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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

虫たちの防御戦略⑬ Ⅲ(5). 化学的防御手段

意外なほど多くの虫たち(成虫も幼虫も!)が、
生理活性のある化学物質を作る腺を持っており、
主として外敵に襲われたときに放出するので、
それらは防御物質と呼ばれている。

ただし、防御物質(化学的な武器)とは言っても、
実際の防御効果は、外敵の種類によって全く異なる。

一般的に、大型の捕食者に対しては、
その効力はやや控えめであり、
相手を少なくとも瞬間的に驚かせ、
攻撃をちょっと躊躇させるだけであることが多い。

ただ、アリなどの小型の捕食者に対しては、
かなり強力な防衛手段になっているようだ。

 

虫たちの放出する防御物質の種類も様々であり、
その化学成分は、半世紀も前から、分析機器の発達に伴って、
続々と解明されてきている。

カメムシの匂いは、みんな同じではなく、
種類によって微妙に違うことが、慣れると(慣れない!!)分かる。


折角の機会なので、退屈かもしれないが、
カメムシの匂い成分について、簡単に触れておきたい。

カメムシが体外に放出する匂い成分は、
その種類によって少しずつ異なっているが、
主成分は、炭素数6~10の直鎖のアルデヒトである。

カメムシの匂い成分が化学的に研究されはじめたのは、
今から50年以上前からだが、アメリカの稲のカメムシから、
炭素数10の(E)-2-Decenalというアルデヒドが、
分離同定されたのが最初である。

その後日本でも、カメムシ科のミナミアオカメムシ、ウズラカメムシ、
スコットカメムシ、アオクサカメムシ、クロカメムシにおいて、
同じ物質の存在が確認されている。

また、日本産のヘリカメムシ科のホウズキカメムシ、
ツマキヘリカメムシ、キバラヘリカメムシなどからは、
炭素数6の2重結合を持たないHexanalが検出されている。

しかし、実際にカメムシが放出する分泌液には、
上記のようなアルデヒド類が数種類と、その他に、
溶媒のような役割を持つ炭化水素が含まれている。

たとえば、ミナミアオカメムシでは、18種、
ホシカメムシの一種では、8種の化合物が分離同定されている。

また、カメムシ科では、(E)-2-Hexenal(E)-2-Octenal、(E)-2-Decenalなどの
二重結合をひとつもったアルデヒドが多く、
ヘリカメムシ科では、Hexanal、Hexanolなどの
二重結合を持たない化合物が主になっているようだ。

多くの種類に共通して含まれているのは、(E)-2-Hexenalで、
カメムシ科、ホシカメムシ科、ツチカメムシ科、
ヘリカメムシ科から見つかっている。

ちなみに、この化合物は、キュウリなどの青臭い匂いの主成分のひとつで、
別名を青葉アルデヒドと言うが、香水の原料として使用されることがある。
そのためか、カメムシの匂いも、薄まれば香水になると、
ある本に書かれていた。


カメムシ以外の虫たちの放出する防御物質の成分については、
今回は全く触れないが、基本的に多くの種類で明らかにされている。


ここでは、様々な放出方法や生物活性について、簡単に紹介したい。


第1のタイプは、体内にある袋状の腺を、外側に反転させて、
臭気成分を揮発させるものである。

アゲハ類の幼虫は、頭部の背面にある臭角とよばれる袋状の腺を、
外側に反転させてオレンジ色のツノのように突出し、臭気成分を放出する。

人が指などで掴むと、それにツノが触れるようになるまで、体をそらせる。

同じ方法で、ある種のハネカクシ類は、腹部末端ののサック状の腺を反転させ、
外敵に押しつけようとする。

 

第2のタイプは、ハムシやジョウカイの幼虫などが行うもので、
体の側面に一列になった放出孔より、分泌物をこじみ出させる。

また、その小滴を自らの体表になすりつけたり、場合によっては、
外敵に直接つけたりする種も知られている。

 

第3のタイプは、オサムシ、ゴミムシ、カメムシ、ゴキブリなど、
多くの無脊椎動物が行なう放出法で、液体状の分泌物をスプレイする。

この場合でも、外敵の目をねらって50cmも飛ばす種や、
自らの体表につける種が知られている。

また、ミイデラゴミムシは、放出の直前に2種の物質を化学反応させ、
高温のガスを発射することができる(注)

 

第4のタイプとして、有毒物質を、相手の体内に注入する虫たちもいる。

たとえば、ミツバチの毒針による執拗な刺針行動は、
哺乳類を中心とする多くの天敵に対して有効だし、
また彼等が植物樹脂を集めたハチヤニ(プロポリス)には、
各種の微生物に対する抗菌性も認めらている。

我々も、ハチに刺されたことがあるが、単に針で刺された痛みではない。
イラガやドクガの幼虫に触れたときも、同じような痛みがある。

ようやく、写真が使える!!!



