虫たちの防御戦略⑦ Ⅱ(6). 非食物擬態(仮称) 金属光沢と糞擬態
虫たちの中には、食べ物ではないものに似せることにより、
捕食者の視覚を欺いて、身を守ろうとするものがいる。
Ⅱ(3)で紹介したように、枯れ葉や枯れ枝に擬態する虫たちは、
背景を間違えてしまったときに、捕食者が見つけても無視する。
だから、食べ物以外に擬態していると言えるのかもしれないが、
彼らは、基本的には目立たないタイプの隠蔽的擬態者なはずだ。
もっと積極的に、自分を目立たせ、捕食者に発見されやすいが、
すぐに興味を失うものに擬態する虫たちがいるのである。
キンキラキンの金属光沢の虫たちは、その名のとおり自分は金属で、
食べ物(生き物)ではないことを、訴えている可能性がある。
(⇒金属光沢は虫の体色であり、定義上は、Ⅱ(4)の警戒色かもしれない)
普通に考えれば、「金属のような生物」がいるのは、不思議だ・・・(注1)
この写真のように、アカガネサルハムシは、まさにメタリックである。
これだけ目立つのに、有毒種でもない(多分)し、武器も持っていない。
本当に、捕食者は、生物でないと判断して、
タマムシやルリハムシを食べないのだろうか?
実は、この戦略には、大きな落とし穴があったのである。
鳥類のような視覚的に獲物を探す捕食者の多くは、
獲物に対して、サーチングイメージができるので、
直前に食べた虫たちを狙う習性があるのだ。
もし、すごく目立つ金属光沢の虫たちが、
偶然に一度でも、捕食者に食べられてしまうと、
彼らは嫌な味も匂いも持っていないので、今度は逆に、
捕食者は、そればっかりを狙って食べるようになってしまう。
その証拠が、下の写真である。
これは、北海道で見つけた、多分クロテンの糞である。
実は、これとよく似た写真を1年後に、同じ北海道内で撮っているのだ。
これは、次の年に発見した糞を、少し崩してみたところである。
もしかしたら、収集家が見たら、目を覆いたくなるような、
もの凄い光景なのかもしれないが・・・
素人が、2年連続で、キンキラ糞を発見できるほど、普通にあるのだろうか?
ちょっとだけ不思議な気がする(注2)。
続いて、つながり良く(!)、鳥のフンに擬態する虫たちを紹介する。
地面に水平に広がっている大きな葉っぱの上には、
枯れ枝や花の残骸など、色々なものが落ちて来ている。
確かに、その中に紛れ込んでいると、
鳥のフンのような虫は、隠蔽的擬態であるような気もする。
しかし一方で、少なくとも、虫を探しながら歩く人間には、
葉っぱの上の鳥のフンは、よく目立つ。
同じく、虫を探しながら飛ぶ(歩く)鳥や動物にも、
よく目立つのだろうが、おそらく関心を引くことはないだろう。
つまり、捕食者が必死で探す虫(餌)のリストから、
食べられない鳥のフンとして、とりあえず外されていることは、
被食者にとっては、かなり大きい防御手段になっているはずだ。
おそらく蛾の幼虫だろう。
朝露に濡れて、まさに鳥のフンである。
すぐ近くには、越冬前のアマガエルが沢山いたが、
この幼虫は、全く食べられる気配がなかった。
この幼虫も、どう見ても鳥のフンである。
いつも、こんな感じで静止しているのだろうか?
それにしても、リアルである。
オジロアシナガゾウムシである。
どうも、白と黒のまだら模様があると、
鳥のフンに見えるようである。
これが、緑色の葉っぱの上にあると、
かなり良く目立つ。
これは、トリノフンダマシというクモの仲間である。
灰色の微妙な模様の腹部とのバランスは、明らかに、
鳥のフンを意識(?)しているのだろう。
思いきり近づいてみると、上の方に黄色く見えるのが、
見事に折りたたまれた脚である。
一番目立つ場所で、必死に演技しているようだ!!!
最後にひとつだけ、素晴らしい例を示そう。
遠目でみたときには、確かに鳥の糞であった。
近づいて見ると、多少違和感があるが、
ヒトツメカギバという蛾が、確かに交尾していた。
もちろん、違和感を感じたのは、
普通の蛾の交尾の状態ではないからである。
虫たちが、どんなに上手に擬態しようと、
左右対称の形態まで変えることはできないのだ。
ところが、この子たちは、明らかに、交尾することによって、
左右対称の本来の蛾の輪郭を消しているのだ!!!
こっちは、驚くべきことに、交尾は終わっているようだ。
(⇒時間的に、交尾前とは考えにくい?)
しかし、このように、ある程度重なったまま離れようとしない。
交尾が終わって、ただ名残を惜しんでいるわけではないのだ。
冷静に観察すると、この役者カップルの迫力のある演技(!)が理解できる。
このような、全体の輪郭を細長く見せるような重なり方は、
鳥の糞が、垂直に近い葉っぱの上に落ちて、
下の方に垂れ下がったような雰囲気を出しているのだ。
これは、偶然とは思えないし、見事というしかない!!!!!!
これが意識的に(?)演技しているのだとすると、
逆に言うと、最初のカップルの重なり方も、また見事である。
ほぼ水平の葉っぱの上で交尾する場合には、鳥の糞が、
水平の葉っぱの上に落ちて、隙間なくぴったりと葉っぱに密着して、
均等に広がった状況を、再現(?)していることになる。
ヒトツメカギバのオス成虫は、自分が止まっている葉っぱが、
水平に近いのか、あるいは垂直に近いのかを分かっていて、
雌雄の重なり方を変えているのだ。
是非、下の元記事をご覧ください。
↓ ↓ ↓
20120918 これは交尾擬態か? ヒトツメカギバ
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120918/1/
(注1)生物が非生物特有の金属光沢を持つ意味は、色々考えられる。
捕食者と被食者との関係に限ってみれば、
① 単純に、キラキラ光るものを、捕食者は食べ物と認識しない。⇒Ⅱ(6)
② まわりの葉っぱや水面がキラキラ反射すると、保護色になる。⇒Ⅱ(2)
③ 逆に、そのキラキラがよく目立ち、警戒色となる。⇒Ⅱ(4)
④ 飛翔中にキラキラ光ると、小鳥をおびえさせる。⇒Ⅲ(2)
というように、説明されることが多い。
もちろん、その他の機能としては、
体温調節や交尾相手の発見なども考えられる。
(注2)このことは、ベイツ型擬態者にも言えることで、
捕食者が危険なモデル種を経験する前に、
味の良い擬態者を食べることがあるはずで、
そんなときには、目立つ色のサーチングイメージによって、
擬態者が、連続的に食べられてしまう可能性もあるのだ。