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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

虫たちの防御戦略⑮/⑮ 防御行動の進化

この地球上に存在する捕食者と被食者が、
それぞれ生き残っていくために、様々な工夫をしていることは、
数枚の写真を見るだけで、何となく想像できる。

いや、たった1枚だけの写真でも、
生き物たちが、食べるものと、食べられるものに、
分かれてしまう宿命のようなものを感じるし、
その関係の中で、一体どんなことが起こっているのかを、
さりげなく考えさせてくれるのだ。


虫たちは、これまで連続で紹介してきたように、
捕食者に対する様々な防御手段を進化させてきた。

しかし、そのどれをとってみても、個体が行なう防御行動は、
絶対的な効果のあるものではなかった。


これは、捕食者の側からみても、全く当然のことであり、
彼らも生きるために、あるいは子孫を残していくために、
他の生物を、食物源(餌)としなければならない。

だから、被食者の行う様々な防御行動に打ち勝つために、
捕食者も、それそれの対抗手段を、進化させてきたのだ。

 

私が、個人的に非常に興味を持っているのは、
自分の姿かたちを、他のものに似せることによって、
外敵を騙して身を守る「擬態」という戦略である。

小さな虫たちが、何か別のものに似せるというやり方は、
「捕食者に食べられないようにするための手段」としては、
手っ取り早く行える最も簡単な方法なのかもしれない。


でも、この方法にも、その完成度(?)は、
ピンからキリまであり、程度の差があるにもかかわらず、
みんな生き残っているのだ。

その中で、最も興味深いのが、ミラクル擬態である。
捕食者側の視覚による識別能力が、よりシビアになればなるほど、
やり過ぎとも思えるミラクル擬態出現の可能性が出てくる。

ハイイロセダカモクメやアケビコノハの擬態を見ると、
そのような虫たちには、中途半端な妥協を許さない、
視覚に優れた捕食者の存在が、見え隠れするのだ。

 

では、何故、みんながミラクル擬態にならなくても、
生き残ることができたのだろうか?

一見、中途半端に見える擬態者は、これからも、
本当にそのままで良いのだろうか?

 

今回は、虫たちの防御戦略⑮として、蛇足ではあるが、
そんなことを考えてみたいと思う。


目立たなくする隠蔽的擬態【Mimesis】の場合には、
あまり葉っぱや枯れ枝に似てなくても、
基本的には、目立たなくする方に向かっているので、
中途半端(未完成?)なものでも、
捕食の機会を、少しは減らすことができるのだろう。


この場合には、何となく理解できるような気がする。

枯れ葉に見せかけた蛾を例に、その擬態の完成度を比較してみよう。


クロズウスキエダシャク(シャクガ科)

2010年9月8日 白岩森林公園・青森

色彩と模様が、やや枯れ葉を思わせる程度で、
輪郭は、葉っぱというより、蛾である。

 

オビカギガ(カギバガ科)

2012年6月26日 道の駅万葉の里・群馬

もう少し枯れ葉の色彩に近づき、しかも、
翅の両端がとんがって、葉っぱの葉柄を思わせる。

 

クロホシフタオ(ツバメガ科)

2010年9月8日 白岩森林公園・青森

翅に深い切れ込みが入って、より枯れ葉に似てくる。

 

マエグロツヅリガ(メイガ科)

2012年7月21日 白岩森林公園・青森

さらに、翅が内側に巻き込み、頭部が葉柄にみえる。
ここまでくると、どう見ても枯れ葉である。

ミラクル擬態と呼んでよいレベルであると思う。

 

アカエグリバ(ヤガ科)

2007年10月5日 徳島市・徳島

これは、どうみても枯れ葉である。

多分、本物の落ち葉の中にいれば、
誰も見つけ出すことはできないだろう。

 

このように、枯れ葉に擬態する虫たちにも
様々な程度のものが混在している。


そして、あまり完成度が高くない場合でも、
全く問題なく生き残っているのだろう。

 

 

しかし、目立たせる標識的擬態【Mimicry】の場合には、
あまりモデルに似ていないと、中途半端に目立つようになって、
捕食者に発見されやすくなり、その目立つだけの姿かたちは、
むしろ逆効果になってしまう可能性がある。

 

今度は、ハチに似せた蛾を例に、その擬態の完成度を比較してみよう。


トンボエダシャク(シャクガ科)