2008年7月13日 徳島市・徳島

多分ヒロヘリアオイラガの幼虫。

こんなのが、自宅の庭にいると、結構恐ろしい。

ヒスタミンや種々の酵素を成分とした毒であると言われるが、
ちょっと触っただけで、かなり広い範囲に発疹が出来るほどである。

 



2011年10月9日 蔦温泉・青森

これは、多分アカイラガの幼虫。

いかにも痛そうな太いトゲには、
さらに小さなトゲ(正式には2次刺という)がある。

保護色のような緑色も、この背景では良く目立つ。
もしかしたら、分かってやってるのか?

 



2010年9月2日 だんぶり池・青森

こちらは、多分ムラサキイラガの幼虫。

上の2種のイラガ幼虫と、基本的な体型(楕円形?)は一緒であるが、
刺毛の形がそれぞれ違うので、ちょっとだけ面白い。

 


第5のタイプとして、嫌な臭いや味のする液を、
口から吐き戻すタイプもいる。

バッタを捕まえると、口から茶色の液を出すのもそうだろう。



2012年5月25日 東海村・茨城

ホタルガ幼虫は、写真では毒毛がありそうだが、
実際には、口から吐き戻す液が有毒のようである。

おそらく、野鳥類は、食べないだろう。


ここで、ひとつだけ、あまり注目されていなかったが、
かなり重要な問題点があるのだ。

Ⅱ(4).で述べた警戒色との関係である。

通常は、武器を持つ種や、体内に不味成分を持つ虫たちは、
警戒色であることが多く、一度ひどい目にあった捕食者は、
警戒色と結び付けて学習し、2度とその虫を攻撃しない。

しかし、防御物質の効力は、捕食者の種類によって、
全く異なっているので、話はややこしい。

防御物質を放出する虫たちを、ある捕食者は避けるが、
別の捕食者は、全く気にしないで攻撃する。
だから、防御物質を放出する虫たちは、
一律に警戒色にはならないのだ。

その防御物質を全く気にしない捕食者にとってみれば、
警戒色は、逆に、探しやすいターゲットになってしまうからだ。

これが、不味成分を体内に持っている虫たちとの大きな違いである。

話がややこしくなってきたので、
カメムシの例が、分かりやすいだろう。

まず、重要なのは、カメムシの匂いの実際の防御効果は、
アリに対してのみ有効であることが、色々な実験で確かめられている。
その他の捕食者は、全く平気でカメムシを食ってしまうのだ。

だから、鳥などの学習できる捕食者に対して、
ちょっとだけビックリさせる効果しかない防御物質を持つカメムシが、
目立つ色の警戒色をしているはずがないのである。


しかし、警戒色のカメムシ類は、結構沢山の種類がいる。
ナガメやアカスジカメムシのように、その多くは、匂いを出さない。

ただし、ほとんどが、体内に不味成分を待っているので、
警戒色のカメムシは、野鳥類から攻撃されることはないのだ。

手元の昆虫図鑑を調べてみると、カメムシ類の70%以上が保護色であり、
そのほとんどが、強烈な匂いを放出する。

また、警戒色のカメムシは、30%以下であり、
そのほとんどが弱い匂いを放出するか、あるいは全く放出しない。


では、何故カメムシは、あまり効果のない防御物質を放出するのだろうか?

