虫たちの防御戦略① Ⅰ.防御行動の分類
このブログでは、虫たちの行う防御行動を、順不同で紹介してきた。
特に、弘前に住みはじめてからの3年間で、捕食者に対する防御戦略が、
本当に多種多様であることを、再確認出来たように思う。
それらを、多少とも体系的に整理し、なるべく写真がダブらないようにしながら、
もう一度まとめて紹介していきたい。
Ⅰ.防御行動の分類
種を細かく分化することによって、非常な繁栄を続けている虫たちは、
その一方で、多くの動物たちの重要な食物源(餌)となっている。
そのため、ほとんどの虫たちにとって、
他の動物の餌となることを避けるような対策をとることは、
必要不可欠なことだったと思う。
例えば、このブログで何度も紹介した、ハイイロセダカモクメ幼虫は、
やり過ぎとも思えるほど、ヨモギの花穂にそっくりな姿をしており、
完全にヨモギの花穂の出現とシンクロナイズして、一生を終える。
また、ミイデラゴミムシは、防御物質を噴射するために、
体の内部のほとんどを、2種の化合物を反応させる噴射装置にしている。
さらに、沖縄にいるクロカタゾウムシは、
虫ピンが貫通しないほど頑丈な体になっているし、
幼虫時代をミノムシと呼ばれるミノガの雌は、
成虫になってもミノから出ることはなく、
交尾や産卵もすべて安全なミノの中で行う。
このように、捕食者からの防御手段に、
かなりのエネルギーを使っている種がいる一方で、
全く防御手段を持ち合わせていないような虫たちも当然いる。
捕食者に出会ったときに、逃げることもできないような虫たちは、
ある程度、捕食者に食べられてしまうことを覚悟で、
それに見合うだけの沢山の卵を産んでいることが多い。
これも、一つの防御方法なのかもしれないが・・・
ということで、当然のことであるが、
捕食者に対して虫たちの行う防御行動は、千差万別である。
ただ、それらを、いくつかのカテゴリーに分けることは、
簡単にできそうである(注)。
虫たちの行う防御方法そのものに重点を置くと、
以下の3つのカテゴリーに分けることができる。
Ⅰ.逃避的防御法: 翅、脚、鱗粉など
Ⅱ.攻撃的防御法: 防御物質、武器、目玉模様など
Ⅲ.謀略的防御法: 保護色、隠蔽的擬態、ベイツ型擬態、フン擬態など
この分類法は、3つにしか分けていないので、
例外は出にくいが、個人的には、あまりにも大雑把すぎて、
分類したことにならない気がするのだが・・・
一方、捕食者の捕獲行動に重点を置いた場合には、
獲物を捕獲するステップごとに、以下の6段階に分けて、
どの段階で働く防御法なのかによって、分類することもできる。
Ⅰ.探索: 保護色、警戒色など
Ⅱ.発見: 擬態、フン擬態、金属光沢など
Ⅲ.接近: 目玉模様?、擬死?など
Ⅳ.攻撃: 防御物質、対抗武器など
Ⅴ.捕獲: 硬い体、足のつっぱり、自切など
Ⅵ.摂食: 有毒物質、不味成分など
この分類法でも、例えば、擬死や目玉模様が働くのは、
いったいどの段階なのかは、かなり微妙である。
特にⅠ.とⅡ.にまたがる分類困難な防御法があったり、
Ⅳ.とⅤ.の中では、捕食者の種類や捕獲方法の違いによって、
種分けができにくい場合も出てくる。
今回は、下で紹介した Edmunds(1970) の分類に従い、
被食者の行う防御戦略を、写真をメインに紹介していきたい。
【一次的防御法】
⇒捕食者が近くにいても、いなくても無関係に働く防御法で、
捕食者との出会いの機会を出来るだけ減らすことを目的とする。
⇒ただ、(5)と(7)は、今回説明の都合上、私が追加した。
(1) 隠れている
(2) 体の色で、目立たないようにする
(3) 姿かたちで、目立たないようにする
(4) 目立つ色で、危険であると知らせる
(5) 他の危険な種に似せる
(6) 食べ物ではないものに似せる
(7) 集団になる
【二次的防御法】
⇒捕食者と出会ってしまったときに働く防御法で、
被食者の生存の確率を増加させることを目的とする。
(1) 逃げる
(2) 脅かして攻撃を躊躇させる
(3) 死んだふりをする
(4) 攻撃をはぐらかす
(5) 化学的に反撃する
(6) 物理的に反撃する
しかし、知れば知るほど、その内容は複雑であり、
簡単にジャンル分けが出来ないような防御法があったり、
ひとつの防御手段が、色々な場面で効果的に働くこともわかってきた。
それらについては、本文で確認していきたい。
また、本文に書ききれなかった内容や、写真の説明などについては、
関連する元記事を、引用文献のようなイメージで、
ところどころに、記載しています。
アドレスをクリックすると、そのページに飛びますので、
ご確認ください。
(注)これまでに、多くの先駆者たちが、虫たちの行う防御戦略を、
適切に分類・整理して、単行本や総説などで紹介している。
今回は、引用文献や、個々の研究者の名前は記載しなかったが、
以下の3冊は、昔かなり影響を受けたバイブルのような本である。
W.Wickler(1968) Mimicry in plants and animals
M.Edmuds(1970) Defence in Animals
T.Eisner et al.(2005) Secret Weapons
主に、この3冊によって、捕食者と被食者との関係が、
知れば知るほど複雑で、ちょっとだけ不思議なものであることを知った。