忍者ブログ

ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

擬態の不思議【2】 標識的擬態(Mimicry)

(前項【1】を先にお読みください)

自分を視覚的に目立たせることによって、
外敵からの攻撃から逃れる方法がある。

自らを、よく目立つ危険な動物に似せると、
過去に嫌な経験をした学習能力のある捕食者を欺いて、
その攻撃を躊躇させることができるからである。

このような擬態を、【標識的擬態 Mimicry】と言うが、
上記のような場合、さらに分類して、
一般的に【ベイツ型擬態】と呼ばれる。


ベーツ型擬態が機能していることを証明するためには、
以下の5点を、すべて確認する必要がある。

①モデル種は、まずくて(毒があって)、
 鳥などの捕食者からあまり食べられない。
②モデル種は、比較的目立つ形態・色彩をしている。
③擬態種は、本当は味が良い(毒がない)のに、
 まずい(有毒の)モデル種に似ている。
④捕食者は、生まれつきモデル種がまずい(有毒)ことを、
 知らないので、一度はモデル種を攻撃する。
⑤捕食者は、基本的に、両者を見分けることができない。

この中で、①③⑤はよく見かける条件であるが、
②と④も、ベイツ型擬態の必須項目であるはずである。

アメリカのブラウワー博士が、見事に実験的に証明した。

集団越冬でも有名なオオカバマダラを用いた論文を、
学生時代に英文を苦労して読んで、
擬態という(ややもすると)博物学的な分野でも、
その手際のよい科学的な証明方法に、感動したことを覚えている。《注4


オオカバマダラは、幼虫時代の食草がトウワタ(ガガイモ科)で、
それに含まれる毒成分(カルデノライド)を、
成虫になっても体内に蓄積していることを確認し、
そのために、鳥はオオカバマダラ成虫を食べない【条件①】。

オオカバマダラ成虫は、オレンジ色の地に、
黒と白の比較的派手な色彩をしている【条件②】。

オオカバマダラ幼虫を無毒のキャベツで飼育すると、
毒のないオオカバマダラ成虫を作ることができるが、《注5
これを研究室で雛から育てられて、
一度もオオカバマダラを経験していない鳥(ノドジロアオカケス)は、
喜んで食べる【条件③】。

しかし、通常の毒のあるオオカバマダラ成虫を与えて、
まずい味を経験させると、鳥は、
二度とこれを食べることはないので、
生まれつき毒があるチョウを知っているわけではない【条件④】。

こうして、通常のオオカバマダラ成虫を食べなくなった鳥は、
キャベツで育った無毒のカバマダラも、
擬態者であるカバイロイチモンジも食べなくなる【条件⑤】。

ブラウワー博士は、これらの一連の実験の中で、
擬態種はゆっくりした進化の過程で、
類似がまだ完全な状態ではない段階でも、
ある程度の効果を持っていることを示唆した。


また、複数の有毒な種が同じような形態になると、
より効率的に捕食者を学習させることができる。

この場合は、【ミューラー型擬態】と呼び、
以前に日本国内で見られる例を紹介した。

http://kamemusi.no-mania.com/Date/20101114/1/

さらに、メルテンス型擬態、ベッカム型擬態(攻撃擬態)、
アリ擬態、種内擬態などの特別な擬態に細分されるが、
非常に面白い不思議な現象でもあり、
これらについては、別の機会に紹介したい。

 
ベイツ型擬態に関しては、隠蔽的擬態と同様に、
もうひとつ重要な条件がある。

外見が有毒あるいは危険なモデルによく似ることは当然であるが、
擬態者の行動も重要な意味を持っている。

モデルが動く場合には、当然その行動まで似せなければ、
外見がどれだけ似ていても、その効果が薄い。
例えば、ハチに擬態するトラカミキリ成虫は、
細かく触角を振りながら、ハチのような歩き方をするし、
有毒のベニモンアゲハに擬態するシロオビアゲハのメスは、
モデルと同じようにふわふわと飛ぶ。


一方、捕食者の方にも、いくつかの重要な条件がある。

無害な動物が、有害な生物をモデルとしたベイツ型擬態の場合、
捕食者が、モデルを攻撃したときのいやな記憶を、
できるだけ長く保っていることが必要である

もしもスズメバチに刺されたことがある動物が、
次の日には、ハチのことをすっかり忘れてしまえば、
次に(ハチに擬態した)セスジスカシバを見つけたとしても、
全くためらわずに捕食するだろう。

 
2010年9月8日 セスジスカシバ 白岩森林公園

従って、ハチの模様と刺された痛みを、
関連づけて覚えていることが必須条件である。

これは、脳神経系と視覚などの感覚器がある程度発達した、
学習可能な捕食者に限られることを意味する。

そしてもう一つ、考慮しなければならない条件がある。
それは、擬態者とモデルの数のバランスの問題である。

もし、モデルより擬態者の数の方が多ければ、
捕食者は、危険なモデルよりも無害な擬態者に遭遇する頻度が高くなる。
そうなると、擬態者の発する信号は、無意味になり、
逆に捕食されやすくなる可能性さえある。

