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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

サティロス型擬態① ヨナグニサンとヘビ

飛びながら獲物を探すことができる野鳥類の視覚は、
人間よりも遥かに鋭いと言われている。

餌となる虫(のようなもの?)を見つけたときに、
それが食べても安全なのかどうかを、
瞬時に判断しなければならないからだ。

ただ、鳥の視覚が鋭いとは言っても、
人間とは異なるシステムで、対象物を認知していることが、
最近になって分かってきた。

このことと並行して、特に虫たちの不思議な模様についても、
サティロス型擬態という概念が注目を浴びるようになって、
その存在意味が、徐々に解明されつつある。


 ⇒微妙な書き方をしてしまったが、
  この記事をお読みいただく前に、
  以下の記事を、是非ご覧ください。

  【古くて新しい擬態 サティロス型擬態】
   ↓   ↓   ↓
   http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150913/1/

 


簡単に言うと、
 人間の視覚による認知方式(?)は、
 とりあえず、視覚に入る全体像から対象を判断するが、
 鳥の場合は、全体像よりも、一瞬の注目すべき部分を、
 過去の記憶と一致させ、対象を判断する傾向が強い、
と言うことなのだと思う。


鳥たちのこのような視覚認知システムでは、
彼らが、必死に食べ物を探しているとき、
蛾の翅にあるネコやフクロウの顔のような模様を、
(この模様をサティロス型擬態と呼ぶのだが、)
まず(拡大して?)注視してしまう。

その結果として、素早く認知した模様が、
自分の天敵を連想させるものであった場合に、
当然のこととして、その虫を捕獲するのが、
一瞬だけ遅れてしまうのだ。

 ⇒この状況は、逃げる方(虫たち)にとっては、
  生死をかけた瞬間になるのだろう。

 

 

以下は、その具体例である。

 


まず、ヨナグニサンの写真を、ご覧ください。


マニア以外の人間が、普通に見ると、
大きな蛾だなと思う程度なんだろうが・・・

 

 

ヨナグニサン(ヤママユガ科)

2003年4月5日 与那国島・沖縄

これは、もう10年以上前の写真であるが、
このときの感動は、今でも忘れない(ちょっと大袈裟!!)。


言うまでもなく、ヨナグニサンは、
与那国島に生息する世界最大級(!)の蛾だ。

過去に、飼育品の実物をどこかで見たことがあったが、
この子はまさに、野生のヨナグニサンなのだ。

しかも、羽化直後の、新鮮な個体・・・

 

見つけた時には、同行の友人二人も、
しばらく声が出なかったほどの迫力であった。


 ⇒当時の記憶をたどってみると、
  その大きさばかりに気をとられて、
  前翅の先端のヘビの模様には、
  大きな関心を持つことはなかった。

  

 


こんなヨナグミサンは、野鳥類の視覚認知方式では、
一体、どんな風に見えてしまうのだろうか?

 

 


同じ写真を、トリミングしてみた。

 

 


ヘビ?(左側拡大)

2003年4月5日 与那国島・沖縄

葉っぱの影になってる部分は、こんなにリアルだ!!!


もしかしたら、本物のヘビと比較して、
サイズ的には、全くヒケをとらないだろう。

 

 

 

ヘビ?(右側拡大)

2003年4月5日 与那国島・沖縄

明るい右側のヘビの方が、ちょっとだけ強調される???