2010年8月1日 だんぶり池・青森

ごく初期の段階のハチ擬態である。
まあ、このようなハチもいることはいるが・・・

 

コスカシバ(スカシバガ科)

2010年7月27日 だんぶり池・青森

翅が透明になり、胴体の感じも、ハチに近づいた。

 

ホシホウジャク(スズメガ科)

2010年11月10日 新木場公園・東京

飛んでいる格好は、ハチであるが、
静止状態では、蛾である。

 

クロスキバホウジャク(スズメガ科)

2011年7月3日 白岩森林公園・青森

こちらは、止まっていてもハチを思わせる。

より、ハチの姿に似てきている。

 

セスジスカシバ(スカシバガ科)

2011年9月8日 白岩森林公園・青森

これで、ハチ擬態の完成だ。

初めて見た人は、これが蛾であるとは思わないだろう。

 

何故、このような良く目立つ標識的擬態者の場合にも、
ほぼ完全なハチ擬態者がいる一方で、
不完全に目立つ擬態者が、生き残っているのだろうか?


考えられる一つの理由は、捕食者にとってみれば、
人間が毒キノコを、見分けるのと同じように(?)、
それを食べるか食べないかは、命がけの選択なので、
ちょっとでも怪しいと思えば、手を出さないのかもしれない。

多分、Ⅲ(2).で少し考えたように、カトカラ類が飛び立つ直前に、
突然見せる後翅の模様が、赤系統の目立つ色以外にも、
青や白、黒色まで、様々なタイプがあり、みんなそれぞれが、
立派に生き残っていることと関係するのかもしれないのだが・・・・


もう一つの理由として、最もありがちな回答であるが、
擬態者の数と、モデルの数のバランスなのかもしれない。

モデル種の数の方が圧倒的に多い場合には、
過去のモデル種での嫌な経験を覚えていて、
擬態者があまり似ていなくても(不完全でも?)、
捕食者は擬態者を避ける傾向が強まるだろう。

だから、一般的なハチの仲間に似せているエダシャクやホウジャク類は、
モデル種の数の方が、擬態者の数より(多分)かなり多いので、
あまり似ていなくても良かったのかもしれない。

一方で、特定のハチの種がモデルになっているセスジスカシバの場合には、
どうしても、数のバランスが微妙である。

セスジスカシバ(擬態者)とキイロスズメバチ(モデル)を比較した場合、
実際に野外で見かける個体数は、どちらが多いのだろうか?

そんなことはありえないだろうが、
もし、モデルの数より擬態者の数の方が多ければ、
捕食者は、危険なモデルよりも、無害な擬態者に遭遇する頻度が高くなって、
擬態者の発する信号は、あまり意味がなくなり、
逆に捕食されやすくなる可能性さえあるのだ。

⇒隠蔽的擬態のように、枯れ葉がモデルの場合には、
 どう考えたって、枯れ葉の方が多いに決まっている。
 だから、枯れ葉にあまり似てなくても、大丈夫なのかもしれない。

 

全ての擬態者が、ミラクル擬態を目指す必要がない、
3番目に考えられる理由がある。

姿かたちが有毒あるいは危険なモデルによく似ること以外にも、
擬態者の行動(動き方)が、重要な意味を持っているのだ。

例えば、ハチに擬態するトラカミキリ成虫は、
細かく触角を振りながら、ハチのような歩き方をするし、
有毒のベニモンアゲハに擬態するシロオビアゲハのメスは、
モデルと同じようにふわふわと飛ぶ。

この動き方まで似せることは、特に遠くから獲物を見つける捕食者には、
有効な手段であり、姿かたちの類似性が不十分であることを、
かなりカバーすることができるのだ。

逆に言うと、モデルが動く場合には、当然その行動まで似せなければ、
形状がどれだけ似ていても、その効果が薄くなってしまうことも意味している。

 

もちろん、この3つの理由以外に、重要なことががあるのかもしれない。

もっと言えば、完成度の違う擬態者がいることは、別に何の意味もなし、
不思議でもなんでもないのかもしれない・・・・・

 