実は、カメムシの強烈な匂いは、近くにいる仲間たちに、
危険が迫っていることを知らせる警報フェロモンとして、作用しているのだ。

カメムシの臭気成分の役割に関しては、以下の元記事をご覧ください。
↓  ↓  ↓

20101107 カメムシの匂いの不思議【01】実際の防御効果は?
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/28/

20101108 カメムシの匂いの不思議【02】アリに対する防御効果
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/29/

20101109 カメムシの匂いの不思議【03】びっくり効果
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/30/

20101110 カメムシの匂いの不思議【04】警戒色と不味成分
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/31/

20101111 カメムシの匂いの不思議【05】警報フェロモン
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/32/

 


(注)ミイデラゴミムシの噴射装置が、突然変異と自然淘汰で、
   進化してきたとは、とても説明できないという議論があった。

   なぜなら、
   ・化学反応用の高温にも耐える体内の器官
   ・化学反応する基質(ハイドロキノンと過酸化水素)
   ・基質が反応しないようにしておくための貯蔵器官
   ・反応させるための酵素
   ・噴射の調節装置
   の全てが、同時に生じなければならないからだ。

   しかし、誤解のないように記しておくが、この問題は、
   「同時に生じる必要などない」ということで、
   多くの人たちが回答し、すでに解決済みである。

 

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虫たちの防御戦略⑫ Ⅲ(4). 目玉模様(小)、自切など

捕食者の攻撃を、うまくはぐらかす虫たちもいる。

今回は、3つのタイプを紹介したい。

 

最初は、おなじみの目玉模様である。

比較的大きな目玉模様の機能については、Ⅲ(2)で紹介したように、
捕食者を驚かせ、その攻撃を躊躇させる効果が認められている。

一方で、比較的小さな目玉模様には、
むしろ全然逆の、別な意味あるのだ。


多くのチョウには、写真のように、翅の端に、
数個の小さな目玉模様を持っている。



2010年8月10日 東海村・茨城

ヒカゲチョウの目玉模様は、この大きさでは、
おそらく、小鳥を驚かすことはないだろう。

小さな目玉模様は、逆に、小鳥がついばむ行動を、
そこに向けさせる役割を持つと考えられている。

狩りをする捕食者には、多くの場合、
獲物の急所である目玉を攻撃する習性があるからだ。

 


2012年9月27日 東海村・茨城

後翅の半分近くが破れてなくなったヒカゲチョウ。
おそらく、鳥のくちばしで突かれて出来た破れ跡である。

この部分には、小さな目玉模様があったはずだ。

それらの破損は、左右対称に認められることが多く、
ビーク・マーク(beak mark)と呼ばれている。

これが、野鳥類が目玉模様に向かって、
攻撃(ついばむ)する証拠とされている。

 


2012年8月28日 小泉潟公園・秋田

こちらも、典型的なV字型のビークマークを付けたクロヒカゲ。

2枚の翅の同一場所が、きれいに破れているので、
おそらく、翅を閉じて静止しているところを、
少し大きめの鳥が、そこにあった目玉模様を狙って、攻撃したのだろう。

あるいは、飛んでいるときに、攻撃されたものかもしれないが、
チョウの飛び方は、翅を大きくはばたき、胴体の上下で翅が合わさるので、
その瞬間を狙われたのかもしれない。

そして、このような状態になって、生存しているということは、
翅の端っこにある(胴体から離れた場所!)目玉模様が、
鳥の攻撃をその部分に誘導し、見事に攻撃から逃れた結果である。

このようなビークマークを付けたチョウは、比較的簡単に捕獲できるため、
その出現頻度をもとに、野鳥類のチョウに対する捕食圧を推定しようとする試みが、
若い研究者によって行われているようだ。

 

 

2番目の特殊な方法も、なかなか面白い戦略であると思う。


下の写真のように、シジミチョウの仲間は、
後翅に尾状突起を持っていることが多いが、
一体どんな意味があるのだろうか?

 


2012年7月3日 小泉潟公園・秋田

まず、先端が白くなった2本の尾状突起が、
まるで触角のように見える。(写真はウラナミアカシジミ)

その付け根にある黒い点は目のように見え、
さらに、翅の裏面にある波状のしま模様が、
その目のような点に集まっている。

 


2012年7月3日 小泉潟公園・秋田

近づくと、後ろの2本の突起を、ゆっくり交互に動かす。
これは、まさに触角の動き方だ!!

