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ちょっとだけ、不思議な昆虫の世界

さりげなく撮った昆虫のデジカメ写真が、整理がつかないほど沢山あります。 その中から、ちょっとだけ不思議だなぁ~と思ったものを、順不同で紹介していきます。     従来のブログのように、毎日の日記風にはなっていませんので、お好きなカテゴリーから選んでご覧ください。 写真はクリックすると大きくなります。   

ハチに擬態する蛾 ヒメクロホウジャク

ヒメクロホウジャクという蛾がいる。
秋になると、よく見かけるスズメガの仲間だ。

昨年12月10日に、「不思議な空中吸蜜」で、
紹介した「ハチのような蛾」である。


まずは、下の写真をご覧ください。

 

ヒメクロホウジャク(スズメガ科)
 
2010年11月7日 宮城・長者原SA

よく似た仲間に、有名なオオスカシバという蛾がいる。
白状すれば、私も最初は間違えた。

よく見ると、翅が透明ではない!!!
オオスカカシバは、名前のとおり(透かし翅)、
翅が透明である。

ヒメクロホウジャクは、よく見ると翅に模様がある。
しかし、ハチのように激しく翅を動かすので(?)、
鱗粉はないらしい。

 


ヒメクロホウジャク(スズメガ科)
 
2010年11月7日 宮城・長者原SA

よく見ると、鳥のような顔をしているが、
頭には、触角がはっきり写っている。

翅を激しく動かして飛びまわる姿は、
スズメバチのように見える。

 


ヒメクロホウジャク(スズメガ科)
 
2010年11月7日 宮城・長者原SA

昔は、こんな写真は、プロかカメラマニアしか撮れなかった。
しかし、最近のカメラは素晴らしい。

連射機能が付いていて、シャッターを押している間、
カシャ、カシャ、カシャ・・・と、
連続的に、勝手に撮り続けることができる。

 
 

ヒメクロホウジャク(スズメガ科)
 
2010年11月7日 宮城・長者原SA

当然、このような無駄な写真をたくさん撮ることになるが、
いらないショットは、後で、削除すればよい。

そこは、デジカメの最も得意とする(?)ところである。

 


ヒメクロホウジャク(スズメガ科)
 
2010年11月7日 宮城・長者原SA

多分、日本一有名な「昆虫カメラマン」である海野さんも
基本的には、同じやり方だと思う。

昔は、赤外線センサーを使ったりして、
飛翔昆虫のシャッターチャンスを、自動化したとも聞く。

デジカメの連射機能が、昆虫写真の世界を変えた?!?!

ただ、まじめに聞くと、海野さんに怒られるかもしれないが・・・

 


次回、同じ頃によく見られる別の蛾:ホシホウジャクについて、
紹介する予定であるが、こちらは、さらに不思議である

 

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ハチに擬態する蛾(だんぶり池)

だんぶり池にも、昼間飛ぶ蛾はたくさんいる。

多くの蛾は、通常は夜に活動するのに、
何故、ほんの一部の蛾が昼間飛ぶのだろうか?


以下の5種は、その理由が、
何とかわかるような気がするが・・・

 

 

セスジスカシバ(スカシバガ科)
 
2010年9月2日 だんぶり池・青森

かなり注意して見ないと大型のアシナガバチと間違える。
ベーツ型擬態の好例である。

だんぶり池では、この個体のみに出会ったが、
当然、モデルとなったアシナガバチ類は、
この数百倍は生息しているはずである。

このモデルと擬態者の個体数比率が、
ベーツ型擬態が機能(?)するための条件である。

 
 

コスカシバ(スカシバガ科)
 
2010年7月27日 だんぶり池・青森

注意して見ないと、ハナバチの仲間と間違える。
これも、ベーツ型擬態の好例である。

当然のことながら、だんぶり池では、
モデルとなったハナバチ類の個体数は、
コスカシバよりかなり多いと推定される。

 


カノコガ(カノコガ科)
 
2010年7月21日 だんぶり池・青森

少し注意して見ないと、ハナバチの仲間と間違える。
これも、ベーツ型擬態の好例である。

だんぶり池では、比較的個体数は多いようである。
しかし、モデルとなったハナバチ類の個体数は、
それより多いと推定される。

 


トンボエダシャク(シャクガ科)
 
2010年8月1日 だんぶり池・青森

注意して見れば、蛾だと分かる。
これを、ベーツ型擬態とするかは微妙である。

胴体がややハチに似ているが、
翅が透明でない分、ちょっと不利である。

 


クロマイコモドキ(マルハキバガ科)
 
2010年7月20日 だんぶり池・青森

ちょっとだけ注意して見れば、蛾だと分かる。
これを、ベーツ型擬態とするかは微妙である。

どう見ても、金色に輝く小さな美しい蛾である。
何故、こんな名前がついたのかと調べてみると、
色彩変異がかなり大きいらしい。

もしかすると、標本になると金色が黒っぽくなるのか?