最後に、ちょっとだけ遠目に撮った3枚の写真を、ご覧ください。

このような写真は、普段あまり目にすることはないと思うが、
実際に獲物を探す野鳥類が見ると思われる景色(?)を想定したものである。

⇒いつもより大きい画像です。
 写真をクリックして、ミラクル擬態を実感してください。

 


マエグロツヅリガ(メイガ科)

2012年7月21日 白岩森林公園・青森

ちょっとした風でも、今にも落ちてしまいそうな枯れ葉。
(蛾に見えるが、やっぱり枯れ葉だろうな・・・)

 

セスジスカシバ(スカシバガ科)

2011年9月8日 白岩森林公園・青森

遠くに、怖い怖いスズメバチ。
(危ないから近づくのはよそう・・)


ヒトツメカギバ(カギバガ科)

2012年9月13日 芝谷地湿原・秋田

落下してきた直後の鳥の糞。
(あんなもの食べ物ものではないよ・・・)

 

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虫たちの防御戦略⑭/⑮ 物理的防御手段

カマキリの前肢、コロギスやスズメパチの大顎など、
自分の獲物を捕らえる攻撃的な手段となるものが、
外敵に対する防御手段にもなる可能性は高い。

 

一例だけ写真を示そう。



2011年10月18日 東海村・茨城

花にいたキイロスズメバチの写真を撮っていたら、
急に自分に向って飛んで来た瞬間!!

秋になると、スズメバチの仲間が人を襲うというニュースが流れる。
もちろん、彼らの外敵(人間)に対する防御行動である。

スズメバチの強靭な大あごは、かなり怖い。
何か、肉をそぎ取られてしまうような恐怖もある。

 


しかし、獲物を襲うことのない虫たちも、
物理的な防御手段を、独自に発達させている。

最も分かりやすいのが、全身に毛やトゲを持つ虫たちだ。

多くはチョウ目の幼虫で、中には、
こんなやり過ぎとも思えるトゲトゲを持っているものもいる。

 



2011年8月16日 乗鞍高原・長野

多分アカヒゲドクガ幼虫。

なんか、形状の異なる数種の毛が、体中に生えている。
見た目だけで、関わり合いになりたくないイメージである。

良く見ると、両サイドの短い毛は、アリの攻撃を防げそうである。
上に伸びる長い毛は、ムシヒキアブやサシガメの攻撃を、
邪魔することが出来そうである。
 
ただ、鳥に対する防御効果は、全くなさそうだが・・・・

 



2012年9月26日 ひたちなか市・茨城

リンゴドクガ幼虫。

これだけ見事に毛があると、思わず笑ってしまいそうになる。

多分アリ対策用の毛だろうが、寄生蜂にも効果がありそうだ。

 

 


2012年8月3日 白布温泉・山形

あまり良い写真ではないが、サカハチチョウの幼虫。

こちらは、物理的防御法というより、
視覚的防御法(?!)なのかもしれないが・・・・

 



2011年1月15日 渡良瀬遊水地・埼玉

これは、越冬中のトホシテントウ幼虫。

明らかに「やりすぎ感満載」のトゲトゲがある。

テントウムシの場合は、有毒成分も体内に持っているので、
野鳥類は、食べないようであるが・・・・

 



2012年4月10日 透過村・茨城

樹皮の下にいたウスアカフサヤスデ。

トホシテントウと比べるのもかわいそうだが、
この子は、ちょっとインパクトが少ない。

こんな毛でも、アリのような小さな捕食者には、
おそらく、十分有効なのだろう。

 

いずれにしても、このような毛束やトゲトゲは、
野鳥類やトカゲ・カエルなどの大型の捕食者に対しては、
見た目ほど効果的ではないのかもしれないが・・・・

 


次は、物理的防御法として、最もふさわしい(?)タイプである。



2012年8月22日 十石峠・長野

ホシナカグロモクメシャチホコ幼虫。

シッポに痛そうな棘がある2本のムチをもっていて、
アリなどの攻撃を受けると、それをふりまわして追い払う。

人が近づいても、結構な勢いで威嚇するので、
大型捕食者も、攻撃をためらうかもしれない。

 



2011年7月25日 酸ケ湯温泉・青森

こちらはモクメシャチホコ幼虫。

この子も、同じようなイメージであるが、
もしかしたら、Ⅲ(4).で取り上げたような、
体の前後を逆に見せかける効果もあるかもしれない。

 