これこそが、サティロス型擬態の典型(?)なのだ。


 ⇒確かに、少なくとも人間3名は、まず全体像を見て、
  その大きさに圧倒されただけだったのだが、
  鳥が見ると、「そうか、ヘビなんだ!」
  と、思うしかない・・・・

 

 


下は、本物のヘビの写真である。

 

我々人間もあまり注視することはないと思うのだが、
ヨナグニサンの前翅先端部のの模様と、微妙に良く似ている。

 

シマヘビ(ナミヘビ科)

2011年9月26日 小泉潟公園・秋田

小鳥たちの多くは、(多分)自分の卵やヒナがいる巣に向かって、
恐ろしいヘビが近づいてくるのを、経験しているはずだ。


だから、蛇のような姿を、瞬間的に見た場合、
どんなに恐怖心を掻き立てられるのか、十分想像できる【注】


 ⇒おそらく、多くの小鳥たちは、
  ヘビのような模様に対して、
  必要以上に敏感に反応してしまうのだろう。

 

逆に言うと、臆病な野鳥類に対して、
一瞬の判断ミスを起こさせるのが、
目につきやすい模様が、「サティロス型擬態」なのだ。

しかも、その模様は、完全に対象を再現する必要はない。


人間がマジマジと見ると、
「何でこんな不完全なものが?」
と、長い間生物学者を困らせてきた問題が、
野鳥類の切羽詰まった状況から推察すると、
おそらく、それで十分な機能を果たすのだ。

 

 

・・・次回は、姿かたち全体が動物に見える例です。

 

 

【注】別の言い方をすると、鳥の場合は「心の目」によって、
   怖い怖いヘビやフクロウの姿などが図式化され、
   それに当てはめながら対象を認識している。

   空を飛びながら獲物を探す野鳥類は、
   虫のようなもの(?)を見つけたときに、
   それが、本当に餌である虫なのか、
   あるいは、恐ろしい天敵の動物なのかを、
   瞬時に判断しなければならない。

   そのとっさの判断基準は、目の焦点を合わせ、
   じっくり観察できる全体像ではなく、
   瞬間的に目に入った天敵の姿(の模様)なのだ。

 

 

   

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リアルな糞擬態 ウスイロカギバ幼虫


虫たちの中には、獲物を探す捕食者に対して、
普段の食べない物に似せることにより、
自分の身を守ろうとするものがいる。

鳥の糞のように見える虫は、その代表のひとつで、
沢山の虫たちが、程度の差はかなりあるものの、
その生存戦略を採用しているのだ。


そんな「鳥の糞擬態」と言えば、東の横綱は、
その名のとおり、トリノフンダマシになるだろう。

【鳥のフン擬態【3】 トリノフンダマシ】
 ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120821/1/

 

西の横綱は、やはり、オカモトトゲエダシャク幼虫だろうか?

【糞擬態!! オカモトトゲエダシャク幼虫】
 ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150117/1/

 

 

そして、今回紹介するウスイロカギバの幼虫は、
あまりにもリアル過ぎて、同じ土俵には上がれない?


もし、どうしても番付に名前を出すと言うならば、
関脇とか小結では、決してない!!!

とりあえず、北(?)の横綱とでもしておこう【注】

 

 


最初に、東西の正横綱の写真をもう一度・・・

 


鳥の糞擬態

左: トリノフンダマシ 金山町・秋田(20120806)
右: オカモトトゲエダシャク幼虫 猿羽根山・山形(20140604)

このように、接写するとそうでもないのだが、
遠目で見つけたときには、まさに鳥の糞だ。


 

この雰囲気でも、結構リアルなのだが・・・

 


 本日のメイン、北の正横綱は、予想の斜め上を行く??

 


 

 


・・・閲覧注意?!



 

 


非R指定・・・・

 

 

 


ウスイロカギバ幼虫(カギバガ科)

2015年9月23日 芝谷地湿原・秋田

どうだろうか?

 この色と形(静止姿勢)

 表面の濡れた感じ

 未消化の果実の種子?


リアル過ぎて、鳥も人間も、蛾の幼虫とは思わない。

同行した妻と娘も、触って動き出すまでは、
本物の糞だと思い込んでいたようだ。


 ⇒これは、マジでヤバイだろう!!

