虫たちの防御戦略⑪ Ⅲ(3). 擬死
より鮮明に撮ろうとして、カメラをそっと近付けると、
ポロッと下に落ちてしまう悔しい虫たちがいる。
しかも、
多くの場合、
落下した後、
しばらくの間は、
死んだように、
動かない!!
この行動は、予想以上に防御効果があるようだ。
ズーム機能のないカメラで、これだけ近づけば、
ゾウムシの仲間は、何らかの手段で、その気配を察知して、
ほぼ100%落下してしまう。(写真はヒメシロコブゾウムシ)
普通は、草むらの中に落下するので、おそらく、
2度と探すことはできない。
今回は運良く(?!)、草のない地面に落下した。
当然、しばらくの間は、全く動かない!!!
このように、全ての脚を突っ張って、
まるで死んでるようにみえる状態を、擬死と呼ぶ。
この状態では、たとえ見つかってしまっても、
一気に飲み込むタイプの捕食者は、
ちょっと苦手かも知れない。
このように葉っぱの上にいるコガネ類も、
ちょっとした振動で、地面に落下してしまう。
(写真は多分チャイロコガネ)
もちろん、風邪で葉っぱが揺れても、落下することはない。
恐らく、微妙な振動の違いを察知するのだろう。
当然、一度地面に落ちてしまった彼らを、
再び探し出すのはかなり困難である。
枯れ葉の間に落ちて、しかも、しばらく動かないからだ。
おそらく、狩りをする捕食者は、動くエサに反応する。
というか、視覚で獲物を探す捕食者の多くは、
生きているものでも、動かないものを攻撃することはない。
カマキリやカエルが獲物を捕獲する瞬間を、
何度も間近で見たことがあるが、
彼らがアタックするのは、射程距離内にいる獲物が、
多分、緊張感に耐えられなくなって、
ほんのちょっと動いた瞬間である。
だから、実際には、狩りをする捕食者は、
本当に死んだものを食べることはないのだろう。
死体を食べると、病気感染などのリスクがあるからなのか?
もう一例、面白い例がある!!
コメツキの仲間は、落下して、擬死するときに、
ちょっとだけ不思議な行動を追加している。
こんな感じ・・・・?
葉っぱの上を、悠然と歩いて、いつでも落下できるぞ!
という雰囲気が見え見えである。
(写真はムナビロサビキコリ)
軽く刺激すると、予想通り見事に、石の上に落下した。
このように、硬い場所に仰向けに落下した場合には、
良く知られているように、関節をうまく利用して、
ピコ~ンと言う感じで、数10cmも、飛び上がるのだ。
もちろん、こんなことが出来れば、一瞬で、
捕食者の視界から消えることができる。
さらに、このような擬死行動の適応的意義に関しては、
最近の研究結果によって、新たに別の可能性も示唆されている。
上で見てきたような、体を硬直させる擬死行動は、
捕食者に襲われてからも、別の効力を発揮するのだ。
トゲヒシバッタという体にトゲのあるバッタがいる。
特に捕食者が、カエルのような、飲み込み型である場合、
体の左右に頑丈なトゲを持つこのバッタは、
さらに足を突っ張って、体を硬直させるで不動化することで、
物理的に飲み込まれにくくしていることが分かった。
さらに面白いことに、トゲヒシバッタは、潜在的な捕食者のうち、
一気に飲み込むような捕獲行動をするカエルに対してだけ、
脚を突っ張る擬死行動を行い、ついばむように捕食する野鳥類には、
行わないことも、詳細な観察によって確認された。
また、これも最近の研究で、貯穀害虫のコクヌストモドキの場合には、
ある個体が擬死することで、その個体の近くで動いている他個体に、
捕食者の注意が振り向けられることになり、その結果、
動かないでじっとしている個体が、捕食者から攻撃さないことも分かったのだ。
同じようにみえる擬死行動でも、これだけ多くの機能が追加されている。
さすが、ちょっとだけ不思議な虫たち!!!