また、写真はないのだが、学生時代、実験材料として、
マツノキハバチ幼虫の採集のお手伝いをしたことがあるが、
人が近づくと、幼虫が体を急激にU字型にそらせたり、
ブルブル震わせたりして、威嚇してくる。

実際に、鳥をおどかしたり、寄生者をふりおとしたりするらしい。


また、ある種のカツオブシムシの幼虫は、
腹部に顕著な毛のフサを持っていて、外敵におそわれたときに、
それを相手の体に付着させて動けなくする。

これはとくに小さなアリなどの外敵に対しては、
効果的な防御手段となるようだ。

 

最後に、有名な物理的防御法を紹介しよう。

ニホンミツバチが、オオスズメバチに対して行う蜂球だ。

オオスズメバチはミツバチの巣を襲い、成虫を殺した後で、
幼虫や蛹を自らの巣に運び仔の餌として利用する。

ニホンミツバチは、このようなオオスズメバチの襲撃に対して、
集団でボールのような感じで取り囲み、翅を震わせて熱を発生させ、
中にいるオオスズメバチを蒸し殺すという、
非常にユニークな戦略を進化させてきたのだ。

ちなみに、日本でも良く見かけるセイヨウミツバチは、
そのような行動はとらず、むやみに挑みかかり、
皆殺しの憂き目に会うことが多い。

ヨーロッパには、ミツバチを襲う大型のスズメバチがいないので、
そんな行動は進化してくるはずもないのだ。

 

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虫たちの防御戦略⑬ Ⅲ(5). 化学的防御手段

意外なほど多くの虫たち(成虫も幼虫も!)が、
生理活性のある化学物質を作る腺を持っており、
主として外敵に襲われたときに放出するので、
それらは防御物質と呼ばれている。

ただし、防御物質(化学的な武器)とは言っても、
実際の防御効果は、外敵の種類によって全く異なる。

一般的に、大型の捕食者に対しては、
その効力はやや控えめであり、
相手を少なくとも瞬間的に驚かせ、
攻撃をちょっと躊躇させるだけであることが多い。

ただ、アリなどの小型の捕食者に対しては、
かなり強力な防衛手段になっているようだ。

 

虫たちの放出する防御物質の種類も様々であり、
その化学成分は、半世紀も前から、分析機器の発達に伴って、
続々と解明されてきている。

カメムシの匂いは、みんな同じではなく、
種類によって微妙に違うことが、慣れると(慣れない!!)分かる。


折角の機会なので、退屈かもしれないが、
カメムシの匂い成分について、簡単に触れておきたい。

カメムシが体外に放出する匂い成分は、
その種類によって少しずつ異なっているが、
主成分は、炭素数6~10の直鎖のアルデヒトである。

カメムシの匂い成分が化学的に研究されはじめたのは、
今から50年以上前からだが、アメリカの稲のカメムシから、
炭素数10の(E)-2-Decenalというアルデヒドが、
分離同定されたのが最初である。

その後日本でも、カメムシ科のミナミアオカメムシ、ウズラカメムシ、
スコットカメムシ、アオクサカメムシ、クロカメムシにおいて、
同じ物質の存在が確認されている。

また、日本産のヘリカメムシ科のホウズキカメムシ、
ツマキヘリカメムシ、キバラヘリカメムシなどからは、
炭素数6の2重結合を持たないHexanalが検出されている。

しかし、実際にカメムシが放出する分泌液には、
上記のようなアルデヒド類が数種類と、その他に、
溶媒のような役割を持つ炭化水素が含まれている。

たとえば、ミナミアオカメムシでは、18種、
ホシカメムシの一種では、8種の化合物が分離同定されている。

また、カメムシ科では、(E)-2-Hexenal(E)-2-Octenal、(E)-2-Decenalなどの
二重結合をひとつもったアルデヒドが多く、
ヘリカメムシ科では、Hexanal、Hexanolなどの
二重結合を持たない化合物が主になっているようだ。

多くの種類に共通して含まれているのは、(E)-2-Hexenalで、
カメムシ科、ホシカメムシ科、ツチカメムシ科、
ヘリカメムシ科から見つかっている。

ちなみに、この化合物は、キュウリなどの青臭い匂いの主成分のひとつで、
別名を青葉アルデヒドと言うが、香水の原料として使用されることがある。
そのためか、カメムシの匂いも、薄まれば香水になると、
ある本に書かれていた。