  

 

 

 

ウスイロカギバ幼虫(カギバガ科)

2015年9月23日 芝谷地湿原・秋田

同属のギンモンカギバ幼虫も、リアルな糞擬態で、
やはり同じウルシ類の葉っぱで見つかる。

ネット情報によると、尾状突起の長さが、
ギンモンは、ウスイロの2倍近くあるので、
この部分を見るだけで、識別は可能のようだ。


この子は、ウスイロカギバ幼虫で間違いないだろう。

 

 

 


ウスイロカギバ幼虫(カギバガ科)

2015年9月23日 芝谷地湿原・秋田

刺激すると、急に身体を伸ばして、
ノロノロと歩きだした。

むしろ、これで動くのか? という感じの虫だ。


 ⇒妻と娘も、ようやく納得したようである。


この格好になっても、小動物の糞のイメージがある。

 

 

それにしても、糞に擬態とは!!!

地面に水平に広がっている大きな葉っぱの上には、
枯れ枝や花の残骸など、色々なものが落ちて来ている。

確かに、その中に紛れ込んでいる鳥のフンのような虫は、
隠蔽的擬態であるような気もするが、
実際には葉っぱの上の鳥の糞は、逆によく目立つのだ。

しかし、餌を探す野鳥類の関心を引くことはないはずだ。

だから、このブログでは、仮に「非食物擬態」と呼んだ。


詳細は、以下の記事をご覧ください。


【隠蔽的擬態の虫は、本当にいるのか???】
 ↓    ↓    ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150210/1/

 

 

【注】南の横綱があるとすれば、やはり・・・

   過去に、ヒトツメカギバという蛾(成虫!!)が、
   交尾することによって、本来の左右対称の蛾の輪郭を消して、
   2匹の重なりで、鳥の糞に見えるという記事を書いた。

   カギバ類は、成虫になっても、鳥の糞に見えるのだ。
   
   興味ある方は、是非、下の元記事をご覧ください。

 
   【これは交尾擬態か? ヒトツメカギバ】
    ↓  ↓  ↓
    http://kamemusi.no-mania.com/Date/20120918/1/

 

    

 

 

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ついに撮れた!! ハイイロセダカモクメ若齢幼虫


秋になって、ヨモギの花が咲き始めると、
ハイイロセダカモクメの幼虫を探す。

私の中に、サーチングイメージが出来ているので、
老熟幼虫は、さりげなく探せば見つかる。

 

ハイイロセダカモクメ終齢幼虫(ヤガ科)

2011年10月11日 だんぶり池・青森

終齢幼虫の姿かたちは、まさにヨモギの花穂だ。

【ハイイロセダカモクメ幼虫 これがミラクル擬態だ!!】
 ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20111007/1/


もちろん、ただ歩いていたのでは、絶対に見つからない。

ゆっくり歩きながら、じっくり探さないと・・・

 

 


こんな感じで、青森県では10月になってから、
普通に探せば、終齢幼虫が見つかるのだが、
いつも疑問に思っていることがある。


 ⇒若齢幼虫って、一体どんな姿なのだろうか?

  ヨモギのどの部分にいるのだろうか?



 


・・・という訳で、

この子の生活史は、完全に分かっているので、
毎年9月になってから、時間がある限り(?)
慎重に、しかも執念深くヨモギを観察した!!!


 ⇒もちろん花穂だけでなく、ときには、
  葉っぱの裏側までも探したのだ。

 

 


しかし、2012年から2014年の9月、
この3年間は、見事に空振りだった・・・

 




 


 ⇒感動の瞬間は、本当にさりげなく、やってきた。

 





 


ハイイロセダカモクメ若齢幼虫(ヤガ科)

2015年9月13日 だんぶり池・青森

ついに、若齢(多分2齢?)幼虫を見つけたのだ!!!!

しかも、じっくり探しているときではない。

普通に歩いていて、ふと立ち止まったときに、
こんな姿が、目に入ったのだ。


 ⇒まあ、偶然とは、こんなものなのだろう。

  創造主の神様は信じていないが、
  運命の神様はいるかもしれない?


だから、いつものように自画自賛はしない!

