忍者ブログ

ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

虫たちの防御戦略③ Ⅱ(2) 保護色と分断色

自分の体の色や模様を、背景に似せて、
目立たないようにする虫たちがいる。

Ⅱ(1)のように、何かの下に隠れているのではなく、
捕食者から見えてしまう場所にいるときでも、
できるだけ見つかりにくいような色や模様の虫たちである。

しかも、多くは効果的な静止姿勢をとって、背景に溶け込む。



2003年4月5日 与那国島・沖縄

実はこの写真、ナナフシを狙って撮ったものである。
そのすぐ下に、バッタがいたとは、気が付かなかったほど、
背景に溶け込んでいたのである。



2012年8月7日 小泉潟公園・秋田

樹木の幹の色と模様まで似せているニイニイゼミは、
これでは、普通見つからない。

外国からの観光客が、日本では木が鳴いていると驚くほど(!?)に、
セミの姿を発見することは、基本的に難しいのだ。


しかし、緑色のバッタが、枯れた葉の上にいれば、
逆に良く目立ってしまうし、ニイニイゼミが、
緑色の葉っぱの上にいれば、簡単に見つかってしまうだろう。



2012年10月7日 矢立峠・秋田

これはシロシタバという蛾である。

前翅の表面は、ここまで似せなくてもと思うほど、
少し苔の生えた樹皮そっくりである。



2011年9月29日 白岩森林公園・青森

これは、キシタミドリヤガという蛾である。

前翅の表面は、ここまで似せなくてもと思うほど、
苔の生えた樹皮そっくりである。

でも、残念がら、この2匹は、静止する場所を間違えたため、
私に写真を撮られてしまったのである。

 

当然のことであるが、虫たちの体色が、目立つのか、
目立たないのかは、彼らが静止する背景によるのだ。



2011年10月20日 東海村・茨城

真ん中に写っているのは、かなり目立つ色の
アカスジキンカメムシの幼虫である。

普通に受けるイメージでは、オレンジ色と黒色の組み合わせでは、
後述するように、どう見ても良く目立つ警戒色である。

しかし、ヒノキの球果から吸汁しているときは、
何故か保護色のようなイメージである。

もちろん、最初に写真を撮ったときは、全く気が付かなかった。

 


保護色と言われる虫の色彩の中に、もう一つのジャンルとして、
分断色と呼ばれる模様がある。

一般的な保護色(隠蔽色)の虫たちは、体全体が、
ほぼ一様に背景とよく似た色彩をしていることが多いので、
大きな葉っぱや樹皮などの均一な環境では、十分に隠蔽効果を発揮する。

しかし、虫たちのいる環境は、そんなに一様なものではない。

木漏れ日が当たるような場所では、眩しい光と影が共存したり、
草、枯葉、枯れ枝、石ころなどが、バラバラに存在する場所も少なくない。

このような環境の明暗や、色彩の異質性が高い場合には、
全身が緑色や茶色の保護色の虫たちは、
逆に、その輪郭が目立ってしまう可能性があるのだ。

そんな場合には、分断色と言われる色彩パターン(注)が効果的である。



2011年10月18日 東海村・茨城

このように、雑草の光と影が交錯するような場所には、
ショウリョウバッタが、完全に背景に溶け込んでいる。



2011年6月29日 白岩森林公園・青森

写真の中央部には、シロスジオオエダシャクという蛾が
数本の木の枝を巻き込むように静止している。



2010年8月23日 だんぶり池・青森

大きな杉の木の根元近くには、チャマダラエダシャクという蛾が、
見事に張り付いている。


まさに、上の3枚の写真が、分断色の効果なのである。

 


では、一体、このような保護色や分断色は、
どのくらいの防御効果があるのだろうか?

保護色に関しては、実際の防御効果を知るために、
昔から、様々な実験が行なわれている。

しかし、どのような実験を行っても、
決して100%の効果が認められることはなく、
ほんの少しだけ、生存率が上がるかなというレベルでしかなかった。


もちろん、保護色の有効性が、ほんの少ししかないのであれば、
虫たちが、自分の体色を知っていて、自らの体色に有利な背景の色を、
本当にに選んでいるのかどうかについては、もっと微妙である。

古典的な例では、工業黒化で有名なオオシモフリエダシャクの実験がある。

通常の白っぽい個体と、ススで汚れたような黒っぽい個体を、
それぞれ、白い色紙と黒い色紙の上に放すと、細かいデータは覚えていないが、
かなり微妙な差で、自分の体色に合った背景を選んでいるという実験結果があった。

しかし、虫たちの背景選択に関する実験結果は、
色々な条件が複雑に絡み合っている可能性もあり、
予想される(?)結果にならないことが多いのだ。

例えば、茶色と緑色のバッタが、それぞれ自分の体色に応じて、
生きている草か、枯れた草を選ぶかを実験的に確かめるような場合、
どんな刺激を根拠にするのかを、確認することから始めなけれなならない。