ただし、どう見ても、例えばセスジスカシバ(擬態者)が、
アシナガバチ(モデル)よりも沢山いるとは、到底思えないが・・・・

 
注4》ブラウワー博士が女性であることを知ったときは、
    さらに感動したような記憶がある。

注5》このブラウワー博士の手法も素晴らしい。
    無毒のオオカバマダラ成虫を実験的に作り出し、
    あの独特のオレンジ色と黒と白の模様が、
    先天的に鳥が嫌うものではないことを見事に証明した。
    
(つづく)   

拍手[50回]

PR

擬態の不思議【1】 用語の混乱

昆虫類が何らかの手段によって、
外敵をだまして身を守るという仕組みについては、
古くから多くの研究者や昆虫マニアの興味の対象となってきた。

特に、自分自身の体の色や形を、他の何かに似せて、
外敵を視覚的にあざむくという例は多く、
一般には「擬態」とか「保護色」とか言われている。

しかし、子供向けの写真集や、インターネット上でも、
これらの用語の使用に関して、昔ほどではないが、
多少の混乱・誤用が見られる。


最初の混乱が、この「擬態」という言葉そのものだと思う。《注1

さりげなく複雑な「擬態」という現象を、詳細に定義するのは、
騙される方(信号受信者)から見るのが一般的である。

とりあえず、体色に関しては、
外敵から、目立たなくさせるような【保護色】と
良く目立つようにする【警戒色】と、
目的によって、明確に区別されている。《注2

しかし、擬態に関しては、不思議なことに、
目的による用語の区別は、一般的ではない。

つまり、日本語で単に【擬態】という場合には、
目立たなくさせるような【隠蔽的擬態 Mimesis】と、
よく目立つようにさせる【標識的擬態 Mimicry】と、
相反するふたつの概念を含んでしまう。


これでは、以前紹介したような、
枯れ葉に見えるアカエグリバも、
まるでハチのようなカノコガも、
英語では、一つの単語で、【Mimesis】と【Mimicry】と、
明確に区別されるにもかかわらず、
日本語では両方とも【擬態】と呼ばれてしまう。

われわれは、まず最初に、
体の色や形で「視覚的に欺くこと」に関して、
目立たないように欺くのか、
目立つように欺くのか、
これらの相反する二つの状況を、
明確に区別して使用しなければならない。

ということで、これで「すべて解決した」と言いたいところだが、
さすが不思議な昆虫の世界である!

そう簡単にはいかないのだ。


もうひとつ、よく見かける混乱がある。

亜熱帯に住むハナカマキリやカレハカマキリのような捕食者は、
周囲の植物(花弁や枯れ葉)に似せることにより、
気付かずに近づいてくる獲物を、
簡単に捕獲することができると言われている。

この場合を攻撃擬態と呼び、隠蔽擬態と対比させることもある。《注3

しかし、これは誤解を招きやすく、間違いであると思う。
【隠蔽的擬態】に対比する用語は、上記に述べたように、
目立たせるような【標識的擬態】であるはずである。

最近ペットショップなどでも販売されるようになった
ピンク色のハナカマキリは、
当然ピンク色のランの花に静止しているときには、
目立つことはない【隠蔽的擬態 Mimesis】そのものなのである。

この状況で、たまたま本物の花を蜜を吸うために訪れた獲物を捕えても、
それは攻撃擬態の範疇には入らない。

攻撃擬態【ベッカム型擬態】とは、海底にいるアンコウが、
自分の鼻先に、虫のようなものをユラユラさせて、
餌と思って近づいてくる小魚を捕える場合など、
積極的に獲物を欺いて近寄らせて、捕獲する場合を言う。

しかし、もし仮に、ハナカマキリが、
緑色の葉っぱや枝に、花びらのように静止していて
蝶や蛾が花の蜜を吸うために、近づいてくるような状況があれば、
それは、攻撃擬態の範疇に入れることができる。

南アフリカにいるハナカマキリの一種(Idolum diabolicum)は、
花に似ているが、彼らは花に止まって身を隠すことはない。

中・後肢のみで、木の枝に止まって、前肢の内側の模様は、
まるで花であり、中心部に向かってネクターガイドさえもある。
そして、実際に蜜を吸うために、
多くの虫(チョウやハエなど)がカマキリの花の近くに、
獲物として集まってくるのだ。

これならば、攻撃的擬態(=ベッカム型擬態)の典型である。

まさに、ハナカマキリによるこの現象が、
擬態に関する用語の混乱を、
如実に物語っているのかもしれない。


注1》多分、よく調べれば分かることであるが、
    日本で一番最初に擬態という言葉を使用した人は、
    英語のMimicryを和訳した可能性が高い。

注2》そうは言っても、どちらともとれる、
    ややこしいのがいることはいるが・・・

    警戒色の典型である赤と黒の縞模様のアカスジカメムシは、
    緑色の葉っぱに止まっていれば、当然よく目立つ。
    しかし、晩秋にセリ科植物の種子上でもよく見かけるが、
    このときには、この縞模様はほとんど目立たない。