いずれにしても、普通に歩いてみただけで、
こんなに擬態の例が見つかる。

さすが、「ちょっとだけ不思議な昆虫の世界」である。

 

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目玉模様の進化【4】

昨日の【3】を、先にお読みください。

これまでのことを踏まえて、もう一度、目玉模様の進化について考えてみよう。


多くの生物は「見慣れないものを本能的に避ける」傾向がある。

今まで見てきたような同心円状の模様が、彼らの生活圏の中では、
本来は存在しにくいものであったと考えられていた。

しかし、最近の研究の成果として、驚くべきことに、
チョウの翅の目玉模様とハエの脚をつくる遺伝子が、
同じであることが解明されたそうである。

ハエの脚の構造をよく見ると、同心円の真ん中を、
引っ張って持ち上げたような構造になっているらしい。

二次元の同心円が目玉模様、三次元になると脚になるというわけである。


したがって、生物の模様でよく見られる同心円状の模様は、
発生学的に、予想以上に簡単に出来やすいものだったのだろう。

そして、眼に似ている模様が、ある種の蛾の翅に、偶然できたとしよう。

このようなコントラストのはっきりした斑紋は、
スズメバチに見られる「黄色と黒のストライプ」と同様に、
自然状態では、かなり目立つ。

クスサンやアケビコノハの例のように、最初は、飛び立つ寸前に、
普段隠れている鮮やかな模様が、突然見えるだけだった。

この場合は、もちろん捕食者の過去の嫌な経験は無関係であり、
単なる見慣れないものが、突然目の前に現れただけだった。

それを、捕食者の方で、勝手に(?)驚いて、
さらに、そこに見えている、ふたつ並んだ同心円状の模様を、
過去に嫌な経験をしたフクロウの眼と、(勝手に)思い込んだのである。

そして、その目玉模様が、捕食者を躊躇させる効果は予想外に大きく
さらに、精巧でリアルな目玉模様へと進化していったのだろう。


また、一方では、ジャノメチョウやアオタテハモドキに見られるような
比較的小さな目玉模様を見た小鳥は、
今度は全く別に、相手に致命傷を与えるかのように、
胴体から離れた目玉(模様)に向かって、攻撃を仕掛けるのである。

同じような目玉模様を見て、捕食者の方が、勝手に解釈して、
まったく相反する「恐怖心」か「攻撃性」の
どちらか一方
を、解発するのである。

 


ここで、もう一枚のチョウの写真をご覧ください。


クジャクチョウ(タテハチョウ科)

2010年7月15日 だんぶり池・青森

左右対称の目玉模様を持つクジャクチョウである。
この場合は、捕食者が勝手に解釈すると、一体どう見えるのだろうか?

ジャノメチョウのように、小鳥の攻撃をそこに向けさせるのか?
それにしては、ちょっと胴体に近くないか?

上の写真をよく見ると、フクロウの眼に見えないこともない。
ジャノメチョウやアオタテハモドキの眼状紋と比較して、
明らかに大きく、しかも左右対称に配置されているからだ。

クジャクチョウが、花などの蜜を吸うときに、
他のタテハチョウの仲間とおなじように、ときどき翅を開閉する。
これは明らかに、目玉模様を、チラチラ見せるような行動である。


クジャクチョウ(タテハチョウ科)

2009年8月24日 野付半島・北海道

どうも、この場合は、クスサンのように、目玉模様で、
小鳥を驚かせているとも考えられる。

つまり、クジャクチョウの場合には、
ひとつ(ふたつ?)の目玉模様が、それを見る方の解釈によって、
全く違った効果を持っている可能性がある。

しかし、「可能性がある」とか、何とか言ってるのは、
全く第3者の人間である。

当事者の捕食者(小鳥?)が見ると、
一体どっちに見えるのだろうか?