カメムシ以外の虫たちの放出する防御物質の成分については、
今回は全く触れないが、基本的に多くの種類で明らかにされている。


ここでは、様々な放出方法や生物活性について、簡単に紹介したい。


第1のタイプは、体内にある袋状の腺を、外側に反転させて、
臭気成分を揮発させるものである。

アゲハ類の幼虫は、頭部の背面にある臭角とよばれる袋状の腺を、
外側に反転させてオレンジ色のツノのように突出し、臭気成分を放出する。

人が指などで掴むと、それにツノが触れるようになるまで、体をそらせる。

同じ方法で、ある種のハネカクシ類は、腹部末端ののサック状の腺を反転させ、
外敵に押しつけようとする。

 

第2のタイプは、ハムシやジョウカイの幼虫などが行うもので、
体の側面に一列になった放出孔より、分泌物をこじみ出させる。

また、その小滴を自らの体表になすりつけたり、場合によっては、
外敵に直接つけたりする種も知られている。

 

第3のタイプは、オサムシ、ゴミムシ、カメムシ、ゴキブリなど、
多くの無脊椎動物が行なう放出法で、液体状の分泌物をスプレイする。

この場合でも、外敵の目をねらって50cmも飛ばす種や、
自らの体表につける種が知られている。

また、ミイデラゴミムシは、放出の直前に2種の物質を化学反応させ、
高温のガスを発射することができる(注)

 

第4のタイプとして、有毒物質を、相手の体内に注入する虫たちもいる。

たとえば、ミツバチの毒針による執拗な刺針行動は、
哺乳類を中心とする多くの天敵に対して有効だし、
また彼等が植物樹脂を集めたハチヤニ(プロポリス)には、
各種の微生物に対する抗菌性も認めらている。

我々も、ハチに刺されたことがあるが、単に針で刺された痛みではない。
イラガやドクガの幼虫に触れたときも、同じような痛みがある。

ようやく、写真が使える!!!



2008年7月13日 徳島市・徳島

多分ヒロヘリアオイラガの幼虫。

こんなのが、自宅の庭にいると、結構恐ろしい。

ヒスタミンや種々の酵素を成分とした毒であると言われるが、
ちょっと触っただけで、かなり広い範囲に発疹が出来るほどである。

 



2011年10月9日 蔦温泉・青森

これは、多分アカイラガの幼虫。

いかにも痛そうな太いトゲには、
さらに小さなトゲ(正式には2次刺という)がある。

保護色のような緑色も、この背景では良く目立つ。
もしかしたら、分かってやってるのか?

 



2010年9月2日 だんぶり池・青森

こちらは、多分ムラサキイラガの幼虫。

上の2種のイラガ幼虫と、基本的な体型(楕円形?)は一緒であるが、
刺毛の形がそれぞれ違うので、ちょっとだけ面白い。

 


第5のタイプとして、嫌な臭いや味のする液を、
口から吐き戻すタイプもいる。

バッタを捕まえると、口から茶色の液を出すのもそうだろう。



2012年5月25日 東海村・茨城

ホタルガ幼虫は、写真では毒毛がありそうだが、
実際には、口から吐き戻す液が有毒のようである。

おそらく、野鳥類は、食べないだろう。


ここで、ひとつだけ、あまり注目されていなかったが、
かなり重要な問題点があるのだ。

Ⅱ(4).で述べた警戒色との関係である。

通常は、武器を持つ種や、体内に不味成分を持つ虫たちは、
警戒色であることが多く、一度ひどい目にあった捕食者は、
警戒色と結び付けて学習し、2度とその虫を攻撃しない。

しかし、防御物質の効力は、捕食者の種類によって、
全く異なっているので、話はややこしい。

防御物質を放出する虫たちを、ある捕食者は避けるが、
別の捕食者は、全く気にしないで攻撃する。
だから、防御物質を放出する虫たちは、
一律に警戒色にはならないのだ。

その防御物質を全く気にしない捕食者にとってみれば、
警戒色は、逆に、探しやすいターゲットになってしまうからだ。

これが、不味成分を体内に持っている虫たちとの大きな違いである。

話がややこしくなってきたので、
カメムシの例が、分かりやすいだろう。

まず、重要なのは、カメムシの匂いの実際の防御効果は、
アリに対してのみ有効であることが、色々な実験で確かめられている。
その他の捕食者は、全く平気でカメムシを食ってしまうのだ。