 

 

 


ハイイロセダカモクメ若齢幼虫(ヤガ科)

2015年9月13日 だんぶり池・青森

最初の写真の終齢幼虫の模様と比較すると、
模様の雰囲気は良く似ているので、
多分同種の若齢幼虫だろうと想像はつく。


 ⇒ネットで幼虫写真を探してみると、
  確認できたものは全て、老熟幼虫のものだ。

 

当然のことだが、サイズ的にも、
ヨモギの花穂に擬態しているとは、とても言えない。


 ⇒逆に言うと、老熟幼虫よりも、
  このような若齢幼虫の方が、
  遥かに見つけやすいのかもしれない。

  むしろ、この縞模様は、目立つタイプだろう。

 

 

 

・・・話はこれで終わらない!!!


慈悲深い運命の神様は、さりげなく、
別の出会いも用意してくれたのだ。

 

 

 

ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)

2015年9月13日 だんぶり池・青森

この写真の真ん中に、3齢(多分?)幼虫がいる。


 ⇒もしかして、この子は4齢幼虫で、
  その上の写真の子は、3齢幼虫かもしれないが・・・


ヨモギの花穂のサイズと比較すると、
最初の終齢幼虫とは、半分程度の大きさだろう。

 

 

 


ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)

2015年9月13日 だんぶり池・青森

一応、終齢(5齢?)幼虫と同じような静止ポーズだが、
身体に赤い部分がまだないのが、ちょっとだけ微笑ましい。


ヨモギの花の蕾(!)に擬態しているのかも??

 

 

キアゲハ幼虫に代表されるように、
チョウ目の若齢幼虫と老熟幼虫では、
見た目がかなり異なる場合がある。

ハイイロセダカモクメ幼虫も、まさに、そんな感じだ。


サイズによって、メインの捕食者の種類が異なるので、
色彩を大きく変化させて、うまく対応しているのだろうか?


まだまだ、不思議がいっぱいの虫たちの世界だ。

 

 

     

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古くて新しい擬態 サティロス型擬態


このブログで何度も紹介してきたように、
昆虫類の体や翅の色や模様、さらにその姿かたちは、
 自然淘汰の結果、現在に至っていると考えられる。

しかし、「ちょっとだけ不思議な虫たち」の世界には、
微妙に意味不明で、しかもリアルな模様も知られている。

 
例えば、多くの虫たちの身体や翅の一部に、
人間や動物を連想させる模様がある場合や、
ODDTYと呼ばれる奇妙な形状の虫たちである。

 
左上: ウンモンスズメ 白岩森林公園・青森(20120721)
右上: コマバシロコブガ 矢立峠・秋田(20140605)
左下: ワモンキシタバ 木賊峠・山梨(20140819)
右下: アトジロシラホシヨトウ 矢立峠・秋田(20140605)


こんな虫たちの身体にある「模様」に関しては、
現代進化論では理解しにくい場合もあって、
比較的あいまいな解釈だけが、一人歩きして来たように思う。

 

 


 前置きが長くなってしまったが・・・

 

 

例えば上の4種の蛾に見られるような、動物を連想する模様について、
ある特別な擬態の概念で、統一的に説明する「衝撃的な本」が、
今年の春、日本でも翻訳・出版された。

 

 なぜ蝶は美しいのか 【新しい視点で解き明かす美しさの秘密】
 フィリップ・ハウス(2015年5月15日初版発行)

 原題: Seeing Butterflies   New Perspectives on Colour, Patterns & Mimicry
       Phillip Howse (2014)


上記の本の中で、博物学者(多分?)である著者は、
鳥類の視覚認知の方法は人間とは異なる という知見から、
多くの虫たちが持っている不思議な模様の存在理由を、
「サティロス型擬態」という 古くて新しい擬態の概念で、
統一的に説明している【注1】

  
 ⇒この大型の本を、最初に手にとったとき、
  見慣れた美しい虫たちの写真が目に入って、
  一般向けの写真集のような印象だった。

  しかし、いざ本文を読んでみると、内容は専門的で、
  なかなか読み応えのある本であることが分かった。

 

