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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

虫たちの防御戦略⑦ Ⅱ(6). 非食物擬態(仮称) 金属光沢と糞擬態

虫たちの中には、食べ物ではないものに似せることにより、
捕食者の視覚を欺いて、身を守ろうとするものがいる。

Ⅱ(3)で紹介したように、枯れ葉や枯れ枝に擬態する虫たちは、
背景を間違えてしまったときに、捕食者が見つけても無視する。
だから、食べ物以外に擬態していると言えるのかもしれないが、
彼らは、基本的には目立たないタイプの隠蔽的擬態者なはずだ。


もっと積極的に、自分を目立たせ、捕食者に発見されやすいが、
すぐに興味を失うものに擬態する虫たちがいるのである。

キンキラキンの金属光沢の虫たちは、その名のとおり自分は金属で、
食べ物(生き物)ではないことを、訴えている可能性がある。
(⇒金属光沢は虫の体色であり、定義上は、Ⅱ(4)の警戒色かもしれない)

普通に考えれば、「金属のような生物」がいるのは、不思議だ・・・(注1)

 


2011年6月22日 白岩森林公園・青森

この写真のように、アカガネサルハムシは、まさにメタリックである。
これだけ目立つのに、有毒種でもない(多分)し、武器も持っていない。

本当に、捕食者は、生物でないと判断して、
タマムシやルリハムシを食べないのだろうか?


実は、この戦略には、大きな落とし穴があったのである。

鳥類のような視覚的に獲物を探す捕食者の多くは、
獲物に対して、サーチングイメージができるので、
直前に食べた虫たちを狙う習性があるのだ。

もし、すごく目立つ金属光沢の虫たちが、
偶然に一度でも、捕食者に食べられてしまうと、
彼らは嫌な味も匂いも持っていないので、今度は逆に、
捕食者は、そればっかりを狙って食べるようになってしまう。

その証拠が、下の写真である。



2010年7月3日 日高町・北海道

これは、北海道で見つけた、多分クロテンの糞である。
実は、これとよく似た写真を1年後に、同じ北海道内で撮っているのだ。



2011年7月10日 野上峠・北海道

これは、次の年に発見した糞を、少し崩してみたところである。
もしかしたら、収集家が見たら、目を覆いたくなるような、
もの凄い光景なのかもしれないが・・・

素人が、2年連続で、キンキラ糞を発見できるほど、普通にあるのだろうか?
ちょっとだけ不思議な気がする(注2)

 

続いて、つながり良く(!)、鳥のフンに擬態する虫たちを紹介する。


地面に水平に広がっている大きな葉っぱの上には、
枯れ枝や花の残骸など、色々なものが落ちて来ている。

確かに、その中に紛れ込んでいると、
鳥のフンのような虫は、隠蔽的擬態であるような気もする。

しかし一方で、少なくとも、虫を探しながら歩く人間には、
葉っぱの上の鳥のフンは、よく目立つ。

同じく、虫を探しながら飛ぶ(歩く)鳥や動物にも、
よく目立つのだろうが、おそらく関心を引くことはないだろう。

つまり、捕食者が必死で探す虫(餌)のリストから、
食べられない鳥のフンとして、とりあえず外されていることは、
被食者にとっては、かなり大きい防御手段になっているはずだ。



2010年10月8日 だんぶり池・青森

おそらく蛾の幼虫だろう。
朝露に濡れて、まさに鳥のフンである。

すぐ近くには、越冬前のアマガエルが沢山いたが、
この幼虫は、全く食べられる気配がなかった。



2010年10月8日 だんぶり池・青森

この幼虫も、どう見ても鳥のフンである。

いつも、こんな感じで静止しているのだろうか?
それにしても、リアルである。



2011年6月10日 ひたちなか市・茨城

オジロアシナガゾウムシである。
どうも、白と黒のまだら模様があると、
鳥のフンに見えるようである。

これが、緑色の葉っぱの上にあると、
かなり良く目立つ。



2012年8月6日 金山町・秋田

これは、トリノフンダマシというクモの仲間である。

灰色の微妙な模様の腹部とのバランスは、明らかに、
鳥のフンを意識(?)しているのだろう。

思いきり近づいてみると、上の方に黄色く見えるのが、
見事に折りたたまれた脚である。

一番目立つ場所で、必死に演技しているようだ!!!

 

最後にひとつだけ、素晴らしい例を示そう。



2012年9月13日 芝谷地湿原・秋田

遠目でみたときには、確かに鳥の糞であった。
近づいて見ると、多少違和感があるが、
ヒトツメカギバという蛾が、確かに交尾していた。

もちろん、違和感を感じたのは、
普通の蛾の交尾の状態ではないからである。

虫たちが、どんなに上手に擬態しようと、
左右対称の形態まで変えることはできないのだ。

ところが、この子たちは、明らかに、交尾することによって、
左右対称の本来の蛾の輪郭を消しているのだ!!!



2012年9月13日 芝谷地湿原・秋田

こっちは、驚くべきことに、交尾は終わっているようだ。
(⇒時間的に、交尾前とは考えにくい?)

しかし、このように、ある程度重なったまま離れようとしない。
交尾が終わって、ただ名残を惜しんでいるわけではないのだ。
冷静に観察すると、この役者カップルの迫力のある演技(!)が理解できる。

このような、全体の輪郭を細長く見せるような重なり方は、
鳥の糞が、垂直に近い葉っぱの上に落ちて、
下の方に垂れ下がったような雰囲気を出しているのだ。


これは、偶然とは思えないし、見事というしかない!!!!!!


これが意識的に(?)演技しているのだとすると、
逆に言うと、最初のカップルの重なり方も、また見事である。
ほぼ水平の葉っぱの上で交尾する場合には、鳥の糞が、
水平の葉っぱの上に落ちて、隙間なくぴったりと葉っぱに密着して、
均等に広がった状況を、再現(?)していることになる。

ヒトツメカギバのオス成虫は、自分が止まっている葉っぱが、
水平に近いのか、あるいは垂直に近いのかを分かっていて、
雌雄の重なり方を変えているのだ。


是非、下の元記事をご覧ください。
↓  ↓  ↓
20120918 これは交尾擬態か? ヒトツメカギバ
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120918/1/

 

(注1)生物が非生物特有の金属光沢を持つ意味は、色々考えられる。
    捕食者と被食者との関係に限ってみれば、

    ① 単純に、キラキラ光るものを、捕食者は食べ物と認識しない。⇒Ⅱ(6)
    ② まわりの葉っぱや水面がキラキラ反射すると、保護色になる。⇒Ⅱ(2)
    ③ 逆に、そのキラキラがよく目立ち、警戒色となる。⇒Ⅱ(4)
    ④ 飛翔中にキラキラ光ると、小鳥をおびえさせる。⇒Ⅲ(2)
  
    というように、説明されることが多い。

         もちろん、その他の機能としては、
    体温調節や交尾相手の発見なども考えられる。

 

(注2)このことは、ベイツ型擬態者にも言えることで、
    捕食者が危険なモデル種を経験する前に、
    味の良い擬態者を食べることがあるはずで、
    そんなときには、目立つ色のサーチングイメージによって、
    擬態者が、連続的に食べられてしまう可能性もあるのだ。

 

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