だから、鳥などの学習できる捕食者に対して、
ちょっとだけビックリさせる効果しかない防御物質を持つカメムシが、
目立つ色の警戒色をしているはずがないのである。


しかし、警戒色のカメムシ類は、結構沢山の種類がいる。
ナガメやアカスジカメムシのように、その多くは、匂いを出さない。

ただし、ほとんどが、体内に不味成分を待っているので、
警戒色のカメムシは、野鳥類から攻撃されることはないのだ。

手元の昆虫図鑑を調べてみると、カメムシ類の70%以上が保護色であり、
そのほとんどが、強烈な匂いを放出する。

また、警戒色のカメムシは、30%以下であり、
そのほとんどが弱い匂いを放出するか、あるいは全く放出しない。


では、何故カメムシは、あまり効果のない防御物質を放出するのだろうか?

実は、カメムシの強烈な匂いは、近くにいる仲間たちに、
危険が迫っていることを知らせる警報フェロモンとして、作用しているのだ。

カメムシの臭気成分の役割に関しては、以下の元記事をご覧ください。
↓  ↓  ↓

20101107 カメムシの匂いの不思議【01】実際の防御効果は?
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/28/

20101108 カメムシの匂いの不思議【02】アリに対する防御効果
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/29/

20101109 カメムシの匂いの不思議【03】びっくり効果
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/30/

20101110 カメムシの匂いの不思議【04】警戒色と不味成分
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/31/

20101111 カメムシの匂いの不思議【05】警報フェロモン
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/32/

 


(注)ミイデラゴミムシの噴射装置が、突然変異と自然淘汰で、
   進化してきたとは、とても説明できないという議論があった。

   なぜなら、
   ・化学反応用の高温にも耐える体内の器官
   ・化学反応する基質(ハイドロキノンと過酸化水素)
   ・基質が反応しないようにしておくための貯蔵器官
   ・反応させるための酵素
   ・噴射の調節装置
   の全てが、同時に生じなければならないからだ。

   しかし、誤解のないように記しておくが、この問題は、
   「同時に生じる必要などない」ということで、
   多くの人たちが回答し、すでに解決済みである。

 

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虫たちの防御戦略⑫ Ⅲ(4). 目玉模様(小)、自切など

捕食者の攻撃を、うまくはぐらかす虫たちもいる。

今回は、3つのタイプを紹介したい。

 

最初は、おなじみの目玉模様である。

比較的大きな目玉模様の機能については、Ⅲ(2)で紹介したように、
捕食者を驚かせ、その攻撃を躊躇させる効果が認められている。

一方で、比較的小さな目玉模様には、
むしろ全然逆の、別な意味あるのだ。


多くのチョウには、写真のように、翅の端に、
数個の小さな目玉模様を持っている。



2010年8月10日 東海村・茨城

ヒカゲチョウの目玉模様は、この大きさでは、
おそらく、小鳥を驚かすことはないだろう。

小さな目玉模様は、逆に、小鳥がついばむ行動を、
そこに向けさせる役割を持つと考えられている。

狩りをする捕食者には、多くの場合、
獲物の急所である目玉を攻撃する習性があるからだ。

 


2012年9月27日 東海村・茨城

後翅の半分近くが破れてなくなったヒカゲチョウ。
おそらく、鳥のくちばしで突かれて出来た破れ跡である。

この部分には、小さな目玉模様があったはずだ。

それらの破損は、左右対称に認められることが多く、
ビーク・マーク(beak mark)と呼ばれている。

これが、野鳥類が目玉模様に向かって、
攻撃(ついばむ)する証拠とされている。

 


2012年8月28日 小泉潟公園・秋田

こちらも、典型的なV字型のビークマークを付けたクロヒカゲ。

2枚の翅の同一場所が、きれいに破れているので、
おそらく、翅を閉じて静止しているところを、
少し大きめの鳥が、そこにあった目玉模様を狙って、攻撃したのだろう。

あるいは、飛んでいるときに、攻撃されたものかもしれないが、
チョウの飛び方は、翅を大きくはばたき、胴体の上下で翅が合わさるので、
その瞬間を狙われたのかもしれない。