著者ハウス氏は、豊富な写真と詳細な観察結果に基いて、
多くの虫たちに見られる「奇妙な模様」の機能を、
実例(写真)を挙げながら、次々と解き明かしていく。


例えば、チョウや蛾の翅の一部には、
鳥類の天敵である猛禽類の頭、くちばし、羽毛、
あるいは、羽や尾の輪郭などの模様がある。

これらの模様は、餌(虫たち)を探す野鳥類の注意を、
ほんの一瞬そらすことができるので、
逃げるための貴重な時間を稼ぐことができるのだ。

 

 

著者は、このような蝶や蛾の翅に見られる様々な模様が、
特定の対象に似せて作ったアイコンのようなものであるとした。

そして、多くの虫たちが、アイコン的な模様を持ち、
それを見る捕食者に、両義的な印象を与える場合を、
ギリシャ神話の人間にも山羊にも見えるサティロスにちなんで、
サティロス型擬態と名付けたのだ【注2】


しかも、その模様は対象の完全に似せる必要はなく、
別の生物の存在を示唆するのに十分な特徴さえあれば、
例えば、目玉の模様だけでこと足りるのである。

 

 


本文では、沢山のサティロス型擬態の例が挙げられている。

(一部を和訳原文のまま記載すると)、
多くの昆虫類に見られる動物の模様には、
クモ、動物の頭や目、毒ガエル、コウモリ、タカの羽、毒ヤスデなど、
人間に恐怖を覚えさせるものが沢山ある。

こんな模様があるのを、(昆虫分類学者以外の)人たちが、
どうして気付かなかったのか?・・・と著者は言う。

 

実は、その明確な回答が、ハウス氏には用意されていたのだ。


一般的に、人間の視覚認知の方法は、
まず見た目の全体像から対象を判断する。

一方、鳥の場合は、全体像よりも、
それぞれの部分部分を過去の記憶と一致させて、
対象を判断する傾向が強いことが分かってきたのだ。


 ⇒人間は、虫を見つけても、まず姿かたちを見て、
  それが蝶なのか、蛾なのかを判断するので、
  個々の模様に目を向ける必要がなかった。

  しかし、鳥の場合は、見つけた虫について、
  餌としての危険度を、一瞬で判定する必要があり、
  まず個々の模様に、素早く目が行ってしまうのだ。


ハウス氏は、この人間と鳥の視覚認知に必要とされる時間について、
次のように比較・例示している。

詳細は、本を見てもらうとして、
人間の場合には、視覚に入ったものに気付いてから、
様々なプロセスを経て、最終的に対象を判断するまでに、
最低でも約1秒ほどの時間が必要なのだが、
鳥の場合には、その半分の時間で素早く確認できる。

このような鳥たちの視覚認知方式では、
彼らが、必死に食べ物を探しているとき、
蛾の翅にあるネコの顔のような模様や、
フクロウの目のような眼状紋を、まず注視するのだ。

もちろん、小動物を餌とするネコやフクロウは、
多くの野鳥類にとって、怖い怖い天敵であり、
虫たちの身体にそんな模様を見つけた鳥たちは、
ほんの一瞬だけ、捕獲行動を躊躇するのだ。


この一瞬の躊躇を引き起こすような翅の模様こそが、
新しい概念の『サティロス型擬態』であり、
捕食者の捕獲行動の何割か(全てではない!)を、
失敗に終わらせてしまう機能を持つ。


 ⇒捕食者を騙して、攻撃を躊躇させるような戦略は、
  生存上の有利さが、ごく僅かしかないかもしれない。

  しかし、ちょっとでも生存の機会が増えれば、
  自然淘汰は十分に働き、集団内に広まっていくのだ。

 


という訳で、虫たちに見られる一見奇妙な模様は、
多くの鳥たちに対して、捕食者を連想させるという、
(実は、従来の考え方と全く同じなのだが!)
効力を持つからこそ、自然淘汰で進化してきたのだ。