鳥のような捕食者は、おそらく、
写真の右手の方向に飛び立つと予測するだろう。

あるいは、頭を一撃で狙う捕食者は、おそらく、
頭部のような黒い点を攻撃するだろう。

もちろん、攻撃されたその部分は、
生存に直接損傷を与えるような急所ではない。

このちょっとした工夫が、結構役に立っていると考えられる。

 


アカシジミ(シジミチョウ科)

2011年7月21日 大沼・北海道

尾状突起を持つシジミチョウの仲間の多くは、
翅の裏面の模様が、尻尾の方へ向かうようになっており、
反対側が頭部のように見えるのだ(写真はアカシジミ)。

 


2010年8月1日 だんぶり池・青森

逆に言うと、尾状突起を持たないシジミチョウには、
そこへ向かうような「しま模様」がないことが多い!!
(写真はゴイシシジミ)

 

同様に、写真はないが、ビワハゴロモの仲間にも、
後端に触角状の突起や目玉模様を持っている種がおり、
着陸する瞬間に、向きを変えて飛翔方向に尾端を向けたり、
垂直の面にとまって頭を下に向けて、
尾状突起を触角のように動かしたりする。

これらは、鳥などの捕食者が予想するのとは、
全く逆の方向に飛びたつことに、意味があるわけであるが、
実際の効果については不明である。

ただ、ずいぶん昔の話であるが、学生時代に読んだ本の中で、
捕食者は、獲物の頭の部分を狙って最初の攻撃を仕掛けるが、
間違えて尻尾の方を最初に攻撃してしまう頻度が数値化されていた。

 

 

3番目の特殊な方法も、興味深いものだ。

人間世界での例え話にも出てくる「トカゲのしっぽ切り」である。
このかなり奇妙な行動が、虫たちにも見られ、自切(じせつ)と呼ばれる。


最も有名なのは、バッタの自切行動である。

ただ、子供のころから、バッタを捕まえて、脚の部分を持つと、
その脚だけを残して逃げてしまうことがあって、
ちょっと気持ち悪いし、あまり後味の良くない印象が残っているのだが・・・

 

写真2579
2010年9月10日 白岩森林公園・青森

多分自切によって、右後脚がなくなったミカドフキバッタ。

実際に、野外でバッタの写真を撮るようになって、
予想以上に、片足のない個体に出会うことが多いことに気付いた。

この行動は、そんなに逃避効果があるのだろうか?

 

このように、自切は、捕食者に襲われた際に、自分の体の一部を犠牲にして、
捕食を回避する行動であるので、自切後の状況も重要である。

つまり、その組織(脚)は再生するのか?
自切後の運動能力は、どの程度ダメージを受けるのか?
交尾行動に影響を与えるのか?
などが、重要なファクターになってくるはずである。

最近では、地元弘前大学の若い研究者によって、
その方面の研究も精力的に行われているので、
機会があれば、このブログでも紹介したい。

 

下の元記事をご覧ください。
↓   ↓   ↓
20120811 どっちが前なの? ウラナミアカシジミ
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/270/


 

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虫たちの防御戦略⑪ Ⅲ(3). 擬死

より鮮明に撮ろうとして、カメラをそっと近付けると、
ポロッと下に落ちてしまう悔しい虫たちがいる。


しかも、

多くの場合、

落下した後、

しばらくの間は、

死んだように、

動かない!!



この行動は、予想以上に防御効果があるようだ。


2012年6月19日 白岩森林公園・青森

ズーム機能のないカメラで、これだけ近づけば、
ゾウムシの仲間は、何らかの手段で、その気配を察知して、
ほぼ100%落下してしまう。(写真はヒメシロコブゾウムシ)

 


2012年6月19日 白岩森林公園・青森

普通は、草むらの中に落下するので、おそらく、
2度と探すことはできない。

今回は運良く(?!)、草のない地面に落下した。
当然、しばらくの間は、全く動かない!!!

このように、全ての脚を突っ張って、
まるで死んでるようにみえる状態を、擬死と呼ぶ。

この状態では、たとえ見つかってしまっても、
一気に飲み込むタイプの捕食者は、
ちょっと苦手かも知れない。

 

 


2012年6月15日 だんぶり池・青森

このように葉っぱの上にいるコガネ類も、
ちょっとした振動で、地面に落下してしまう。
(写真は多分チャイロコガネ)

 


2012年6月15日 だんぶり池・青森

もちろん、風邪で葉っぱが揺れても、落下することはない。
恐らく、微妙な振動の違いを察知するのだろう。

当然、一度地面に落ちてしまった彼らを、
再び探し出すのはかなり困難である。

枯れ葉の間に落ちて、しかも、しばらく動かないからだ。

 


おそらく、狩りをする捕食者は、動くエサに反応する。
というか、視覚で獲物を探す捕食者の多くは、
生きているものでも、動かないものを攻撃することはない。

カマキリやカエルが獲物を捕獲する瞬間を、
何度も間近で見たことがあるが、
彼らがアタックするのは、射程距離内にいる獲物が、
多分、緊張感に耐えられなくなって、
ほんのちょっと動いた瞬間である。

だから、実際には、狩りをする捕食者は、
本当に死んだものを食べることはないのだろう。

死体を食べると、病気感染などのリスクがあるからなのか?