まさに、これが、城田博士の言うところの
捕食者の無意味なものに意味を見い出す能力
によって、目玉模様が進化してきた証しなのかもしれない。


さすがに、「ちょっとだけ不思議な昆虫の世界」である。

 
 

ここで、ひとつ訂正があります。

今回、同心円状の目玉模様は、
「発生学的に比較的できやすい」と、
何度も強調してきました。

大変失礼いたしました。

マンガチックなアケビコノハ君を、すっかり忘れていました。
この子の目玉模様は、発生学的に作りやすい「同心円状」ではありません。
この子の名誉のため、もう一度、見てやってください。


アケビコノハ幼虫(ヤガ科)

2010年10月8日 弘前市・青森

 

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目玉模様の進化【3】

昨日の【2】を、先にお読みください。

主として昼間活動するチョウの場合は、どうだろうか?

まず、タテハチョウやジャノメチョウの仲間にも、
以下の写真に見られるように、いわゆる目玉模様を、
翅の一部に持っている種類がいる。


ヒメウラナミジャノメ(ジャノメチョウ科)

2010年8月11日 田沢湖・秋田

ジャノメチョウの仲間は、やや日陰になった林道に多く、
あまり目立たない色彩が特徴でもある。

しかし、蛾の持つ目玉模様と比較して、決定的な違いがある。

 

オオヒカゲ(ジャノメチョウ科)

2010年8月8日 長者原SA・宮城

ジャノメチョウ類の持つ目玉模様は、
比較的小さく、翅の淵に沿って2個以上存在し、
いわゆる一対の眼のようには、なっていない場合が多い。



アオタテハモドキ(タテハチョウ科)

1999年6月21日 石垣島・沖縄

これは、沖縄で普通に見られるタテハチョウの仲間であるが、
その目玉模様は、常に見えている状態になっている。

これでは、【1】で述べたように、突然見せつけて、
外敵をビックリさせる効果は、まず期待できないだろう。



タテハモドキ(タテハチョウ科)

1999年6月21日 石垣島・沖縄

ほぼ、同じ場所に生息するタテハチョウの仲間である。

このタテハモドキは、目玉模様の大きさや配置が、
それまでの3種と比較して、やや微妙である。


このように、一見すると眼のように見える模様が、
実際に、捕食者が獲物と見なして攻撃態勢に入ったときに
フクロウやヘビの眼に見えているかについては、
より詳細な観察が必要である。


ただ、一方で、これらの目玉模様の機能については、
別の見方をすることもできる。

ほとんどのジャノメチョウ類が、
翅の淵に沿って持っている数個の小さな目玉模様は、
小鳥を驚かすことはなく、逆に、小鳥がついばむ行動を、
そこに向けさせる役割
を持つと言われている。

静止しているジャノメチョウを見つけた小鳥が、
急所である胴体から離れた翅のヘリにある目玉模様を、
一番最初についばんだとき、
ジャノメチョウは、わずかな翅の損傷を残して、
その場から飛んで逃げることができるのである。


(これ、本当だろうか?)


学生時代、チョウを捕虫網で華麗に採集して、ふと見ると、
翅の周辺部からクサビ型に破損している個体がいる。

チョウを採集したことのある人なら、
誰でも経験しているはずである。

それらの破損は、左右対称に認められることが多く、
ビーク・マーク(beak mark)と呼ばれている。

これが、小鳥が目玉模様に向かって攻撃(ついばむ)する証拠とされている。

しかし、この状況証拠は、翅を閉じて静止しているチョウを、
背後から小鳥が攻撃
していることを示しており、
このことに対して、疑問を持つ専門家もいるようである。



いずれにしても、目玉模様に関する議論には、
常に微妙な問題が付きまとう。

昆虫類の持つ眼状紋の進化および実際の防御効果に関しては、
我が家のすぐ近く(車で5分程)にあるのだが、
弘前大学におられる城田安幸博士の研究が有名である。

おそらく、進化を実験室内で再現しようとする日本で最初の取り組みであった。

城田博士は、主にカイコを用いて眼状紋の進化に関する実験的研究を行い、
目玉模様が進化する可能性を、以下のように述べている。

目玉模様のような過度にまで発達した適応色彩の現象は、
それを進化させた捕食者の知覚判断における
『無意味なものに意味を見い出す能力』によって、
説明できる場合が多い。

これは正当な指摘であると思う。

目玉模様とか擬態とかいうと、どうしても、
役者(信号発信者)に目が行きがちであるが、多くの場合、
観客(信号受信者)の方から見た方が、混乱は少ないと思うからである。