ただ、著書によれば、(多分必然的に!!)
例示した目玉模様や動物の顔以外にも、
シジミチョウの尾状突起やヒョウモンチョウの豹紋、
 金属光沢やODDITY、さらには警戒色も、
みんなサティロス型擬態の範疇に入ってしまう。

 虫たちの身体にある野鳥類を驚かせるような模様であれば、
最後の砦(?)である標識的擬態までもが、
サティロス型擬態の概念で、説明出来てしまう可能性もあるのだ。

だから、個人的には「範囲を広げ過ぎだのかな?」とも感じる【注3】


 ⇒本文の中で例示された写真の中には、
  サティロス型擬態を持ち出さなくても、
  おそらくこれまでの理論枠の中で、
  十分説明可能なものをあるからだ。



とは言え、鳥と人間との視覚認知の違いは確実にありそうだし、
我々には理解不能だった蝶や蛾の翅の模様に関しては、
サテュロス型擬態の概念で十分納得できるものである。

しかも、現時点で、それ以外に代替説明のない多くの翅の模様を、
ひとまとめに説明できることが、十分に魅力的な考え方だと思う。

もちろん、サティロス型擬態は、まだ仮説の段階だし、
おそらく専門学会での評価もこれからだとは思うが・・・

 

 


以上で、この本の簡単な紹介は終わるのだが、
最後にもうひとつだけ、個人的な感想を、
この記事の中に書いておきたい。


実は、ハウス氏のこの著書を読んで、一番衝撃を受けたのは、
サティロス型擬態そのものの概念ではない。

その裏付けとなった「鳥類の視覚認知システム」が、
人間の場合とは異なるという点だ。



今まではこのブログで、特に探索行動中の野鳥類は、
もともとかなり臆病だとか、
両目の位置から遠近感が分かりにくいとか、

餌探索にはサーチング・イメージが重要だとか、
初見の奇妙なものは食べないとか、
色々な理由を付けて、虫たちの模様の機能について考察してきた。


ところが今回、鳥類の視覚認知システムが違うという一言で、
これまでの全て(?)の疑問点が、一気に解決してしまったのだ。



確かに、親鳥が巣の中のヒナに餌を与える目印が黄色い嘴とか、
孵化後に最初に見る動くものを親鳥と認識する刷り込み現象とか、
鳥類に見られる独特の視覚認知法は、有名な話ではあった。

しかし、一般論として、餌の探索まで含めたそのような話(?)は、
私自身はこれまで聞いたことがなかった。

  ⇒もちろん、私が知らなかっただけで、鳥類学者の間では、
  ずっと昔から知られていたことなのかもしれないが・・・

 


このサティロス型擬態については、別の機会に、
改めて実例を挙げながら紹介したいと思う。

 

 


【注1】本文では、明確な時期は明記されていなかったと思うが、
       実は、サティロス型擬態という概念・用語は、
    半世紀も前に、同じ著者らによって提出されていたようで、
    最後の原注の欄に、以下の論文が記載されている。

    Howse, P.E. & J.A.Allen (1963) Proc.R.Soc.Lond.B, 257,111-114
       Satyric mimicry: the evolution of apparent imperfection.

    だからこのブログのタイトルも、古くて新しい~~、としたのだ。

    私自身が確認することはできないのだが、最近の知見で、
    鳥類の視覚認識システムが人間とは違うという裏付けがあって、
    この擬態の概念が、再評価されつつあるのだと思う。

 

【注2】ネット情報によると、ギリシャ神話のサティロスは、
    身体の大部分は人間であるが、
    馬の尾、とがった耳、小さな角(ツノ)、
    山羊の足、巨大な陽物を持つとされる。
   
    著者は、
    昆虫の翅に他の生き物の部位が、
    移し入れられているものは、一種の擬態と見ることができ、
    それをわたしは「サティロス型擬態」と名付けました
    と明確に述べている。