そして、このような状態になって、生存しているということは、
翅の端っこにある(胴体から離れた場所!)目玉模様が、
鳥の攻撃をその部分に誘導し、見事に攻撃から逃れた結果である。

このようなビークマークを付けたチョウは、比較的簡単に捕獲できるため、
その出現頻度をもとに、野鳥類のチョウに対する捕食圧を推定しようとする試みが、
若い研究者によって行われているようだ。

 

 

2番目の特殊な方法も、なかなか面白い戦略であると思う。


下の写真のように、シジミチョウの仲間は、
後翅に尾状突起を持っていることが多いが、
一体どんな意味があるのだろうか?

 


2012年7月3日 小泉潟公園・秋田

まず、先端が白くなった2本の尾状突起が、
まるで触角のように見える。(写真はウラナミアカシジミ)

その付け根にある黒い点は目のように見え、
さらに、翅の裏面にある波状のしま模様が、
その目のような点に集まっている。

 


2012年7月3日 小泉潟公園・秋田

近づくと、後ろの2本の突起を、ゆっくり交互に動かす。
これは、まさに触角の動き方だ!!

鳥のような捕食者は、おそらく、
写真の右手の方向に飛び立つと予測するだろう。

あるいは、頭を一撃で狙う捕食者は、おそらく、
頭部のような黒い点を攻撃するだろう。

もちろん、攻撃されたその部分は、
生存に直接損傷を与えるような急所ではない。

このちょっとした工夫が、結構役に立っていると考えられる。

 


アカシジミ(シジミチョウ科)

2011年7月21日 大沼・北海道

尾状突起を持つシジミチョウの仲間の多くは、
翅の裏面の模様が、尻尾の方へ向かうようになっており、
反対側が頭部のように見えるのだ(写真はアカシジミ)。

 


2010年8月1日 だんぶり池・青森

逆に言うと、尾状突起を持たないシジミチョウには、
そこへ向かうような「しま模様」がないことが多い!!
(写真はゴイシシジミ)

 

同様に、写真はないが、ビワハゴロモの仲間にも、
後端に触角状の突起や目玉模様を持っている種がおり、
着陸する瞬間に、向きを変えて飛翔方向に尾端を向けたり、
垂直の面にとまって頭を下に向けて、
尾状突起を触角のように動かしたりする。

これらは、鳥などの捕食者が予想するのとは、
全く逆の方向に飛びたつことに、意味があるわけであるが、
実際の効果については不明である。

ただ、ずいぶん昔の話であるが、学生時代に読んだ本の中で、
捕食者は、獲物の頭の部分を狙って最初の攻撃を仕掛けるが、
間違えて尻尾の方を最初に攻撃してしまう頻度が数値化されていた。

 

 

3番目の特殊な方法も、興味深いものだ。

人間世界での例え話にも出てくる「トカゲのしっぽ切り」である。
このかなり奇妙な行動が、虫たちにも見られ、自切(じせつ)と呼ばれる。


最も有名なのは、バッタの自切行動である。

ただ、子供のころから、バッタを捕まえて、脚の部分を持つと、
その脚だけを残して逃げてしまうことがあって、
ちょっと気持ち悪いし、あまり後味の良くない印象が残っているのだが・・・

 

写真2579
2010年9月10日 白岩森林公園・青森

多分自切によって、右後脚がなくなったミカドフキバッタ。

実際に、野外でバッタの写真を撮るようになって、
予想以上に、片足のない個体に出会うことが多いことに気付いた。

この行動は、そんなに逃避効果があるのだろうか?

 

このように、自切は、捕食者に襲われた際に、自分の体の一部を犠牲にして、
捕食を回避する行動であるので、自切後の状況も重要である。

つまり、その組織(脚)は再生するのか?
自切後の運動能力は、どの程度ダメージを受けるのか?
交尾行動に影響を与えるのか?
などが、重要なファクターになってくるはずである。

最近では、地元弘前大学の若い研究者によって、
その方面の研究も精力的に行われているので、
機会があれば、このブログでも紹介したい。

 

下の元記事をご覧ください。
↓   ↓   ↓
20120811 どっちが前なの? ウラナミアカシジミ
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/270/


 

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虫たちの防御戦略⑪ Ⅲ(3). 擬死

より鮮明に撮ろうとして、カメラをそっと近付けると、
ポロッと下に落ちてしまう悔しい虫たちがいる。


しかも、

多くの場合、

落下した後、

しばらくの間は、

死んだように、

動かない!!



