天敵からのエスケープ?! ハルニレフクロフシ
前回紹介したコガタルリハムシの集団摂食は、
天敵からのエスケープの可能性もあると思うが、
今回の例は、明らかに何か意味(?)がありそうだ。
比較的良く整備された松本市内の公園で、
ちょっとだけ不思議な光景に出会った。
こんな感じで、沢山あるハルニレの木のうち、
数本だけに、物凄い数のハルニレハフクロフシが見られた。
このピンク色は、まるで花が咲いているような雰囲気だ。
これも、天敵からのエスケープなのだろうか?
近づいてみると、ほとんどすべての葉っぱに、
かなり変化に富んだ形状の「虫えい」が出来ていた。
⇒まあ、普通のイモムシやケムシの食害と違って、
緑色の葉っぱの部分は残っているので、光合成はできるはずだ。
だからこれほどの集中分布をしても、
樹木へのダメージはそれほど多くないのかもしれない。
形成者は、オカボノクロアブラムシということで、
イネ科植物の害虫として記載された種なのだろう。
この第1世代の幹母によって、ハルニレの葉表に、
上部が膨らんだ筒状の虫えいが形成される。
薄葉先生【注】の「虫こぶハンドブック」によると、
6~7月になると、虫えいのサイドに開いた穴から、
有翅虫が脱出し、オカボなどのイネ科植物に移住する。
そして、秋に、二次寄生上で産性虫を生じ、
再びハルニレの枝に集まって、産卵するようだ。
だから、1本の木に集中するのは、
産卵する雌成虫の選好性(?)なのだろう。
ネット情報では、街路樹などで、多発することが知られている。
そんなときには、晩秋にハルニレのまわりを、膨大な数の成虫が飛び、
遠目には煙のように見えるらしいので、やはり、
ハルニレハフクロフシが数本の木に集中分布するのは、
天敵からのエスケープなのかもしれない。
【注】高校時代の恩師である薄葉先生が、
今年3月9日に亡くなられたことを、
虫えい掲示板の湯川先生の情報で知った。
数年前から、いつもの楽しい年賀状が届かなくなり、
心配していたのだが・・・
学問としての昆虫学というものを、
教えていただいた最初の先生だった。
在学当時は、いわゆる受験校と呼ばれた高校だったが、
生物部の雰囲気だけは、かなり異なっていたと思う。
無謀にも、「3年間で100種のカメムシを採集する」
と、みんなの前で宣言してしまったのだが、
卒業直前の3月に、それを達成したときには、
一番喜んでくれた(?)のが、薄葉先生だった。
心からご冥福をお祈りいたします。