実験の手法および考察については、
是非、城田博士の著書【仮面性の進化論:海鳴社】をご覧ください。

捕食者(小鳥)が、予想以上に個性的であることを発見し、
目玉模様のあるカイコを人工的に作り出す試みや、
当時としては斬新なコンピューターシュミレーションの採用等、
とにかく、進化とは何だろうかという問いに答えるため、
非常にユニークな手法で、研究された結果が、分かりやすく解説されています。


(つづく)
↓  ↓  ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/74/
 

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目玉模様の進化【2】

昨日の【1】から先にお読みください。

昨年12月24日に紹介したアケビコノハ成虫の場合も、
クスサンとよく似た行動が観察される。
 

下の写真のように、アケビコノハの成虫は、通常の静止状態のときは、
典型的な隠蔽的擬態である「枯れ葉模様の前翅」が見える。

 
2010年11月27日 三春PA

ところが、外敵に襲われたり、危険を感じたりして、
飛び立つ寸前に、前翅を広げると、
普段は見えない鮮やかなオレンジ色の後翅の表面が表れ、
そこにある(やや不完全な目玉模様)を、外敵に見せつけることになる。

 

 
2010年11月27日 三春PA

でも、そのときの写真をよく見ると、
突然前翅を広げて、目玉模様を見せたというよりも、
ただ単にその場から逃げようとして、(翅を広げて)、
飛び立っただけである。

アケビコノハの場合も、クスサンと同様に、
逃げようとして飛び立つ寸前には、
後翅にある鮮やかな模様が、嫌でも見えてしまうのである。

 

捕食者に限らず、多くの生物は、
突然目の前に鮮やかな色をしたものが飛び出すと、
かなり驚くことは、半世紀も前に、
ブレスト博士の有名な実験で証明されている。

博士は、被食者のそばに、突然色々な模様が表れるような装置を作り、
とても目玉には見えないような「四角」や「十字形」の模様でも、
捕食者(鳥)の攻撃を避ける頻度は、模様がない場合に比べて、
十分に下がることを確かめた。

つまり、目玉模様でなくても、何らかの模様が突然目の前に出てくると、
ほんの一瞬でも捕食行動を躊躇させることができるのである。
 

このように、捕食者が、『えっ!? 何これ?』と、
攻撃するのを一瞬ためらうことで、
被食者は、そのすきに、現場から逃げ出すことができるのは、
以前述べた、「カメムシの匂いのビックリ効果」と全く同じである。
 


しかし、残念ながら、目玉模様もカメムシの匂いも、
両方とも、それだけでは、絶対的な防御効果はない。

鳥は、同じようなイメージの餌を食べ続ける傾向があり、
目玉模様をもった『他に防御手段を持たない味の良い幼虫』が、
目玉模様に恐怖心のない(ヘビやフクロウなどに遭遇したことのない)鳥に、
一度食べられてしまうと、【目玉模様の幼虫 = 餌】という関係が成立して、
逆に「よく目立つ目玉模様は、おいしい餌」として認識されてしまう。

だから、他に防御手段を持たない(味の悪くない)蛾が行う
『突然翅を広げて、後翅にある目玉模様を見せる』
という行動が進化する条件は、かなり微妙である。

 


以前紹介したように、ベイツ型擬態が成り立つ条件のひとつである、
モデルと擬態者の数の問題とも関係するが、
捕食者が最初に食べるのが、「擬態者」か「モデル」かによって、
その後の状況は、異なってくるはずである。

したがって、ベイツ型擬態の場合には、
擬態者の個体数がモデルより、かなり少ないという条件は、必須であった。

さらに、防御手段を持たない擬態者が生き残っていくには、
捕食者がモデル種を攻撃したときに経験した恐怖心(!)を、
いつまでも覚えていることが前提である。



目玉模様の場合も、全く同じことが考えられる。

というか、わずか数年の寿命の小鳥たちが、自然状態で、
フクロウやヘビに襲われて、しかも、(その怖い経験をしただけで)、
生き残っている確率は、どの程度なのだろうか?

これでは、小鳥が生まれて最初に出会うのが、
フクロウかクスサンかによって、
クスサンの運命は、大きく異なってしまうのか・・・


話が、ちょっとややこしくなってきた?!


(つづく)
↓  ↓  ↓
http://kamemusi.no-mania.com/Entry/73/

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