 

 

もう一例、面白い例がある!!


コメツキの仲間は、落下して、擬死するときに、
ちょっとだけ不思議な行動を追加している。

 

こんな感じ・・・・?

 


2012年6月7日 芝谷地湿原・秋田

葉っぱの上を、悠然と歩いて、いつでも落下できるぞ! 
という雰囲気が見え見えである。
(写真はムナビロサビキコリ)

 


2012年6月7日 芝谷地湿原・秋田

軽く刺激すると、予想通り見事に、石の上に落下した。

このように、硬い場所に仰向けに落下した場合には、
良く知られているように、関節をうまく利用して、
ピコ~ンと言う感じで、数10cmも、飛び上がるのだ。

もちろん、こんなことが出来れば、一瞬で、
捕食者の視界から消えることができる。

 

 

さらに、このような擬死行動の適応的意義に関しては、
最近の研究結果によって、新たに別の可能性も示唆されている。

上で見てきたような、体を硬直させる擬死行動は、
捕食者に襲われてからも、別の効力を発揮するのだ。


トゲヒシバッタという体にトゲのあるバッタがいる。

特に捕食者が、カエルのような、飲み込み型である場合、
体の左右に頑丈なトゲを持つこのバッタは、
さらに足を突っ張って、体を硬直させるで不動化することで、
物理的に飲み込まれにくくしていることが分かった。

さらに面白いことに、トゲヒシバッタは、潜在的な捕食者のうち、
一気に飲み込むような捕獲行動をするカエルに対してだけ、
脚を突っ張る擬死行動を行い、ついばむように捕食する野鳥類には、
行わないことも、詳細な観察によって確認された。


また、これも最近の研究で、貯穀害虫のコクヌストモドキの場合には、
ある個体が擬死することで、その個体の近くで動いている他個体に、
捕食者の注意が振り向けられることになり、その結果、
動かないでじっとしている個体が、捕食者から攻撃さないことも分かったのだ。


同じようにみえる擬死行動でも、これだけ多くの機能が追加されている。

さすが、ちょっとだけ不思議な虫たち!!!







 

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虫たちの防御戦略⑩ Ⅲ(2). 目玉模様(大)

捕食者が接近してくるのを感知した虫たちは、
その場所から離れる(逃げる)というのが、
前回【Ⅲ(1)】紹介したように、最も手っ取り早い選択だと思う。

しかし、ただ単に逃げるよりも、せまってくる捕食者を、
ちょっとだけでも躊躇させてから逃げる方が、
より確実に、目的を達成できるだろう。


捕食者の攻撃を、躊躇させる手段は、色々ありそうだ。

代表的なのが、突然見せる目玉模様と、突然放出する防御物質だ。
防御物質については、後日、Ⅲ(5).で紹介するので、
ここでは、様々な場面で活躍する目玉模様を取り上げる。

目玉模様は、その機能によって、2種類に大別されるが、
攻撃をそこに向けさせる比較的小さな目玉模様については、
Ⅲ(4).で紹介するので、ここでは触れない。

 


常夜灯がある公共の駐車場(SAや道の駅など)のトイレは、
色々な蛾の写真を撮ることができる隠れた穴場である。

そんな場所に、早朝さりげなく行ってみると、
森の中に帰りそびれた沢山の蛾が見つかる。

人が近づくと、飛んで逃げようとするが、
そのとき、ふたつの大きな目玉模様が見える蛾がいる。

そのような蛾の多くは、普通に止まっているときには、
保護色的な色彩の前翅の表面を見せているので、
鳥などの捕食者から、見つかりにくくなっている。

ところが、捕食者や人が近づいてくるのを察知すると、
前翅を急に広げ、鮮やかな目玉模様を見せるのだ。

 


2008年9月26日 道の駅(碇ヶ関)・青森

クスサンの目玉模様は、このように逆さに見ると、
フクロウなどの肉食性の鳥の目とそっくりであり、
蛾を捕えようとした鳥は、攻撃をためらうだろう。

 