つまり、色を見るという視覚刺激以外の条件、例えば、緑葉の匂い、
周辺の温度や湿度、足ざわり感触、草が立っているか寝ているかなどの他に、
試験するバッタの空腹度なんかも、考慮しなければならないのだ。

このように、研究者がかなり苦労して、ある行動の防御効果を測定し、
それが僅か数%生き残る確率が増えただけという結果が得られたとしても、
その形質は、進化していくだろう。

 

(注)軍隊の特殊部隊などが採用している迷彩服というのがある。
   緑色や茶色の単色ではなく、それらを微妙に配置した模様の軍服で、
   もしかしたら、草木やブッシュなどにいるときに、目立たないことを、
   実験的に確かめているのかもしれない。
   
   

虫たちの保護色については、以下の元記事をご覧ください。
↓  ↓  ↓
20120907 分断色! バッタ
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120907/1/

20120830 これが保護色だ!! ニイニイゼミ
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120830/1/

 

拍手[20回]

PR

虫たちの防御戦略② Ⅱ(1) 隠れている

多くの虫たちは、少なくとも、昼間の明るいうちは、
獲物を探し回る捕食者に見つからないように、
何かの下に隠れているという方法をとる。

捕食者に攻撃を受けないための、最もシンプルな選択だろう。

全く当たり前の話であるが、虫の写真を撮ろうとして、
林道を歩いていても、落ち葉や石の下に隠れている虫たちを、
決して見つけることはできない。

ときどき、林道わきにある石ころをひっくり返してみると、ようやく、
じっとしているゴミムシやハサミムシなどを見つけることが出来る。

また、樹皮の割れ目をそっと剥いでみると、
その中に、ヒラタカメムシやクチキムシの仲間がいるし、
柔らかい朽木を崩してみれば、ゴミムシやハネカクシなどの甲虫類が見つかる。

写真は撮りにくいが、例えば、こんな感じである。



2011年1月15日 渡良瀬遊水地・埼玉

柔らかくなった朽木のを崩してみると、中には、
トホシテントウ幼虫とヨツボシオオキスイが、仲良く(?)隠れている。



2012年5月30日 南会津・福島

これは、隠れ家(落ち葉の下)にいたマガタマハンミョウが、
もう一度、落ち葉の中に逃げ込む直前の写真である。



2006年2月3日 徳島市・徳島

人間が作った植木鉢やブルーシートの下にも、虫たちは隠れている。
そっと捲ってみると、ヒメホシカメムシの集団がいた。


このように、何かの下に隠れていれば、視覚で獲物を探す捕食者は、
おそらく見つけることはできないだろう。


ただし、この素晴らしい防御手段にも、残念ながら大きな欠点がある。

落ち葉や樹木の中に完全に隠れていても、
ノネズミや、キツツキなどの特殊化した捕食者には、
いとも簡単に見つかってしまうのだ。

次回以降も、様々な防御方法を紹介していくが、そのどれをとっても、
全ての捕食者から完全に逃れる防御方法はないのだ。


そうはいっても、隠れることに関して、驚くべき習性を持った虫たちもいる。

有名なところでは、クロシジミの幼虫は、クロオオアリの巣の中に入り込むし、
シロスジベッコウハナアブの仲間の幼虫は、スズメバチの巣の中にいる。

当然そこは、普通の捕食者が絶対に近づかない場所だろう。

しかも、食べ物は、何処にでもある???


今回は、隠れるということに特化した虫たちを、
手持ちの写真の中から、2例だけ紹介する。



2011年5月25日 だんぶり池・青森

ミノムシ(ミノガ幼虫)は、落ち葉や枯れ枝のごみの中に、
隠れるのではなくて、自らの体に、それをくっつけてしまうのである。

こうすれば、自由にどこでも歩き回ることができる。

上の写真は、緑の葉っぱにいるのだが、
どう見ても枯れ枝が落ちているようにしか見えない。



2010年10月15日 だんぶり池・青森

フタモンクサカゲロウ幼虫は、小さすぎてあまり知られていないが、
非常に特殊化した幼虫時代を過ごす。

後述する隠蔽的擬態のように、苦労して自分自身の体を枯れ葉やゴミに似せるなら、
最初から本物を体に付着させれば、それに勝る隠れ蓑はないし、
より現実的で良いじゃないか?

こうしていると、捕食者は全く気付かず、十分身を守ることができるだろう。

 

元記事はこちらです。
↓  ↓  ↓
擬態より優れているのか? フタモンクサカゲロウ幼虫
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110107/1/


拍手[21回]


虫たちの防御戦略① Ⅰ.防御行動の分類

このブログでは、虫たちの行う防御行動を、順不同で紹介してきた。

特に、弘前に住みはじめてからの3年間で、捕食者に対する防御戦略が、
本当に多種多様であることを、再確認出来たように思う。

それらを、多少とも体系的に整理し、なるべく写真がダブらないようにしながら、
もう一度まとめて紹介していきたい。

 

