虫たちの防御戦略⑩ Ⅲ(2). 目玉模様(大)
捕食者が接近してくるのを感知した虫たちは、
その場所から離れる(逃げる)というのが、
前回【Ⅲ(1)】紹介したように、最も手っ取り早い選択だと思う。
しかし、ただ単に逃げるよりも、せまってくる捕食者を、
ちょっとだけでも躊躇させてから逃げる方が、
より確実に、目的を達成できるだろう。
捕食者の攻撃を、躊躇させる手段は、色々ありそうだ。
代表的なのが、突然見せる目玉模様と、突然放出する防御物質だ。
防御物質については、後日、Ⅲ(5).で紹介するので、
ここでは、様々な場面で活躍する目玉模様を取り上げる。
目玉模様は、その機能によって、2種類に大別されるが、
攻撃をそこに向けさせる比較的小さな目玉模様については、
Ⅲ(4).で紹介するので、ここでは触れない。
常夜灯がある公共の駐車場(SAや道の駅など)のトイレは、
色々な蛾の写真を撮ることができる隠れた穴場である。
そんな場所に、早朝さりげなく行ってみると、
森の中に帰りそびれた沢山の蛾が見つかる。
人が近づくと、飛んで逃げようとするが、
そのとき、ふたつの大きな目玉模様が見える蛾がいる。
そのような蛾の多くは、普通に止まっているときには、
保護色的な色彩の前翅の表面を見せているので、
鳥などの捕食者から、見つかりにくくなっている。
ところが、捕食者や人が近づいてくるのを察知すると、
前翅を急に広げ、鮮やかな目玉模様を見せるのだ。
クスサンの目玉模様は、このように逆さに見ると、
フクロウなどの肉食性の鳥の目とそっくりであり、
蛾を捕えようとした鳥は、攻撃をためらうだろう。
ヤママユの場合には、翅を閉じているときにも、
小さな目玉模様が見えるが、前翅を開くと、
より大きな別の目玉模様が突然見える。
目玉模様を持たず、保護色だけにたよっている蛾には、
この前翅を突然広げるという行動は、見られないようだ。
一方、幼虫時代に大きな目玉模様をもっている蛾も多く、
皮膚の下や腹側に目玉模様があって、急にそれを示す種や、
もち上げて前後にはげしく振る種などが知られている。
まるで漫画のような目玉模様のアケビコノハ幼虫。
大きな目玉模様を持つ虫たちは、そんなに多くないが、
いずれも単なる同心円ではないところが凄い!
良く見ると、多少のずれがあったり、
中心部分には、虹彩を思わせる別の模様があるのだ。
クワコ幼虫の目玉模様は、アケビコノハ幼虫と違って、
このように、十分すぎるほどリアルである。
これが、まさに本物のヘビの目玉に、良く似ているのだ。
これは、本物のシマヘビである。
人間はあまり良く見ることはないだろうが、
確かに、本物のヘビの目の模様と、
偽物の目玉模様を比較すると、うまく擬態してるなと思う。
捕食者に限らず、多くの生物は、完全な目玉模様でなくとも、
突然目の前に、鮮やかな色をしたものが飛び出すと、
かなり驚くことが、多くの実験で確かめられている。
アケビコノハの場合は、完全な目玉模様ではないが、
前翅の枯れ葉に似た保護色のおかげて、
突然見えるオレンジ色の模様のインパクトは大きい。
この写真は、私がカメラを持って近づいたとき、
翅を広げて、飛んで逃げようとした瞬間である。
ヒトリガの場合は、右下の静止状態から、脅かされると、
翅を広げて、突然オレンジ色を見せつける。
この赤みが強いオレンジ色は、人でも衝撃を受ける。
その他にも、カトカラと呼ばれる種類の蛾は、
普段見えない後翅表面が、鮮やかな色をしており、
偶然かもしれないが、飛び立って逃げるときに、
鮮やかな模様がみえる。(写真はゴマシオキシタバ)
多くの生物は「見慣れないものを本能的に避ける」傾向がある。
クスサンやアケビコノハの例のように、最初は、飛び立つ寸前に、
普段隠れている鮮やかな模様が、突然見えるだけだったのだろう。
この場合は、もちろん捕食者の過去の経験は無関係であり、
単なる見慣れないものが、突然目の前に現れて、
ちょっとビックリ! ということしかなかったと思う。
それを、捕食者の方で、勝手に(!?)驚いて、
さらに、そこに見えている、ふたつ並んだ同心円状の模様を、
過去に嫌な経験をしたフクロウの眼と、(勝手に)思い込んだのである。
そして、その目玉模様が、捕食者を躊躇させる効果は予想外に大きく、
さらに、精巧でリアルな目玉模様へと進化していったのだろう。
それは・・・・何となく・・・・分かった。
では、下の2枚の写真は、一体どう説明するんだ!!!
突然後翅の模様を見せる蛾は、まだ他にもいるのだ。
中には、こんな青い模様の蛾もいるし(フクラスズメ)、
中には、こんな黒い模様の蛾もいる(シロシタバ)。
一体、これには、どんな意味があるんだ?
捕食者を驚かすだけなら、赤色が一番だし、
みんな赤系の色にすれば良いではないか!!
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この問いに対するもっともらしい回答が、ふたつある。
(1)赤い模様に何度も騙されてきた捕食者を、
迷わせ、さらにビックリさせるために、
違う色も「あり」である。
(2)逆に、突然見える目玉のようなものを、
急所として攻撃させる「小さな目玉模様」の効果を狙う。
どっちにしても、ちょっとだけ不思議な虫たちである!!!
以下の元記事も、是非ご覧ください。
↓ ↓ ↓
20110308 目玉模様の進化【1】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110308/1/
20110309 目玉模様の進化【2】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110309/1/
20110310 目玉模様の進化【3】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110310/1/
20110311 目玉模様の進化【4】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110311/1/