虫たちの防御戦略⑤ Ⅱ(4). 警戒色(標識色)
何らかの防御手段を持っている虫たちは、
一般的に、捕食者から攻撃されることはなく、
比較的よく目立つ赤や黄色の体色をしていることが多い。
そのような体色は、警戒色(標識色)と呼ばれる。
どうせ捕食者に食われることがないのなら、
別に体色は、どんな色でも関係ないと思われがちであるが、
実際には、武器を持った種や有毒種は、ほとんどが警戒色である。
その理由は、次のように考えられる。
有毒種とはいえ、捕食者から攻撃を受けたとき、
獲物を直接口の中に入れてしまうような捕食者の場合には、
あわてて吐き戻されたとしても、死んでいるか、
あるいはケガをしている可能性が高い。
だから、一度ひどい目にあった鳥やカエルなどの捕食者が、
次回からその色や模様を学習して、2度と攻撃しなくなるように、
より目立つ色をしている方が理にかなっているのだ。
そして、良く目立つ警戒色には、必然的(?)に、
ミュラー型擬態者が出現する可能性がある。
有毒昆虫は、独自に別々の警戒色を持っているよりも、
同じような形態・色彩であった方が、捕食者の学習の回数が増えて、
より効率的に、攻撃を避けることができるからである。
今回は、そんな警戒色の虫たちの写真を紹介したい。
黄色と黒の独特の縞模様のキイロスズメバチは、別項で紹介するように、
他の非力な虫たちが擬態するモデルになっているほどである。
人間でさえも、近づくのをためらうほどの迫力である。
雪解け直後から、見かけるカクムネベニボタル。
早春の明るい開けた林道で、よく見かけるが、
カメラを近づけても、逃げないことが多いので、
多分「自分は、不味くて食べられないぞ!!」と、言っているようだ。
ベニボタルの仲間は、甲虫とはいえ、体は比較的軟らかく、
外敵に襲われたときに、不味い体液が外に出やすいのだ。
このタイプの色彩を持つ有毒種は多く、
典型的なミュラー型擬態の色彩パターンになっている。
これは、ヨツボシヒラタシデムシという良く目立つムシである。
普通、シデムシの仲間は、体は真っ黒で、
死体を食べる掃除屋として知られているが、
この子は、目立つ姿形で、樹上生活をして、
チョウや蛾の生きた幼虫を攻撃する。
外敵に襲われると、防御物質を放出する。
如何にも不味そうな(?)カメノコテントウ。
体内の有毒成分を滲み出させるので、下手に掴むと手が黄色くなる。
ナガメは、成虫になってからは、防御物質を放出しない。
だから、カメムシの匂いはしないが、
植物起源の有毒成分を体内に持つので、鳥は食べない。
オオキンカメムシは、大型のキンカメムシである。
限られた場所で、集団越冬する習性を持つ。
警戒色ではないカメムシは、隙間や落ち葉の下で、
隠れて、集団越冬する。
同じく南方系のアカギカメムシ。
こちらも、特定の樹木で、集団越冬する。
防御物質よりも、体内に持つ不味成分により、
捕食者が避けるようだ。
白い十字模様が特徴的なクロジュウジホシカメムシ。
黒地に白い十字があり、しかも赤い縁取りがある。
この組み合わせも、非常に目立つ警戒色の典型だろう。
やはり、体が比較的柔らかく、有毒成分を含んだ体液が出やすい。
アカヘリサシガメは、有毒種ではなさそうであるが、
次回紹介するセグロトゲアシガがベイツ型擬態をする。
間違いなく有毒種のホタルガであるが、
同じ有毒種の本物のホタルに似ているので、
ミュラー型擬態だろう。
良く目立つ場所で、交尾中のミノウスバ。
マダラガ科の蛾は、多分ほとんどが有毒種である。
同じく南方系の大型のチョウで、
幼虫時代に蓄積した有毒成分を体内に持つオオゴマダラ。
毒チョウの特徴である、ゆっくりした飛び方で、
現地では、新聞チョウとも呼ばれる。
民家の周辺を悠然と飛ぶ姿は、本当に、
新聞紙が風に舞っているように見える。
西表島の旅館の窓から、ずっと眺めていた記憶がある。
まあ、この白黒パターンも、警戒色なのだろう?
ここまでは、有毒種である。
しかし・・・・
最初のスズメバチにみられるような黄色と黒のしま模様は、
もしかしたら、その色彩パターンそのものの情報に、
全く意味がないとまでは、言い切れない部分もあるのだ。
オニヤンマも、典型的な黄色と黒色の警戒色である。
大型の強力な捕食者であり、素早い動き方をするので、
鳥などの捕食者は、最初から諦めて攻撃しないのだろうか?
ジョロウグモも、状況は全く同じで、
いかにも強そうなイメージではあるが、
有毒種ではないだろう。
では、下の写真の子はどうだろうか?
この写真のハンノケンモンという蛾の幼虫は、
有毒植物を食べているわけではなく、
特に、Ⅱ(5)のベイツ型擬態とは考えられないのに、
このような黄色と黒のしま模様なのである。
おそらく、多くの捕食者は、オニヤンマやジョロウグモと同様に、
ハンノケンモンの幼虫を、食べることはないのだろう。
だから、生物がこのような色の組み合わせを、
本能的に嫌うということも、考えられないわけでもない。
その証拠に、この色の組み合わせは、
何も学習していない幼稚園児にでも良く目立つように、
道路の危険個所や、工事現場などで、
注意を促す視覚信号として使用されているのだ。