2011年9月3日 城ヶ倉大橋駐車場・青森

ヤママユの場合には、翅を閉じているときにも、
小さな目玉模様が見えるが、前翅を開くと、
より大きな別の目玉模様が突然見える。


目玉模様を持たず、保護色だけにたよっている蛾には、
この前翅を突然広げるという行動は、見られないようだ。

 


一方、幼虫時代に大きな目玉模様をもっている蛾も多く、
皮膚の下や腹側に目玉模様があって、急にそれを示す種や、
もち上げて前後にはげしく振る種などが知られている。

 


2010年10月8日 弘前市・青森

まるで漫画のような目玉模様のアケビコノハ幼虫。

大きな目玉模様を持つ虫たちは、そんなに多くないが、
いずれも単なる同心円ではないところが凄い!

良く見ると、多少のずれがあったり、
中心部分には、虹彩を思わせる別の模様があるのだ。

 


2011年6月29日 だんぶり池・青森

クワコ幼虫の目玉模様は、アケビコノハ幼虫と違って、
このように、十分すぎるほどリアルである。

これが、まさに本物のヘビの目玉に、良く似ているのだ。

 


2011年9月26日 小泉潟公園・秋田

これは、本物のシマヘビである。
人間はあまり良く見ることはないだろうが、
確かに、本物のヘビの目の模様と、
偽物の目玉模様を比較すると、うまく擬態してるなと思う。

 

 

捕食者に限らず、多くの生物は、完全な目玉模様でなくとも、
突然目の前に、鮮やかな色をしたものが飛び出すと、
かなり驚くことが、多くの実験で確かめられている。



2010年11月27日 三春PA・福島

アケビコノハの場合は、完全な目玉模様ではないが、
前翅の枯れ葉に似た保護色のおかげて、
突然見えるオレンジ色の模様のインパクトは大きい。

この写真は、私がカメラを持って近づいたとき、
翅を広げて、飛んで逃げようとした瞬間である。

 


2011年8月31日 城ヶ倉大橋駐車場・青森

ヒトリガの場合は、右下の静止状態から、脅かされると、
翅を広げて、突然オレンジ色を見せつける。

この赤みが強いオレンジ色は、人でも衝撃を受ける。

 


2012年10月11日 城ヶ倉大橋駐車場・青森

その他にも、カトカラと呼ばれる種類の蛾は、
普段見えない後翅表面が、鮮やかな色をしており、
偶然かもしれないが、飛び立って逃げるときに、
鮮やかな模様がみえる。(写真はゴマシオキシタバ)

 


多くの生物は「見慣れないものを本能的に避ける」傾向がある。

クスサンやアケビコノハの例のように、最初は、飛び立つ寸前に、
普段隠れている鮮やかな模様が、突然見えるだけだったのだろう。

この場合は、もちろん捕食者の過去の経験は無関係であり、
単なる見慣れないものが、突然目の前に現れて、
ちょっとビックリ! ということしかなかったと思う。

それを、捕食者の方で、勝手に(!?)驚いて、
さらに、そこに見えている、ふたつ並んだ同心円状の模様を、
過去に嫌な経験をしたフクロウの眼と、(勝手に)思い込んだのである。

そして、その目玉模様が、捕食者を躊躇させる効果は予想外に大きく、
さらに、精巧でリアルな目玉模様へと進化していったのだろう。

 


それは・・・・何となく・・・・分かった。

 


では、下の2枚の写真は、一体どう説明するんだ!!!

 


突然後翅の模様を見せる蛾は、まだ他にもいるのだ。

 


2011年9月29日 城ヶ倉大橋駐車場・青森

中には、こんな青い模様の蛾もいるし(フクラスズメ)、

 


2012年10月10日 城ヶ倉大橋駐車場・青森

中には、こんな黒い模様の蛾もいる(シロシタバ)。

 

一体、これには、どんな意味があるんだ?

捕食者を驚かすだけなら、赤色が一番だし、
みんな赤系の色にすれば良いではないか!!

 

???????????????????

 

???????????????????

 

この問いに対するもっともらしい回答が、ふたつある。


(1)赤い模様に何度も騙されてきた捕食者を、
   迷わせ、さらにビックリさせるために、
   違う色も「あり」である。

(2)逆に、突然見える目玉のようなものを、
   急所として攻撃させる「小さな目玉模様」の効果を狙う。

 

どっちにしても、ちょっとだけ不思議な虫たちである!!!

