虫たちの親子-20 アシベニカギバ
林道を歩きながら、虫を探していると、
予想以上に多くの虫たちが、成虫も幼虫も、
枯れ葉に擬態していることに気付く。
普通に考えると、枯れ葉のような虫たちは、
視覚的に獲物を探す鳥などに見つかりにくくするため、
枯れ葉の多い環境に静止するはずである。
しかし実際には、そのような傾向は、なさそうなのだ。
最近まで、枯れ葉に擬態する虫たちは、
『カメラマンに見つかる可能性が低いだけで、
実際には、枯れ葉の多い環境に沢山いるはずだ』
と思っていたのだが・・・
もしかしたら、その推定は、間違っていたのかもしれない。
アシベニカギバ幼虫(カギバガ科)
2014年7月27日 白岩森林公園・青森
最初に見つけたときは、緑の葉っぱに、
枯れ葉が引っ掛かっているのだと思った。
⇒色や模様がそっくりで、柄も付いているし・・・
ちなみに、緑の葉っぱの上には、
こんな感じで、枯れ葉が普通に見られる。
⇒念のため、これは本物の枯れ葉である。
アシベニカギバ幼虫(カギバガ科)
2014年7月27日 白岩森林公園・青森
横から撮ると、明らかにチョウ目の幼虫である。
⇒ただ、この写真では、スズメガの幼虫にも見える?
アシベニカギバ幼虫(カギバガ科)
2012年5月30日 南会津・福島
この子は、多少黒っぽいので、鳥の糞にも見える。
しかし近づくと、急に体の前後を持ち上げて、
U字型にそらせて威嚇する。
⇒このポーズは、捕食者から見ると、
普通の蛾の幼虫には、あり得ない姿になるのだろう。
多少とも、接近してくる捕食者を、
ビックリさせる効果があるのかもしれない。
そして、成虫は?!
アシベニカギバ成虫(カギバガ科)
2014年6月21日 志賀坊森林公園・青森
まさに、ほぼ完璧に近いほどの隠蔽的擬態なのだが、
実は、この状況は『かなり不思議な現象』でもあるのだ。
⇒冒頭に書いたように、アシベニカギバ成虫は、
たまたま、背景選択を間違って、よく目立つような、
緑の葉っぱの上にいるのか、とも思った。
しかし、「どうも、そうではなさそうだ」ということが、
最近になって、何となく分かってきたのだ。
もし、彼らが普通に地表部に静止するのであれば、
色や模様を枯れ葉に似せるだけで十分であり、
姿かたちまで、枯れ葉そっくりになる必要はない。
また、地表部には、野鳥類とは獲物を探す手段が、
全く異なる小型の捕食者が何種類もいて、
獲物を少し離れた場所から探すことはしない。
だから、そんな捕食者に対して、虫たちは、
遠目に見た感じが、枯れ葉に擬態する必要はないのだ。
⇒トカゲやカエルなど、多くの小型の捕食者は、
視覚や嗅覚で獲物を探すのだが、最終的には、
動くものに反応して捕獲することが多いと思う。
ミラクル擬態と呼ばれるような精巧な隠蔽的擬態種は、
野鳥類に見つかりやすい葉っぱの上などに、
静止するときこそが、その真価を発揮するのだ。
↓ ↓ ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150210/1/
・・・というわけで、
今回の蛾は、幼虫時代だけでなく、成虫時代にも、
枯れ葉に擬態しており、しかも、どちらも、
「よく目立つ緑色の葉っぱにいる」という、
むしろ珍しいパターンの親子だったのだ。