不思議な虫えい④ バラハタマフシ(?)
これまで、3回連続で、特異な形態の虫えいを紹介してきた。
でも、虫えいを見て、本当に不思議だと感じるのは、
その色とか形態ではなく、虫たちが、さりげなく植物を管理し、
食べ物に全く不自由のない、しかも天敵に狙われることのない、
住み心地の良い住居を、植物に作らせていることだと思う【注1】。
しかし、今回紹介するバラハタマフシ(?)は、
住み心地の良い住居という雰囲気は、感じられない。
そんなバラハタマフシには、もっともっと謎が多いのだ。
小さなノイバラの葉っぱの上にあるので、比較的大きく見える。
球形で、よく見ると短い突起がある、なかなか美しい虫えいだ。
ただ、緑色の葉っぱの上に、頼りなく引っかかっているだけで、
ちょっと風が吹けば、簡単に落ちてしまいそう・・・
しかも、赤い果実のように見えるので、
鳥に食べてくださいと言わんばかりだ。
これが、本当に、冒頭に書いた、
「天敵に狙われることのない住み心地の良い住居」
なのだろうか?
バラハタマフシ(?)
2010年8月21日 だんぶり池・青森
これは、ずいぶん前の写真だが、撮ったときの感動は忘れない。
一体、何のために、こんな風になっているのか?
当時(4年前)は、虫えいには、ほとんど興味がなかったが、
家に帰ってから、ちょっとだけネットで調べた記憶がある。
バラハタマバチ Diplolepis japonica Walker の寄生により、
バラやノイバラなどの葉に形成されることが分かった【注2】。
・・・・ただ、写真のタイトルに、(?)が付いている。
薄葉先生の「虫こぶハンドブック」によれば、
バラハタマフシは、葉っぱの裏側の葉脈上、または、
若い果実に形成される虫えいであり、6~7月には、
葉から脱落し、そのまま、虫えい内で幼虫越冬する。
しかし、弘前市周辺では、今回の数枚の写真のように、
8~9月になっても、落下しないものもあるのだ。
さらに、葉っぱの裏側には、形成されていないようだ。
⇒もちろん、ほとんどが葉裏に形成されているのだが、
私が、裏側のものを見つけられなかっただけかも・・・
でも、もしかしたら、タマバチが別種の可能性もある?!
いつも参考にさせていただくネットの「北海道の虫えい」を見ると、
バラハタマフシは、何故か、掲載されていない。
ただ、多分近縁種のカラフトイバラに形成される、
カラフトイバラハタマフシが載っている【注3】。
虫えい形成者は、タマバチの1種(種名未同定)とされ、
虫えいは7月下旬~8月上旬に出現し、8月中旬~下旬には、成熟する。
9月には、中の幼虫も終齢に達するが、そのまま虫えい内にとどまり、
落葉にともない地上に落下した虫えい内で越冬する。詳細は不明とある。
したがって、青森県で撮ったバラハタマフシ(?)は、
「虫こぶハンドブック」に掲載されているものではなく、
むしろ、北海道のカラフトイバラハタマフシに近いのかもしれない【注4】。
ただし、カラフトイバラハタマフシとは、葉表に形成されていることと、
表面が平滑で光沢がある(ツルツル?)とされる点が、微妙に違うので、
もしかしたら、第3の種類かもしれないのだが・・・
そして、微妙な1枚!!!
これは、7月に撮ったものだが、葉っぱの裏側に形成されており、
上の4枚の写真とは、だいぶ雰囲気が異なると思う。
だから、もしかしたら、これが本物のバラハタマフシかもしれない【注5】。
ただ、このように突起が長くなり、金平糖に似た形態のものには、
ハンドブックによると、寄居蜂【注1】が見られることが多いとされる。
・・・という訳で、個人的には謎だらけ(?)のバラハタマフシでした。
【注1】当然のことであるが、例外(?)もある。
かなりの頻度で、実際に虫えいを形成することはない虫たちが、
虫えい内に入り込み、その組織を食べて育つことがあるようだ。
そんな虫たちを、寄居者(または同居者)と呼ぶが、
普通は、形成者の近縁種が多いとされる。
寄居者の方が、形成者より発育が早いと、虫えいを変形させたり、
結果として、形成者を殺してしまうこともある。
さらに、形成者と近縁でない生物が、虫えいを食べることがあり、
彼らは、えい食者と呼ばれ、これも少なくない頻度で見つかるようだ。
【注2】虫えいの命名法は、良く知られているように、
<寄主植物名>+<形成部位>+<形態>+<フシ>
で表示することが多い。
今回のバラハタマフシに関しては、植物名として、
一般名の<バラ>を使用している。
これでは、園芸種のバラも、ノイバラも、カラフトイバラも、
すべて<バラ>に含まれてしまう。
形成種のタマバチの方が、バラの種類を特定して産卵していれば、
タマバチの種類がそれぞれ異なる可能性がある。
その場合には、個々のバラの種名を、虫えい名の先頭に付けるべきだ。
だから、今回紹介したバラハタマフシ(?)は、正式には、
ノイバラハタマフシとすべきなのかもしれない。
【注3】北海道には、オオタカネバラ、カラフトイバラ、
ノイバラの3種のバラの仲間が、分布するようなので、
バラハタマフシも見つかる可能性があるのかもしれない。
ネット検索すると、カラフトイバラは、
別名をヤマハマナスと言うらしく、北海道以外にも、
長野や群馬の山地でも見つかっているようだ。
だから、弘前周辺にも、分布する可能性はあるだろう。
【注4】虫えい名は、カラフトイバラハタマフシになっているが、
寄生者のタマハチは、バラハタマバチと同種かもしれない。
本文でも示したように、「北海道の虫えい」では、
カラフトイバラハタマフシの形成者は、現時点では、
タマバチの1種(種名不詳)となっている。
おそらく、DNA解析の結果待ちなのかもしれないが・・・
弘前のは、どっちなんだろうか?
【注5】もちろん、このまま9月まで落下しない可能性もある。
その場合には、同じノイバラを利用する2種類のタマバチがいることになる。
最終結論を出すには、多分DNA解析が必要なのだろう。
現在の虫えいの命名法では、虫えいの形態や構造に差があれば、
それぞれ別の名前が付けられることが多い。
だだし、その場合でも、形成者が同一種であることが、
DNA解析で分かっている例もあるようだ。
また、タマバチは世代交代を行うものが多いので、
夏に羽化して、別の場所で虫えいを作っている例があるかもしれない。