 


以下の元記事も、是非ご覧ください。
↓  ↓  ↓
20110308 目玉模様の進化【1】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110308/1/

20110309 目玉模様の進化【2】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110309/1/

20110310 目玉模様の進化【3】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110310/1/

20110311 目玉模様の進化【4】
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20110311/1/

 

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虫たちの防御戦略⑨ Ⅲ(1). 逃げる

ここからは、虫たちが運悪く捕食者と出会ってしまったときに、
最後の手段として行う、本当の意味での防御方法である。

Ⅲ(1).  逃げる

子供のころ、トンボやセミを捕まえようと、そっと近づいても、
網を振る直前に、逃げられてしまうことが、たまに(!)あった。

そして、大人になってからも、虫たちを見つけて、
写真を撮ろうとカメラを向けると、
絶妙のタイミングで、逃げられてしまうことが、
しばしば(!?)ある。


被食者からみれば、捕食者が射程距離に入る前に、
その気配を察知し、その場から飛び去ることはできれば、
それは、最も簡単で、効果的な防御手段となるだろう。


もちろん、虫たちは、飛んで逃げるだけではない。


体の扁平なゴミムシ、ハサミムシ、ハネカクシ、ゴキブリなどは、
石の下や隙間や落ち葉の中に、素早く歩いて逃げ込みむ。

イナゴやカメムシは、葉の裏側へ回り込み、相手の動きを見極め、
常に反対側へ移動しようとする。

また、ハムシ、コメツキ、カミキリなど多くの虫たちは、
少なくとも我々人間が近づいただけで、植物体から落下する(注)


このような逃避行動が、大きな防御効果を持っていることは、
われわれが野外でケガをしている虫に、
ほとんど出会わないことからも想像される。

実際に、うまく飛んだり歩いたりできないようにした昆虫を、
地面においておくと、必ずアリがやってきて運び去ろうとする。

 

しかし、逃げる途中の虫たちを、カメラで撮るのは不可能に近い!!

あまり良い写真ではないが、たまたま撮れた3枚。

 


2011年8月11日 東海村・茨城

これは、多分スジアオゴミムシが、普段の隠れ家(朽木の穴)に、
逃げ込む寸前の写真である。

 


2012年10月14日 浅瀬石ダム・青森

セアカヒラタゴミムシが、私に気付いて、
必死に逃げているところを、さらに、
必死に追いかけて撮った貴重な一枚である。

 


2012年5月18日 芝谷地湿原・秋田

とにかくクルクル回っているので、おそらく、
捕食者の射程距離には入りにくオオミズスマシ。

これは一瞬止まったところを写したもの。

 

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次の2枚組の写真は、ちょっとだけ自慢(2枚目)。

しかし、偶然の賜物である。

 


2011年6月29日 白岩森林公園・青森

イオウイロハシリグモが、少しずつ近いづいて、
ハナバチの仲間を、完全に射程圏に捉えている!!!



2011年6月29日 白岩森林公園・青森

しかし、攻撃した瞬間に、わずかのタイミングで、
獲物に逃げられてしまった!!!

これが、そのときの証拠写真である。
クモの前方に、ぼんやり写っているのが、
今回は生き延びたハナバチ君である。


この写真を見て、昔読んだ論文を思い出した。

確かビデオカメラの映像から、カマキリの捕獲速度(前脚の動き?)と、
獲物(多分ハエだった?)の逃避速度の関係を調べて、
カマキリの射程距離と、ハエの逃げるタイミングを推測していた。
もう40年も前に、こんなことをやる研究者がいるんだ、
と感動したものである。

結論は、はっきりとは覚えていないが、
ハエは、カマキリの射程距離に入ってしまっても、
半分以上の確率で、逃げることができたと思う。

上のハナバチも、クモの微妙な動きを察知し、
多分絶好のタイミングで、飛び立ったのだろう!!


