サティロス型擬態① ヨナグニサンとヘビ
飛びながら獲物を探すことができる野鳥類の視覚は、
人間よりも遥かに鋭いと言われている。
餌となる虫(のようなもの?)を見つけたときに、
それが食べても安全なのかどうかを、
瞬時に判断しなければならないからだ。
ただ、鳥の視覚が鋭いとは言っても、
人間とは異なるシステムで、対象物を認知していることが、
最近になって分かってきた。
このことと並行して、特に虫たちの不思議な模様についても、
サティロス型擬態という概念が注目を浴びるようになって、
その存在意味が、徐々に解明されつつある。
⇒微妙な書き方をしてしまったが、
この記事をお読みいただく前に、
以下の記事を、是非ご覧ください。
【古くて新しい擬態 サティロス型擬態】
↓ ↓ ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150913/1/
簡単に言うと、
人間の視覚による認知方式(?)は、
とりあえず、視覚に入る全体像から対象を判断するが、
鳥の場合は、全体像よりも、一瞬の注目すべき部分を、
過去の記憶と一致させ、対象を判断する傾向が強い、
と言うことなのだと思う。
鳥たちのこのような視覚認知システムでは、
彼らが、必死に食べ物を探しているとき、
蛾の翅にあるネコやフクロウの顔のような模様を、
(この模様をサティロス型擬態と呼ぶのだが、)
まず(拡大して?)注視してしまう。
その結果として、素早く認知した模様が、
自分の天敵を連想させるものであった場合に、
当然のこととして、その虫を捕獲するのが、
一瞬だけ遅れてしまうのだ。
⇒この状況は、逃げる方(虫たち)にとっては、
生死をかけた瞬間になるのだろう。
以下は、その具体例である。
まず、ヨナグニサンの写真を、ご覧ください。
マニア以外の人間が、普通に見ると、
大きな蛾だなと思う程度なんだろうが・・・
ヨナグニサン(ヤママユガ科)
2003年4月5日 与那国島・沖縄
これは、もう10年以上前の写真であるが、
このときの感動は、今でも忘れない(ちょっと大袈裟!!)。
言うまでもなく、ヨナグニサンは、
与那国島に生息する世界最大級(!)の蛾だ。
過去に、飼育品の実物をどこかで見たことがあったが、
この子はまさに、野生のヨナグニサンなのだ。
しかも、羽化直後の、新鮮な個体・・・
見つけた時には、同行の友人二人も、
しばらく声が出なかったほどの迫力であった。
⇒当時の記憶をたどってみると、
その大きさばかりに気をとられて、
前翅の先端のヘビの模様には、
大きな関心を持つことはなかった。
こんなヨナグミサンは、野鳥類の視覚認知方式では、
一体、どんな風に見えてしまうのだろうか?
同じ写真を、トリミングしてみた。
葉っぱの影になってる部分は、こんなにリアルだ!!!
もしかしたら、本物のヘビと比較して、
サイズ的には、全くヒケをとらないだろう。
明るい右側のヘビの方が、ちょっとだけ強調される???
これこそが、サティロス型擬態の典型(?)なのだ。
⇒確かに、少なくとも人間3名は、まず全体像を見て、
その大きさに圧倒されただけだったのだが、
鳥が見ると、「そうか、ヘビなんだ!」
と、思うしかない・・・・
下は、本物のヘビの写真である。
我々人間もあまり注視することはないと思うのだが、
ヨナグニサンの前翅先端部のの模様と、微妙に良く似ている。
シマヘビ(ナミヘビ科)
2011年9月26日 小泉潟公園・秋田
小鳥たちの多くは、(多分)自分の卵やヒナがいる巣に向かって、
恐ろしいヘビが近づいてくるのを、経験しているはずだ。
だから、蛇のような姿を、瞬間的に見た場合、
どんなに恐怖心を掻き立てられるのか、十分想像できる【注】。
⇒おそらく、多くの小鳥たちは、
ヘビのような模様に対して、
必要以上に敏感に反応してしまうのだろう。
逆に言うと、臆病な野鳥類に対して、
一瞬の判断ミスを起こさせるのが、
目につきやすい模様が、「サティロス型擬態」なのだ。
しかも、その模様は、完全に対象を再現する必要はない。
人間がマジマジと見ると、
「何でこんな不完全なものが?」
と、長い間生物学者を困らせてきた問題が、
野鳥類の切羽詰まった状況から推察すると、
おそらく、それで十分な機能を果たすのだ。
・・・次回は、姿かたち全体が動物に見える例です。
【注】別の言い方をすると、鳥の場合は「心の目」によって、
怖い怖いヘビやフクロウの姿などが図式化され、
それに当てはめながら対象を認識している。
空を飛びながら獲物を探す野鳥類は、
虫のようなもの(?)を見つけたときに、
それが、本当に餌である虫なのか、
あるいは、恐ろしい天敵の動物なのかを、
瞬時に判断しなければならない。
そのとっさの判断基準は、目の焦点を合わせ、
じっくり観察できる全体像ではなく、
瞬間的に目に入った天敵の姿(の模様)なのだ。