目の前一面に広がるヨモギの群落の中に、
不思議なことに、ある一株だけが、タマバエとアブラムシに、
同時に加害(?)されている状況を紹介したことがある。
そのときのタマバエによる虫えいは、
ヨモギハエボシフシと名付けられていて、
形状は、「とんがり帽子=エボシ」のようであった。
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http://kamemusi.no-mania.com/Date/20140903/1/
今回は、同じタマバエの仲間(もちろん別種)により、
ヨモギの葉に形成された全く違う雰囲気の虫えいを紹介したい。
もちろん、一体どんなメカニズムで、
「同じヨモギの葉っぱに作られる虫えいが、
虫の種類によって、それぞれ違った形状になる」
のか、非常に興味深い問題が、そこにはあるのだ。
まあ、「虫が違うのだから、虫えいの形状が違っても、
それは不思議でもなんでもない」と言ってしまえば、
話は終わることなのだが・・・
ヨモギハシロケタマフシ
2014年10月1日 だんぶり池・青森
この時期、だんぶり池周辺のヨモギの果穂を見ながら、
ハイイロセダカモクメの幼虫を探すことが多い。
今年は、何故か1匹も発見できなかったのだが、
そんなある日、諦めて帰ろうとしたときに、
こんな感じの白い球が、3個並んでいるのを見つけた。
最初は、何処でも見かけるアワフキの泡かと思った。
ヨモギハシロケタマフシ
2014年10月1日 だんぶり池・青森
近づいて良く見ると、その球は、暖かそうな白色の綿毛に覆われていた。
まるで、本物の綿花のような、実に見事な綿のかたまりだ。
(⇒写真でしか見たことがないのだが・・・・)
虫えいに興味を持ってから、1年近くなるので、
珍しく、現場でヨモギハシロケタマフシだろうと思った。
ヨモギハシロケタマフシ
2014年10月5日 浅瀬石ダム・青森
虫えい形成者は、ヨモギシロケフシタマバエ(タマバエ科)という。
いつも参考にさせていただく「北海道の虫えい」をみると、
年間世代数は、2~3回で、6~9月にかけて成虫が羽化するようだ。
また、越冬は、虫えい内の3齢幼虫による例が多いとされる。
ヨモギハシロケタマフシ
2014年10月5日 浅瀬石ダム・青森
植物側が、寄生者の出すホルモン(?)に反応して、
何故、本来の姿とは全く違う形状のものを造りだすのか、
かなり不思議な現象であると思う【注1】。
しかも、出来上がったものは、虫と植物の組み合わせによって、
それぞれ、みんな同じ形状になるというのも、また不思議だ【注2】。
今回のヨモギハエボシフシと、ヨモギハシロケタマフシの形状の違いは、
おそらく、それぞれのタマバエが好む産卵部位が、微妙に違うのだろう。
ヨモギハシロケタマフシ
2014年10月1日 だんぶり池・青森
ヨモギの葉の裏は、よく見ると裏面には白い毛が密生しており、
その綿毛を集めて精製すると、お灸に使われる「高級もぐさ」になる。
ヨモギシロケフシタマバエが、葉裏の表皮細胞付近に産卵すると、
(あるいは孵化幼虫が、その細胞周辺に移動すると、)
その組織が葉裏側に成長・肥大して、虫えいの表面に綿毛が密生する、
丸いヨモギハシロケタマフシとなるのだろう。
⇒もちろん、別種のヨモギエボシタマバエが、
葉表の表皮細胞でない場所に産卵した場合には、
(あるいは孵化幼虫が、その細胞周辺に移動すると、)
その組織が綿毛の少ない(?)葉表の表皮細胞を突き破るように成長・肥大して、
虫えいの表面には綿毛のない、細長いヨモギハエボシフシとなるのだろう【注3】。
ただし、どうして、丸型とエボシ型になるのかは、全く謎のままである。
【注1】初期の虫えいには、幼虫が見られないこともあるようで、
おそらく産卵刺激だけで、成長・肥大する可能性もある。
昔は、寄生者の出す何かの刺激に植物側が反応して、
植物ホルモンを異常分泌した結果であるとされていたと思う。
これもネット情報であるが、寄生者が自ら植物ホルモンを、
分泌することも、最近になってわかってきたようだ。
【注2】もちろん、産卵部位(花や新芽の原基など)によって、
出来上がる虫えいの形状が変わってくるはずだ。
宿主の様々な組織に産卵できるものは、その部位によって、
同じ形成者とは思えない形状の虫えいになることも、
実際に観察・確認されているようだ。
もちろん、特定場所から成長・肥大していく場合には、
烏帽子状や丸い球状のふたつのタイプになりやすいことも、
ある程度は予想される結果だろう。
【注3】とは言っても、冒頭で紹介したページの写真をよく見ると、
ヨモギハエボシフシの表面にも、白い綿毛のようなものが、
多少ともあるのが確認できる。