    ただ、これは個人的な感想であるのだが、
    チョウや蛾の翅の一部にある(アイコン的な?)模様に、
    擬態という用語を使うのは、多少の違和感がある。

    目立たせる擬態(Mimicry)の範疇なのだろうが・・・

 

【注3】著者ハウス氏自身は、以下のように明確に述べている。

    食物連鎖における捕食・被食関係を、
    連続したスペクトルにたとえるとすれば、
    その全ての帯域に対応する擬態を考える上で、
    サティロス型擬態と言う概念は役立ちます。
    (以上、和訳原文のまま)

    う~ん、範囲を広げ過ぎたというより、
    擬態そのものの定義も再考すべきなのか・・・

 




 追記(20015年10月1日)

サティロス型擬態の具体的なイメージ・写真を、
数回に分けて、記事にしました。


以下のページから、順にご覧ください。

【サティロス型擬態① ヨナグニサン】
 ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20151001/1/

   

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再びミラクル擬態!! セスジスカシバ発見


久しぶりの白岩森林公園。

いつの間にか・・・今はもう秋emojiemoji


8月も下旬になると、北国では、もう秋の雰囲気だ。

 

 

林道脇の下草に、ミラクル擬態の典型、セスジスカシバがいた。


 ⇒今回、特に探したわけでもないが、
  この時期になると、さりげなく出会うことが出来る。

 

 

 

セスジスカシバ(スカシバガ科)

2015年8月25日 白岩森林公園・青森

何と、雄と雌が並んで静止中。


 ⇒やっぱり2匹のハチだよ、この子たちは!!

 

 

 

 

・・・そして、こんなところにも!

 

 


セスジスカシバ(スカシバガ科)

2015年8月25日 白岩森林公園・青森

この写真を見て、何人の人(と野鳥類!)が、蛾だと思うのか?


 ⇒どう見ても、獲物を探すスズメバチだ。

 

 

 


・・・さらに、今回の目玉!!!!

 

 

セスジスカシバ(スカシバガ科)

2015年8月25日 白岩森林公園・青森

雄の背後に、(音もなく?)接近する雌。


 ⇒普通は、逆だろ!!

 

この後、数分の間さりげなく観察したが、
幸か不幸か、何事(?)も起こらなかった。

 

 

 


セスジスカシバ(スカシバガ科)

2015年8月25日 白岩森林公園・青森

さすがに、ここまで接近して撮ると、
蛾であることが、何となく分かってしまう。


 ⇒でも、ここまで接近して獲物を、
  再確認する捕食者は、多分いない!!!

 

 

ハチにベイツ擬態する虫は、結構沢山いる。

種として多いのは、アブの仲間だろう。

もともと、体型が良く似ているので、
そんなに苦労(?)しなくても、
このブログでも何回か紹介したように、立派な擬態となる。


【ハチのようなアブ】
 ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20121125/1/ 

 

でも、セスジスカシバは蛾なのだ。

 


2年前に同じ場所で撮った写真。


セスジスカシバ(スカシバガ科)

2013年9月4日 白岩森林公園・青森

スズメバチが飛んでいる?????

 

 

しかし、もっとすごいスカシバもいる。

撮った場所は違うが、ついでなので、もう一度!!!

 


キタスカシバ(スカシバガ科)

2013年6月7日 東海村・茨

スズメバチが交尾している?????


同じスカシバガ科の2種の蛾が、
同じように、スズメバチにミラクル擬態しても、
微妙に異なる似せかたなのが、
個人的には、かなり興味深い部分でもある。


もちろん、スカシバの仲間は、程度の差はあるものの、
多くがスズメバチに擬態しているのだが、
多分、上記2種ほどのミラクル擬態ではないようだ。

 

こちらの記事もどうぞ。

ハチに擬態する蛾 スカシバ類4種発見!!
↓   ↓   ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20130917/1/

 

      

 

 

拍手[17回]