Ⅰ.防御行動の分類

種を細かく分化することによって、非常な繁栄を続けている虫たちは、
その一方で、多くの動物たちの重要な食物源(餌)となっている。

そのため、ほとんどの虫たちにとって、
他の動物の餌となることを避けるような対策をとることは、
必要不可欠なことだったと思う。

例えば、このブログで何度も紹介した、ハイイロセダカモクメ幼虫は、
やり過ぎとも思えるほど、ヨモギの花穂にそっくりな姿をしており、
完全にヨモギの花穂の出現とシンクロナイズして、一生を終える。

また、ミイデラゴミムシは、防御物質を噴射するために、
体の内部のほとんどを、2種の化合物を反応させる噴射装置にしている。

さらに、沖縄にいるクロカタゾウムシは、
虫ピンが貫通しないほど頑丈な体になっているし、
幼虫時代をミノムシと呼ばれるミノガの雌は、
成虫になってもミノから出ることはなく、
交尾や産卵もすべて安全なミノの中で行う。

このように、捕食者からの防御手段に、
かなりのエネルギーを使っている種がいる一方で、
全く防御手段を持ち合わせていないような虫たちも当然いる。

捕食者に出会ったときに、逃げることもできないような虫たちは、
ある程度、捕食者に食べられてしまうことを覚悟で、
それに見合うだけの沢山の卵を産んでいることが多い。

これも、一つの防御方法なのかもしれないが・・・

 

ということで、当然のことであるが、
捕食者に対して虫たちの行う防御行動は、千差万別である。

ただ、それらを、いくつかのカテゴリーに分けることは、
簡単にできそうである(注)

 

虫たちの行う防御方法そのものに重点を置くと、
以下の3つのカテゴリーに分けることができる。

Ⅰ.逃避的防御法: 翅、脚、鱗粉など
Ⅱ.攻撃的防御法: 防御物質、武器、目玉模様など 
Ⅲ.謀略的防御法: 保護色、隠蔽的擬態、ベイツ型擬態、フン擬態など

この分類法は、3つにしか分けていないので、
例外は出にくいが、個人的には、あまりにも大雑把すぎて、
分類したことにならない気がするのだが・・・

 

一方、捕食者の捕獲行動に重点を置いた場合には、
獲物を捕獲するステップごとに、以下の6段階に分けて、
どの段階で働く防御法なのかによって、分類することもできる。

Ⅰ.探索: 保護色、警戒色など
Ⅱ.発見: 擬態、フン擬態、金属光沢など
Ⅲ.接近: 目玉模様?、擬死?など
Ⅳ.攻撃: 防御物質、対抗武器など
Ⅴ.捕獲: 硬い体、足のつっぱり、自切など
Ⅵ.摂食: 有毒物質、不味成分など

この分類法でも、例えば、擬死や目玉模様が働くのは、
いったいどの段階なのかは、かなり微妙である。

特にⅠ.とⅡ.にまたがる分類困難な防御法があったり、
Ⅳ.とⅤ.の中では、捕食者の種類や捕獲方法の違いによって、
種分けができにくい場合も出てくる。

 

今回は、下で紹介した Edmunds(1970) の分類に従い、
被食者の行う防御戦略を、写真をメインに紹介していきたい。

【一次的防御法】
 ⇒捕食者が近くにいても、いなくても無関係に働く防御法で、
  捕食者との出会いの機会を出来るだけ減らすことを目的とする。
  ⇒ただ、(5)と(7)は、今回説明の都合上、私が追加した。

 (1) 隠れている
 (2) 体の色で、目立たないようにする
 (3) 姿かたちで、目立たないようにする
 (4) 目立つ色で、危険であると知らせる
 (5) 他の危険な種に似せる
 (6) 食べ物ではないものに似せる
 (7) 集団になる

【二次的防御法】
 ⇒捕食者と出会ってしまったときに働く防御法で、
  被食者の生存の確率を増加させることを目的とする。

 (1) 逃げる
 (2) 脅かして攻撃を躊躇させる
 (3) 死んだふりをする
 (4) 攻撃をはぐらかす
 (5) 化学的に反撃する
 (6) 物理的に反撃する

しかし、知れば知るほど、その内容は複雑であり、
簡単にジャンル分けが出来ないような防御法があったり、
ひとつの防御手段が、色々な場面で効果的に働くこともわかってきた。

それらについては、本文で確認していきたい。

また、本文に書ききれなかった内容や、写真の説明などについては、
関連する元記事を、引用文献のようなイメージで、
ところどころに、記載しています。
アドレスをクリックすると、そのページに飛びますので、
ご確認ください。



(注)
これまでに、多くの先駆者たちが、虫たちの行う防御戦略を、
   適切に分類・整理して、単行本や総説などで紹介している。

   今回は、引用文献や、個々の研究者の名前は記載しなかったが、
   以下の3冊は、昔かなり影響を受けたバイブルのような本である。

 
W.Wickler(1968) Mimicry in plants and animals


 
M.Edmuds(1970) Defence in Animals



T.Eisner et al.(2005) Secret Weapons

主に、この3冊によって、捕食者と被食者との関係が、
知れば知るほど複雑で、ちょっとだけ不思議なものであることを知った。

 

拍手[21回]