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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

不思議な虫えい④ バラハタマフシ(?)

これまで、3回連続で、特異な形態の虫えいを紹介してきた。

でも、虫えいを見て、本当に不思議だと感じるのは、
その色とか形態ではなく、虫たちが、さりげなく植物を管理し、
食べ物に全く不自由のない、しかも天敵に狙われることのない、
住み心地の良い住居を、植物に作らせていることだと思う【注1】


しかし、今回紹介するバラハタマフシ(?)は、
住み心地の良い住居という雰囲気は、感じられない。

 


そんなバラハタマフシには、もっともっと謎が多いのだ。

 

 

バラハタマフシ(?)

2013年9月9日 座頭石・青森

小さなノイバラの葉っぱの上にあるので、比較的大きく見える。

球形で、よく見ると短い突起がある、なかなか美しい虫えいだ。

ただ、緑色の葉っぱの上に、頼りなく引っかかっているだけで、
ちょっと風が吹けば、簡単に落ちてしまいそう・・・

しかも、赤い果実のように見えるので、
鳥に食べてくださいと言わんばかりだ。


これが、本当に、冒頭に書いた、
「天敵に狙われることのない住み心地の良い住居」
なのだろうか?

 

 

 

バラハタマフシ(?)

2010年8月21日 だんぶり池・青森

これは、ずいぶん前の写真だが、撮ったときの感動は忘れない。

一体、何のために、こんな風になっているのか?

当時(4年前)は、虫えいには、ほとんど興味がなかったが、
家に帰ってから、ちょっとだけネットで調べた記憶がある。


バラハタマバチ Diplolepis japonica Walker の寄生により、
バラやノイバラなどの葉に形成されることが分かった【注2】

 

 

・・・・ただ、写真のタイトルに、(?)が付いている。

 

 

バラハタマフシ(?)

2013年9月9日 座頭石・青森

薄葉先生の「虫こぶハンドブック」によれば、
バラハタマフシは、葉っぱの裏側の葉脈上、または、
若い果実に形成される虫えいであり、6~7月には、
葉から脱落し、そのまま、虫えい内で幼虫越冬する。


しかし、弘前市周辺では、今回の数枚の写真のように、
8~9月になっても、落下しないものもあるのだ。

さらに、葉っぱの裏側には、形成されていないようだ。

⇒もちろん、ほとんどが葉裏に形成されているのだが、
 私が、裏側のものを見つけられなかっただけかも・・・

 

でも、もしかしたら、タマバチが別種の可能性もある?!

 

 

 

バラハタマフシ(?)

2013年9月9日 座頭石・青森

いつも参考にさせていただくネットの「北海道の虫えい」を見ると、
バラハタマフシは、何故か、掲載されていない。

ただ、多分近縁種のカラフトイバラに形成される、
カラフトイバラハタマフシが載っている【注3】

虫えい形成者は、タマバチの1種(種名未同定)とされ、
虫えいは7月下旬~8月上旬に出現し、8月中旬~下旬には、成熟する。

9月には、中の幼虫も終齢に達するが、そのまま虫えい内にとどまり、
落葉にともない地上に落下した虫えい内で越冬する。詳細は不明とある。


したがって、青森県で撮ったバラハタマフシ(?)は、
「虫こぶハンドブック」に掲載されているものではなく、
むしろ、北海道のカラフトイバラハタマフシに近いのかもしれない【注4】

ただし、カラフトイバラハタマフシとは、葉表に形成されていることと、
表面が平滑で光沢がある(ツルツル?)とされる点が、微妙に違うので、
もしかしたら、第3の種類かもしれないのだが・・・

 

 

そして、微妙な1枚!!!

 

 

バラハタマフシ(?!)

2013年7月15日 中泊町・青森

これは、7月に撮ったものだが、葉っぱの裏側に形成されており、
上の4枚の写真とは、だいぶ雰囲気が異なると思う。

だから、もしかしたら、これが本物のバラハタマフシかもしれない【注5】


ただ、このように突起が長くなり、金平糖に似た形態のものには、
ハンドブックによると、寄居蜂【注1】が見られることが多いとされる。

 

・・・という訳で、個人的には謎だらけ(?)のバラハタマフシでした。

 



 


【注1】当然のことであるが、例外(?)もある。

    かなりの頻度で、実際に虫えいを形成することはない虫たちが、
    虫えい内に入り込み、その組織を食べて育つことがあるようだ。

    そんな虫たちを、寄居者(または同居者)と呼ぶが、
    普通は、形成者の近縁種が多いとされる。
    
    寄居者の方が、形成者より発育が早いと、虫えいを変形させたり、
    結果として、形成者を殺してしまうこともある。

    さらに、形成者と近縁でない生物が、虫えいを食べることがあり、
    彼らは、えい食者と呼ばれ、これも少なくない頻度で見つかるようだ。

 

【注2】虫えいの命名法は、良く知られているように、
    <寄主植物名>+<形成部位>+<形態>+<フシ>
    で表示することが多い。

    今回のバラハタマフシに関しては、植物名として、
    一般名の<バラ>を使用している。

    これでは、園芸種のバラも、ノイバラも、カラフトイバラも、
    すべて<バラ>に含まれてしまう。

    形成種のタマバチの方が、バラの種類を特定して産卵していれば、
    タマバチの種類がそれぞれ異なる可能性がある。
    その場合には、個々のバラの種名を、虫えい名の先頭に付けるべきだ。

    だから、今回紹介したバラハタマフシ(?)は、正式には、
    ノイバラハタマフシとすべきなのかもしれない。
    


【注3】北海道には、オオタカネバラ、カラフトイバラ、
    ノイバラの3種のバラの仲間が、分布するようなので、
    バラハタマフシも見つかる可能性があるのかもしれない。

    ネット検索すると、カラフトイバラは、
    別名をヤマハマナスと言うらしく、北海道以外にも、
    長野や群馬の山地でも見つかっているようだ。

    だから、弘前周辺にも、分布する可能性はあるだろう。


【注4】虫えい名は、カラフトイバラハタマフシになっているが、
    寄生者のタマハチは、バラハタマバチと同種かもしれない。

    本文でも示したように、「北海道の虫えい」では、
    カラフトイバラハタマフシの形成者は、現時点では、
    タマバチの1種(種名不詳)となっている。
    おそらく、DNA解析の結果待ちなのかもしれないが・・・

    弘前のは、どっちなんだろうか?

 

【注5】もちろん、このまま9月まで落下しない可能性もある。
    その場合には、同じノイバラを利用する2種類のタマバチがいることになる。
    最終結論を出すには、多分DNA解析が必要なのだろう。

    現在の虫えいの命名法では、虫えいの形態や構造に差があれば、
    それぞれ別の名前が付けられることが多い。
    だだし、その場合でも、形成者が同一種であることが、
    DNA解析で分かっている例もあるようだ。

    また、タマバチは世代交代を行うものが多いので、
    夏に羽化して、別の場所で虫えいを作っている例があるかもしれない。

 

    

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