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逃げることに、特別な手段を持っている虫たちもいる。

今シリーズで、色々な場面に登場した金属光沢の虫たち。

ミドリシジミやルリタテハの場合には、
翅の表側にある金属光沢は、こんな効果が期待できる。



2011年7月12日 帯広市・北海道

翅の表面がキラキラに輝くジョウザンミドリシジミ(多分)。
本当に遠くからでも、よく目立つ。

実際に、このチョウが飛んでいるときには、
左右の翅を体の真上と真下でぴったり合わせる。

そうすると、ある瞬間には翅の表面だけ、
ある瞬間には翅の裏面だけが見えるのだ。

だから、良く目立つキラキラ表面が、
途切れ途切れに移動しているように見えるので、
捕食者は、正確に後を追うことができなくなるのだ。

 


2011年5月24日 だんぶり池・青森

ルリタテハの翅の裏面は、捕食者である鳥に対して、
このように、保護色(隠蔽色)として機能する。



2011年4月28日 だんぶり池・青森

しかし、表面は、強烈に目立つ金属光沢の輪がある。

この状態のときに、見つけた鳥が近づいて来たとき、
突然、翅を閉じたらどうだろうか?
(⇒突然見せる目玉模様とは、全く逆の状況である)

おそらく、それまで見せていた派手な色の表面が、
突然なくなって、裏面の隠蔽的な効果が、
そのコントラストの大きさによって、より強調されるだろう。

近づいてきた捕食者は、マジックでも見てる感じだろうか?

 


さらに、全然別の、ユニークな逃亡手段がある。

多くの昆虫類が持っている鱗粉や細かい毛は、
それが体から非常に離れやすいという理由で、
逃避的な防御手段になる可能性があるのだ。

例えば、体中にろう物質の粉を付けているコナジラミは、
モウセンゴケのトラップから脱出できるし、
抜けやすい毛で覆われているトビケラは、
クモの糸から簡単に逃れることができると言われている。



2010年8月10日 東海村・茨城

全身に粉をふいてるようなアミガサハゴロモ。

もしかしたら、この子もクモの巣から逃げられるのだろうか?

 


また、有名な例として、コウモリに対する蛾の逃避行動がある。

蛾がコウモリの声を聴くことができるという事実は、
昔から知られていたが、それが何の意味をもっているかは、
全くわからなかった。

しかし、夜行性のコウモリの飛行は、彼らの発する超音波の反射音を、
感受することによって行なわれていることわかってから、
コウモリと蛾の複雑な関係が、明らかになってきたのだ。

コウモリの超音波に対抗する第一の手段として、
蛾は仝身に細かい毛をもって、超音波を吸収しようとした。

ある種の蛾は、超音波を感受できる装置を背面に備え、
コウモリの発するそれを30~40m離れて聞いたときは、
明らかにその方向を知ることができ、
その場から離れようとすることが観察された。

コウモリ自身の聴覚範囲は、その1/10以下であるので、
この捕食者は、あたかも蛾の定位をさまたげるように、
全くランダムなジグザグ飛行をする。

一方、コウモリが蛾を発見して、一直線に近づいてくると、
両者の飛行速度の違いから、
もはや逃亡するのが不可能であることを知った蛾は、
そのまま地面に落下してしまう。

しかし、コウモリの方も、最適な食物である蛾の行動を、
見逃してはいない。蛾が落下し始めると同時に、
あたかもその軌道を計算しているかのように方向を変え、
蛾が地面に着く直前に捕えるという行動を発達させてきた。

蛾の方も、ただ落ちるのではなく、急降下したり、
キリモミ状に落下して抵抗するが、
膨大な写真の分析から、10回のうち6回までしか、
コウモリは、落下中の蛾を捕えることが出来なかったのだ。


さすが、愛すべき虫たち!!!

 

(注)この落下するという逃避方法は、予想以上に効果が高い。

       一度地面や落ち葉の中に落ちてしまった虫たちを、
       もう一度探し出すことは、まず不可能であることを、
   昆虫採集する人なら、だれでも経験してるはずだ。

   しかし、賢い昆虫マニアは、その虫たちの行動を逆手にとる。

   枝の下に、白い布を置いて、その枝を軽く棒でたたくと、
   その枝にいた虫たちが、布の上に、簡単に落ちてくるのだ。

   布に落ちた虫は、すぐには飛び立ないので、
   目的の虫を、簡単に採集することができるのだ。

   これを、昆虫マニアは、ビーティング採集法と呼ぶ。
   実際は、こんな感じである。
   ↓  ↓  ↓ 

   
   1991年8月9日 大山・鳥取

       かなり、やらせっぽい写真ではある。    
     ⇒注目は、やはり撮影年だろうか?

 

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