注3Wikipediaの「擬態」の項目をみると、以下のように、
    擬態を二分している。

    Wikipedia(2011.01.15)より引用:
   **********************************************************
         擬態は目的によって隠蔽擬態(いんぺいぎたい)、
         攻撃擬態(こうげきぎたい)、の2つに分けられる。
         ただし隠蔽擬態と攻撃擬態については両方を兼ねる生物もおり、
         明確な線引きは難しい。
        **********************************************************

(つづく) 

拍手[48回]


ちょっとだけ、不思議な富士山

日本の風景といえば、やはり富士山だろう。

私は、何を隠そう、
上高地とか、富士山とか、谷川岳一の倉沢、霧ヶ峰のような
普段は人がたくさんいる場所に、
人がいないときに行くのが大好きである。

まあ、車中泊して、夜が明けた直後に、
さりげなく行くだけであるが・・・

 


 
2007年8月12日 西湖から

この写真は、普段はほぼ満車の湖畔の駐車場であるが、
夜明け前に行くと、雰囲気が全く変わっている。

富士山には全く関心を示さない釣り人と、
車中泊した老夫婦がいるだけである。

 

 
 
2010年3月26日 河口湖から

残雪の富士の稜線に、猛吹雪の予感!
ほんの一瞬のシャッターチャンス。

数分後には、撮影場所まで雲の中である。




 

 
2009年9月24日 5合目から

昔、見た同じ場所から見た富士山は、
大沢崩れはこの辺りかという感じだった。
今は、本当に痛々しい。

もう少し経過すると、
富士山の形が変わるかも知れない。


 


2010年11月11日 飛行機から

数年前に、息子がハングライダーから見た
富士山の写真を撮っていて、ちょっと感動した。

今回は旅客機(羽田⇒富山)からだそうだ!

この角度から見る富士山も、不思議で、面白い。

 
 

拍手[48回]


擬態より優れているのか? フタモンクサカゲロウ

このブログで何度か紹介したように、
自分自身の体や模様を葉っぱや枝に似せて、
外敵から身を守っている種類は多い。

そして、彼らは、昆虫カメラマンの刺激的な被写体となり、
さらには昆虫少年たちに過剰な感動を与え、
また、出版社やテレビ局を、なやましく誘惑し続けている。

しかし、これから紹介する子の考え方は、少しばかり違っていた。

苦労して、自分自身の体を微妙に枯れ葉や塵に似せるなら、
最初から本物を体に付着させれば、
それに勝る隠れ蓑はないし、より現実的で良いじゃないか?

 

 
2010年10月5日 だんぶり池

こうして、この子は、
体の表面に刷毛状の剛毛をはやすだけで、
その部分に塵や枯れ葉をひっかけて、
いとも簡単に隠蔽的擬態(?)が完成した。

 

 
2010年10月5日 だんぶり池

塵の下に、少しだけ上半身(?)が見える。

この子の名前は、(多分)フタモンクサカゲロウの4齢幼虫。
もしかしたらカオマダラクサカゲロウの幼虫かもしれないが・・・・

(ちなみに、クサカゲロウの幼虫には、この行動は見られない)

 


 
2010年10月5日 だんぶり池

塵が動くので、かろうじて中に虫がいることが分かる。

こうしていれば、外敵(主としてテントウムシ?)から、
十分身を守ることができるだろう。

背中に背負う塵の種類は、
食べカスや脱皮殻、枯れ葉などで、
好みは種類によって異なるとされている。

 

 
2010年10月5日 だんぶり池

ちょっと失礼して、ひっくり返させてもらった。
容姿は、まさにクサカゲロウの幼虫だ!!

 

 

ちなみに、成虫はこんな形だ。

 

 
2010年8月20日 青森・酸ヶ湯温泉

幼虫と成虫の種類が,
合致していないかもしれないが、
どっちにしても、よく似ている種ので、ご容赦・・・


先輩ミノムシ君は、かなりまじめに蓑を作る。
君の生き方も、なんとなく共感できるが、
良い子はマネしない方が良いかも・・・
 

拍手[49回]


昆虫クイズ【その6】の答え(年賀状も!)


今回は、【年賀状2011】と同じ問題なので、
比較的簡単だったと思います。

以下のように、生物タイトルの一部が、
数字(イチ、ニ、サン、・・・・)になってます。
したがって、正解は、ゴイシシジミです。

 

① オオイチョウ
② シキキンカメムシ
③ ヨナグニサン
④ エゾ

 ゴイシシジミ

⑥ シロク
⑦ バナナの木
⑧ チャムネエメラルドハチドリ
 キュウ







こんな答えでは、降りるに降りられなくなった方へ

 
【1984年4月15日】徳島

 

こんな答えで、思わず笑ってしまった方へ

 
【1984年4月15日】徳島

 

この答えで、妙に納得していただいた方へ
(下の2枚の写真は、親子です)

 
【1979年11月17日】千葉

 
【2010年12月29日】茨城

 
今年もよろしくお願いいたします。
 

sawako

拍手[49回]