この行動は、予想以上に防御効果があるようだ。


2012年6月19日 白岩森林公園・青森

ズーム機能のないカメラで、これだけ近づけば、
ゾウムシの仲間は、何らかの手段で、その気配を察知して、
ほぼ100%落下してしまう。(写真はヒメシロコブゾウムシ)

 


2012年6月19日 白岩森林公園・青森

普通は、草むらの中に落下するので、おそらく、
2度と探すことはできない。

今回は運良く(?!)、草のない地面に落下した。
当然、しばらくの間は、全く動かない!!!

このように、全ての脚を突っ張って、
まるで死んでるようにみえる状態を、擬死と呼ぶ。

この状態では、たとえ見つかってしまっても、
一気に飲み込むタイプの捕食者は、
ちょっと苦手かも知れない。

 

 


2012年6月15日 だんぶり池・青森

このように葉っぱの上にいるコガネ類も、
ちょっとした振動で、地面に落下してしまう。
(写真は多分チャイロコガネ)

 


2012年6月15日 だんぶり池・青森

もちろん、風邪で葉っぱが揺れても、落下することはない。
恐らく、微妙な振動の違いを察知するのだろう。

当然、一度地面に落ちてしまった彼らを、
再び探し出すのはかなり困難である。

枯れ葉の間に落ちて、しかも、しばらく動かないからだ。

 


おそらく、狩りをする捕食者は、動くエサに反応する。
というか、視覚で獲物を探す捕食者の多くは、
生きているものでも、動かないものを攻撃することはない。

カマキリやカエルが獲物を捕獲する瞬間を、
何度も間近で見たことがあるが、
彼らがアタックするのは、射程距離内にいる獲物が、
多分、緊張感に耐えられなくなって、
ほんのちょっと動いた瞬間である。

だから、実際には、狩りをする捕食者は、
本当に死んだものを食べることはないのだろう。

死体を食べると、病気感染などのリスクがあるからなのか?

 

 

もう一例、面白い例がある!!


コメツキの仲間は、落下して、擬死するときに、
ちょっとだけ不思議な行動を追加している。

 

こんな感じ・・・・?

 


2012年6月7日 芝谷地湿原・秋田

葉っぱの上を、悠然と歩いて、いつでも落下できるぞ! 
という雰囲気が見え見えである。
(写真はムナビロサビキコリ)

 


2012年6月7日 芝谷地湿原・秋田

軽く刺激すると、予想通り見事に、石の上に落下した。

このように、硬い場所に仰向けに落下した場合には、
良く知られているように、関節をうまく利用して、
ピコ~ンと言う感じで、数10cmも、飛び上がるのだ。

もちろん、こんなことが出来れば、一瞬で、
捕食者の視界から消えることができる。

 

 

さらに、このような擬死行動の適応的意義に関しては、
最近の研究結果によって、新たに別の可能性も示唆されている。

上で見てきたような、体を硬直させる擬死行動は、
捕食者に襲われてからも、別の効力を発揮するのだ。


トゲヒシバッタという体にトゲのあるバッタがいる。

特に捕食者が、カエルのような、飲み込み型である場合、
体の左右に頑丈なトゲを持つこのバッタは、
さらに足を突っ張って、体を硬直させるで不動化することで、
物理的に飲み込まれにくくしていることが分かった。

さらに面白いことに、トゲヒシバッタは、潜在的な捕食者のうち、
一気に飲み込むような捕獲行動をするカエルに対してだけ、
脚を突っ張る擬死行動を行い、ついばむように捕食する野鳥類には、
行わないことも、詳細な観察によって確認された。


また、これも最近の研究で、貯穀害虫のコクヌストモドキの場合には、
ある個体が擬死することで、その個体の近くで動いている他個体に、
捕食者の注意が振り向けられることになり、その結果、
動かないでじっとしている個体が、捕食者から攻撃さないことも分かったのだ。


同じようにみえる擬死行動でも、これだけ多くの機能が追加されている。

さすが、ちょっとだけ不思議な虫たち!!!







 

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